小学校 2

 太田千尋君、4年2組。


 おとなしい性格で1,2年生の時は友達もできずにクラスで孤立していた。いじめなどあったわけではなく、引っ込み思案な性格が災いして特別親しい友人ができなかったそうだ。当時の担任の話によると、時々大きな声で当時流行っていた芸人のギャグを叫んだりしていた。彼なりの精一杯のコミュニケーションだったのだろうが、これが逆効果となり、ますます浮いた存在になったという。


 そんな彼の前に現れたのが、藤井修斗君だ。彼との出会いは同じクラスになった3年生の時だ。三年生になってすぐに、太田君は今年こそは友達を作ろうと、授業中に渾身のボケをかました。当然のように滑り、クラスの空気が重くなっていった。そんな時、藤井君が太田君の肩を軽く小突いた。


「何いってんだよバカ!地球に謝れ!」


 それは太田君が真似していた芸人のギャグにいつも相方がするツッコミだ。するとクラスが笑いに包まれていった。太田は思わず興奮して立ち上がった。その時の顔を片桐は今でも覚えているという。



「太田君は初めて友達ができたと思ったんでしょうね」


 片桐は空になったグラスの氷をストローでかき回しながらルミ子に事のいきさつについて説明をしていた。その音はカラカラと、虚しく店内に鳴り響いていた。


「だけど、その藤井が太田君をいじめていた主犯じゃないかってアンタは疑っているのね」

 

「すごい、そんな事もわかるんだ。ルミ子がいたら太田君も死なずに済んだかもしれないね」


「何言ってんのよ、皮肉にもなってないわよ。馬鹿なこと言うんじゃないよ片桐。アタシはアンタのこと親友だと思っているからこそ、アンタが何を言いたいのかわかるだけよ。人を超能力者みたいに言いなさんな」


「そだね、ごめん。じゃあ、続けるね」


 藤井君はいつもクラスの中心、人気者的な存在だった。最初の方こそ太田君のギャグを的確に突っ込んだりしてたんだけど、だんだん面倒くさくなってきたんでしょうね。次第に無視するようになっていったの。藤井君は友達がたくさんいたから、かまっている暇もなかったんでしょうね。だけど太田君にとっては初めての友達だし、唯一の友達だからしつこく藤井くんに絡んだりしたみたい。

 ある時、空気を読まずにくだらないことをする太田君に藤井君はついカッとなって、突き飛ばしてしまったの。勢いよく転ぶ太田君を見て心配する藤井君に、太田君は鼻血を出しながら変顔でピースをしたの。それを見て藤井君や周りの子達も大爆笑。その時私も教室にいたから慌てて太田君を保健室に連れて行ったの。


「先生、僕とっても嬉しい、藤井君が、みんなが笑ってくれたんだ」


 この日から、藤井君は、太田君に暴力を振るうようになったわ。太田君もそれを受け入れていた。みんな、笑うから。 

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