第7話 夏至~半夏生のタコパ、但しタコ焼…
「…どうしてそう、極端なんだ…」
「え?何が、ですか?」
「確か、先々週は梅尽くしだったよな」
「はい、そうでしたね。あの時はヒロカワさん、うちに泊まって…」
「おっと、その話は置いといて…私が言いたいのはだなぁ、ん~~~」
人の家にお邪魔して、あまつさえ夕食までご馳走になっているというのに苦言を言うなどと、
文句ではない、地球人からのアドバイスなのだ。
「この前の梅尽くしは、良いアイデアだったと思う。だが人によっては梅が苦手な者もいる。なので客に馳走を振る舞う時は、ある程度食材の種類を揃えた方が無難かな。いや、ケチを付けるわけじゃあない、私は充分満足させて貰った、ありがとう」
「ヒロカワさんからご丁寧に助言とお礼を言われるなんて、嬉しくて踊ってしまいそうです!」
そのくらいで、踊るな!!
「だーかーらー、私が言いたいのは…」
「大丈夫、分かってますよ。でも、今日ってそういう日なのでしょう?」
「そういう?何の日だ?」
「え?また私、何か勘違いしちゃいました?」
「いや、よく分からん。で、何の日だ?」
「え~、もしかしてご存知ないのですか、ヒロカワさんっ!今日7月2日は半夏生ですよ、は・ん・げ・しょ・う!」
「はんげしょう…おお、半夏生か、蛸を喰う日か!!」
本来は、田植えを終わらせて休息を取る日だそうな。農家の人に怒られるぞ…
「確かに今日は風習的に蛸を食す日で間違ってはいないぞ、オオゾラさん。だがね、メニューを全てタコ料理にしなくても、いいんじゃね?」
「今日はヒロカワさん、なんか厳しくないですか?家に来た時から少し、機嫌が悪いような…」
ああ、機嫌悪いともさぁ。
前回ここを訪れた時、驚愕の事実を知らされた。なので、次行く時は何がなんでもオオゾラ邸へのルートを確認したい、と意気込んで来たのに・・・
ま た や ら れ た !
いつもの通り、例の公園の辺りでオオゾラさんが
「あ、ヒロカワさん、今何時ですか?」
「お、ちょっと待ってな、スマホスマホ…と、今は…」
「あ、もういいです、ヒロカワさん。着きました」
ショートコントかよ!!何故、油断したのだ自分…
ってな感じで、またもやはぐらかされたのだった。怒りと言うよりは、もやっとしてスッキリしない感じが何か心地悪くて、斜め45°のご機嫌具合なのだ。そこにきてこの、タコだらけの献立である。
いや、本当に間違ってはいないんだよ、オオゾラさん。ただ、このコンボは嫌がらせを受けていると思われても仕方ないよ、と
「さっきも言ったように、もし蛸が苦手な人がいたとすれば、このラインナップではまずかろう…いや、料理が不味いって意味ではなく…何事もバランスというものが、う~ん…」
イマイチ歯切れの悪い物言いになってしまうのは、決してオオゾラさんが悪気があってしている事ではないのが分かりきってるからだ。寧ろ、物凄く好意的な気を感じる。ここは大人しく半夏生に蛸を食す、としますか。
先ずは酢の物から。胡瓜・ワカメ・
次は刺し身。と言っても生ではなく、軽く湯通ししたややレアな状態を、わさび醤油で頂く。薄切りにされた半透明の蛸は程好く弾力があり、柔らかく食べやすい。普通の魚の刺し身のような華やかさは無いが、堅実で真面目な旨さで飽きが来ない。
本日の飲み物はキリッと冷えた純米吟醸の冷酒である。この酒は、米の旨味とフルーティーな飲みやすさのバランスが素晴らしく、淡白な蛸料理にはピッタリだ。1つ難を言うとすれば、飲み過ぎてベロベロになりそうな所、だな。
「ところでヒロカワさん、1つこの蛸についてお伺いしたいのですが」
「むぐむぐ…なんだ、言ってみ?」
甘辛く煮付けられたタコの足を咀嚼しながら聞く。
「海の生き物と聞いたのですが、空も飛ぶそうですね。どのような構造をしている生物なのか、気になります」
ぐっっっ!!タコがっ、喉にッ!!
「げ、げほっ…急に変なボケかまさないでくれますかねえ、オオゾラさん!」
地球人を代表して丁寧に説明をしておいた。蛸と凧の違いを。
「その様なレジャーがあるんですか。とても楽しそうですね、是非一緒にやりましょう!」
「断るッ!」
「何故断るのじゃ、儂も
いやお婆様、貴女の場合揚がろうとする凧を、叩き落とす気まんまんではないんですかい?
「ゴホン。あのですね、凧揚げというのはですね、今から半年後の正月にする遊びなのですよ。これから益々暑くなるのに、屋外でその様な事を為さると、熱中症で倒れてしまいますよ」
「なんじゃ、つまらんのう」
「それでは、お正月にやりましょう。それなら問題ないですよね、ヒロカワさん」
「分かった、正月に、な」
コロコロと興味が移り変わる
凧揚げはおあずけになりましたが、蛸の揚げ物は沢山ありますよ、と大皿にいっぱいの蛸の天ぷらと唐揚げが食卓に来た。
少し酔いが回ってきたので、飲み物をビールに変える。熱々の揚げ物との相性は抜群だ。
天ぷらはすりおろした大根と生姜の入った天つゆでいただく。柔らかく揚げられた蛸の淡白な旨味と相まって、リピートが止まらない。
天ぷらよりやや小振りなサイズの唐揚げの方も、サクサクと香ばしく揚がっていてウマい。こちらは檸檬を絞って頂くもよし、好みでマヨネーズを付けてもよし。
まあ何時もの事だが、かなり酒が入っている筈なのにビールが進むこと、進むこと!
「オオゾラさん、すまんな前言撤回!このラインナップなら、よっぽどの蛸嫌いじゃあ無い限り、大満足だよ」
「そうですか、それは何よりです」
「いやホント食材縛りの献立ってのも、なかなか面白いものだな、と」
「お婆様、聞きましたか!?ヒロカワさん、ついにデレましたよ!!」
「ほう、これがよく聞く“つんでれ”とか云うやつ、なのかのう!」
おいおい、少し褒めただけでツンデレ呼ばわりですかい!
「そろそろシメにしますね。ご飯が炊き上がったようです」
ご飯?てっきり、シメはたこ焼きでタコパ~!とか、やり始めるのかと思ったが、意外だったな。
どんっ!と、土鍋が置かれる。ふわっと出汁のきいた香ばしい匂いが鼻に届いて食欲をそそる。今さっき、揚げ物をシコタマ食べたばかりなのに。
茶碗に山盛りよそわれたそれは、綺麗なピンク色の炊き込み御飯であった。
「オオゾラさん、これは?」
「蛸の炊き込みご飯です。地方によっては、たこ飯と呼ばれているらしいですよ」
蛸をメインに細切りにした人参のみが入った、シンプルな具で構成されている。ほんのりと出汁を効かせてはいるが、醤油・酒・味醂と味付けもシンプルにしてあるようだ。ちゃんとお焦げの部分も入れてくれている、いや~ありがたい。
クセの少ないあっさりとした味の中に、蛸の風味が広がる。が、意外と主張してくる。これは蛸にしか出せない旨さなのだ、と。
「うん、うまい!いいシメのご飯だな。そしてどれも蛸の良さが出てたメニューで、何食っても美味かったぞ」
「それは良かったです。次はどうしましょうか。ヒロカワさん、何かリクエストありますか?」
「そうだな…う~ん、今は思い付かないから、考えておこうかな」
始めは散々物申しておきながら、結局は感謝で締める。本当、こうゆうトコだぞ、自分…と反省しておこう。
「そういえば、今回タコ焼きはメニューに入れなかったんだな。ま、和食で綺麗に統一されてたもんな~、ンなジャンキーなモン入れないよな」
「ヒロカワさん、タコ焼きって何です?」
「ああ、タコ焼きってのはこう…」
自分では作った事ないので、簡単に説明しておいた。
「それ知ってます、こちらの書物で何度も見た気がします!ああしまった、気付かなかった!!」
「お前さんとも或ろうものが、何たる失態じゃ!残念じゃのう」
「いや、そんなに大袈裟にならなくても …」
「いいえ、ヒロカワさん!また来週…いや、明日しましょう、明日!」
「な、何を!?」
「決まってるじゃあないですか、タコ焼きパーティーですよ!!さあ、今から会議をしましょう!」
「な、何の!?」
「決まってるじゃあないですか、材料をどうするかですよ!私知っているんですよ、色々なバリエーションが有るって事を。トッピング、タレ、そして具材も蛸以外の物を入れても良いんですよね、確か」
くそぅ、余計な事を言わなければよかった…ここはさっさと家に帰るしかない!
「オオゾラさん、そろそろお
「何を
「お前さん、儂は冷酒に戻ろうかの。さあさあ、おぬしも呑みなされ」
「さあさあヒロカワさん、今日も泊まっていけばいいじゃないですか。ゆっくり呑みながら語り合いましょう!」
ホント、
そ う ゆ う と こ だ ぞ !
あの人とこの星を眺めた夜に始まった出来事 胡蝶花流 道反 @shaga-dh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あの人とこの星を眺めた夜に始まった出来事の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます