第1話その後

「ところでコレ、どうすんだよ!」

 はらはらと桜の花びらが舞う中、天ぷらをいただきながら奴に問うた。

つぼみだらけの桜の木が一晩で満開になりました、とか誰が見たって怪しいだろ!!」

「大丈夫ですよ、妖精さんとか妖怪さんとかが一晩で色々とやってくれる事があるのでしょう、この星では」

「おい、何処でそんなおかしな知識を仕入れたんだよ…じゃなくって、マジでどう落とし前つけんだよ!」

「意外と人は身近な事に気付かないもんですよ、まあそう気になさらずに。飲み物も食べ物も沢山用意しているので、どうぞどうぞ」

 いや、この辺毎日通ってる人なら誰でも気付くだろ、と思ったが反論するのは止めた。取り敢えず飲食を再開したかったからだ。

 さっき食った筍の天ぷらめっちゃ美味かったぞ。独特のえぐ味と甘さと柔らかい歯応え、この時期限定の若い筍の味だ。

 次はこれ、タラの芽か?うん、くせは少ないが特有の風味が春を感じさせる、まさしくそうだ。揚げ物はビールが進むな。

 山菜尽くしが続くと、次は蕗の薹ふきのとうとか食いたいな~…ってもうこの時期は無いか…

「こういう物もありますよ、如何ですか?」

 小さめのタッパーに入った鶯色うぐいすいろの、見るからに酒の宛的なブツ…一口頂いてみる。苦い、物凄く苦い。だがそれがいい、冬の寒さに鈍っていた細胞をガツンと起こしてくれるパンチの効いた苦味。これはもしや!!

「ふうきみそ!?」

「よくご存知でしたね。沢山採れたので、作って置いたものです」

 にっこりと例の笑顔でタイミングを見計らった様に出されると、何か心を読まれたような居心地悪さを感じる。ま、有難いけど、さ。

「お前な…ってか、お互い名乗って無かったな。自分ヒロカワってんだ、宜しく」

「どうも、ヒロカワさん。オオゾラです。…で、正しいアイサツはこの後攻撃を加えるんでしたよね?」

「加えねーよ!!だから、何処で仕入れてんだよトンチキな情報…じゃなくて、オオゾラさ…ん?オオゾラって普通に日本人の名前みたいじゃねーか。もっとさあ、フースーヤとかゴルベーザとかじゃないんかい!!」

「フースー…そういうお名前の方は知人にはいないですね」

「いや、そこは気にしないでくれ…」

 もっと他に気にすべき事が…知り合って間もない赤の他人に秘密を色々語りまくってるとかは問題無いのだろうか。

「そう心配なさらずに。ほら、月も元通りになりましたし」

「え゛、今何てった?月がどうしたって?」

「月の光を増幅させるために、一時的にだけ満月になってもらいました。このピンポイントの座標でしか観測出来ない現象ですので、問題ありませんよ」

「あっっったりまえだ、ンな天変地異レベルを全国規模とか、マジ勘弁してくれ。てか、今日って満月じゃなかったのかよ」

「本日は月齢18ですので満月は3日前でしたよ。あ、このかき揚げ絶品なので、是非食べて下さい」

「何だコレ、めっちゃ甘い!!」

「新玉ねぎとサクラエビだけで作ってあるので、さっと揚げただけで十分美味しく仕上がるんです。隣の緑のは春菊です。スナック感覚でどうぞ」

「おお、サクサクと幾らでもイケる!!ビールもう一本、頂きます!」

 揚げてあるので春菊臭さが和らぎ、軽い食感がいい意味でスナック菓子っぽくなっている。もうすでに何缶目なのか分からないビールを開けてぷはぁーと喉を潤した。おいおい、明日仕事なんだがな。

 こいつが月から来たとか、公園の桜が急成長したとか、そんな事はもうどうでもいい。満月に満開の桜というなかなか見る事のない光景を拝みながら、季節の美味い物を肴に酒をたらふく飲めるという、夢のような時間を過ごせたのだ。

 はらはら、はらはらと桜舞う中2人、まったりと静かな宴を続けるのであった。明日二日酔いの酷い状態で出勤せねばならぬ現実は、一先ず忘れようぜ、と・・・

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