ブルーローズ 後編
次の夜会で、決行することにした。
青い薔薇を黒髪に差したローズは、シャンデリアの大広間へ飛び込む。
途端に無数の男たちが顔を向け、光に引き寄せられる蛾のように歩み寄ってきた。
野暮ったいローズは、青白い頬を赤らめ、怯え、うつむき、震え、押し黙っていた。
にもかかわらず、見つめて来る男たちの瞳は、情熱的な炎を宿している。婉曲に、あるいは直接に、愛さえ示した。ローズの関心を、あの手この手で向けさせようと。
ついこの前まで彼らからちやほやされていた、快活な娘たちは、壁に寄り集まって、ローズへ敵意の視線を向けていた。
カビ臭い古城は、連日女城主の信奉者たちで賑わっていた。
軋む椅子に背を丸めて座る、真っ青な薔薇を髪にさした、青白く骨張った娘を口説くのに夢中だ。
誰も彼も熱っぽい目で、ダイヤのネックレスだの、金の耳飾りだの、シルクのスカーフだのを捧げた。
みなが帰った後、書庫の床には、本のほかに、男たちから贈られた金銀財宝やシルクが、無造作に打ち捨てられていた。
髪を解いたローズはひとり、その上に寝転ぶ。髪から引き抜いた神秘の青い薔薇をかざし、見つめた。
淡い光を帯びた青い花弁が、はらはらと頬に落ちる。
あっけないほど簡単だった。望みのとおり、世界中のすべての男が、狂おしいほど愛を捧げてくれた。世界中のすべての女が、羨望と嫉妬のまなざしを向けた。一挙一動にみなが狂乱した。ローズは女王となった。
が、胸にぽっかりと空洞が空いている。
彼らはローズを愛しているのではなく、この魔性の薔薇の力に操られているに過ぎない。
やっぱり、自分は誰からも愛されていないんじゃないか。
瞳に涙が滲んだ。
書庫の隅に置いた鉢に、青い薔薇が咲いている。あと一本だけ。ほかは手折り、全て枯れた。
青い薔薇なしでは、自分を愛してくれない男たちや、それに頼るしか愛されるすべのない自分が、ひどく恨めしい。
真実の愛は、永遠に手に入らない。
ある晩、古城には行列ができていた。男たちが青い薔薇の女王から届いた手紙により、呼び出されていたのだ。内気な彼女から手紙が来るなど珍しい。
手紙には、三日月の晩、書庫にいる自分に会いにきてほしいと書いてあった。
みなが我先にと、古城の階段を駆け上がった。
城の奥の書庫の扉をひらくと、黒髪を解いた真っ青なローズが、本と財宝の上に、仰向けで倒れていた。
骨ばった青い左手首からは、真紅の鮮血が飛び散っている。右手に握られた銀のナイフで切ったようだ。
ローズの周囲には、淡い光を帯びた青い薔薇の花弁が散らばっていた。
男たちは一瞬沈黙し、それから狂ったように泣き叫びはじめた。みなが女王を失った悲しみに耐えきれず、次々に左手を鋭利なもので刺しだした。
のちにその古城をおとずれた人は、ほこりをかぶったからっぽの部屋で、淡い光を帯びた大輪の青い薔薇が、床にひとつだけ落ちているのを見たという。
ブルーローズ Meg @MegMiki34
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