第59話
美那と龍之介が公園で遊んでいる。俺とユリがシートに座り二人を見守っている。ブランコに乗った龍之介を後ろから押している美那。鉄棒では美那が逆上がりの練習している。また砂場では龍之介がお城を作っていた。ユリが二人に
(お弁当、食べますよ)と声を掛けていた。
(はーい)二人が仲良く走って来る。
(お父さんも食べよう)美那に話しかけられた。
(お父さん、ご飯食べないの?)龍之介が俺に聞いた。
(お父さん…お父さん…)聞こえるよ、龍之介。どうした、そんなに大きな声で呼んで。ここに居るじゃないか。段々と声が大きく聞こえる。
「お父さん、お父さん、大丈夫?」龍之介が俺を揺らしていた。俺は夢を見ていた。
「…龍之介…。」龍之介が心配そうな顔で俺を見つめていた。直ぐに先生が来た。
「里中さん、大丈夫ですか?」俺の胸に聴診器を当てている。先生の声が段々、遠くに聞こえてきた。俺の周りで看護婦さん達が忙しそうに動いている。みんな、どうしたんだ?俺は今、とっても幸せな夢を見ていたのに。家族が楽しくピクニックしている夢なんだよ。美那と龍之介が小学生の時に行った思い出の公園だ。何故、みんな邪魔するんだよ。俺は夢の続きを見ようと目を閉じた。
芝生に龍之介と寝転び雲を見ながら、
(あの雲はソフトクリームみたいだよ)
(あっちは野球のバットみたいだ)なんて言ってると美那が走ってきて、俺のお腹の上に乗ってきた。
(美那、重たいよ)
(美那はそんなに太ってないよ)と口を尖らせた。美那の不貞腐れた顔が可笑しくて龍之介と笑った。あはははっ。楽しいな。美那が俺の手を引いて
(お父さん、あっちで遊ぼう)
(分かった。龍之介も一緒に行こう)
(龍之介はダメ)美那が頑なに拒んだ。美那の怒った顔が怖くて龍之介が泣き出した。そんな龍之介をユリが抱きしめていた。龍之介が泣きながら俺を呼んでいた。
「お父さん!お父さん!起きて!」薄目を開けた。龍之介の泣き顔が見えた。俺の口には酸素が付けられていた。周りでは先生と看護師さんがいっぱい居た。しかも忙しそうだ。先生が龍之介に何か話してる。それを聞いた龍之介が驚きと悔しそうな顔になった。先生、俺にも聞かせてくれ。段々、意識が遠のいていくのが分かった。俺はもうダメなのか?死ぬのか?ユリと龍之介を残して…。無念だ。最後に龍之介に話さなければと、手で龍之介の手を触った。俺の手に気が付いた龍之介が
「お父さん、何?」俺の耳元で囁いた。俺は声を振り絞った。
「…龍之介…ごめんな…父さん病気に勝てなかった…ごめんな…嫌かもしれないが母さんの事…頼む…龍之介ならきっと母さんとまた仲良くやれると思ってる…お前は優しいから…優しい子に育ててくれたのは母さんだから…」
「そんな事言わないでくれ!お父さん、お父さん!死なないでよ!」大粒の涙を流し、俺の手を握っていた。最後の力を振り絞り、龍之介の手を握り返した。薄れる意識の中で美那が呼んでいる声が聞こえた。
(お父さん、行こう)公園の真ん中で俺は美那に引っ張られた。振り返ると、ユリは俺達を見つめながら動かない。ユリの隣で龍之介は大泣きしている。俺は美那と一緒に二人から離れていく。どんどん離れていった。遠く離れたそこはとても暖かい。居心地がとても良い。美那と一緒だから、お父さんは幸せだよ。
そして、俺は二度と目を開ける事はなかった。
完
崩壊 tonko @tonko1970
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます