第5話おまけ
本日のミッションは、この島で行う。
裏ルートを駆使して手に入れた運転免許証と車(それでも戸籍及び偽経歴よりは楽に入手出来た)で30分かけて着いた港からフェリーでさらに30分。乗客は目的が同じであろう、似たり寄ったりの格好をした釣り人が多数居る。皆、マナーが良いのか仲間意識の連帯感か、目が合うと笑顔で会釈してくれる。中には話し掛けて来る者も。
「こんにちは、今日はいい釣り日和ですね」
お孫さんと思しき男の子を連れたご年配の方だ。
「こんにちは。お互い、沢山釣れるといいですね」
と言いつつ、実は知っている。今日この島で大漁が約束されている事を。おじいちゃんいっぱい釣れるといいね、と希望に満ちた笑顔で言う男の子を微笑ましく眺める。
島に着くと今回の現場…釣りをする為の砂浜に向かった。
海水温は13、4℃、潮も程好く調整しておいた。ダミーの方の月…こちらの人達にとっては本物の月…の影響力を借りれば造作もない事。まあ、そこまで大掛かりな事をしなくても方法は幾らでもあるのだが、それは好ましく無い事と
なるべく人が居ない場所を、と探すが皆さん良く分かってらっしゃる、今日が狙い目だと。この後も人が増える事態を考慮して場所取りをする。
本物の海で魚を釣るという行為は初めてだが、何倍も重いもっと厄介なモノを散々吊ってきたのだ。難易度はかなり低くなってるはずなのだが、やはり慣れというものが必要な様だ。5連でこしらえた仕掛けに目当ての物は2尾しか掛かってない。まだこちらの生物に詳しくないので、もう少し頑張らねば。
回数を重ねる毎に、上達してきたようだ。白く輝く細長い魚が次々釣れ、あっという間にノルマを達成出来た。主にも満足して頂けるに違いない。何故だかあの方はこちらに来られてから海の物が好まれる様になってしまわれた。敵対勢力に…まだ正体が
任務を無事遂行したので、お昼御飯の時間にしようか。大きく三角に握ったおむすび3つといくつかのおかず。先ずはおむすびを1つ。ほぐした鮭と白ゴマを混ぜ込んである。鮭の丁度良い塩加減と白ゴマの香ばしさがいい組み合わせだ。
次にホウレン草のお浸しに箸をのばした。出汁醤油で味付けしておかかで和えてある。私もカモフラージュの為に、ある生物の遺伝子を混ぜられてからは野菜を非常に好む様になってしまった。自分で調理した茄子の挟み揚げ、南瓜の煮物、それとにんじんしりしり…は、主からの差し入れだった。刃物を扱う腕が落ちるといけない等という物騒な理由から料理をライフワークにされている。
2つ目に取ったおむすびは梅干しを具に海苔で巻いてあるタイプ。おかずの味がまだ残っている所に酸味が加わり、また次のおかずへといきたくなる。定番の卵焼きは砂糖を入れて甘めに仕上げたやつだ。ミートボールはレトルトだがなかなか美味い。
最後のおむすびは具に昆布の佃煮が入っている。熱い煎茶と供に昼食の締めを味わうのは良いものだ…が、次からは飲み物は冷たいものにしよう。
「おさかな、たくさん釣れましたか?」
フェリーで会った、お爺さんに連れられていた男の子に声を掛けられた。ぼーっとしている所に突然だったので、久しぶりにびっくりさせられた。いかんいかん、こちらに来てから平和すぎて気が抜けているかな。あまり抜き過ぎるとあの方同様、動物形態になってしまうので気を付けねば。
「クーラーボックスの中、見てみるかい?」
折角声を掛けて貰ったので、本日の成果を披露した。
「わあ、すごいですね!キスがいっぱい」
「君も沢山釣れたのかな?」
「うん、僕もおじいちゃんもいっぱい釣れたよ!見せてあげる、こっち来て!」
少し離れた場所を釣り場にしていたらしく、孫の姿を確認した祖父が手を振っているのが見える。男の子はそちらへ向かって駆け出し、こう言った。
「おじいちゃーん、うさぎのおじいさんに見せてあげてよ、僕らの釣ったやつ~!」
気を抜いた所を見られてしまったらしい…ははは…本日のミッション、ややミス有り、80点ってとこかな?
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