第22話
今日の更新の話を、間違って昨日更新してしまったけど、
毎日更新すると宣言した手前、更新を頑張ってしまった作者の作品を、
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「わかった……。では、手はず通りに……」
1羽の
女のいる場所は、日当たりの良い王宮の中庭だった。
テーブルには優雅なティーセット。適温の紅茶からは芳しい香気が上っている。机の上には可愛いリボンをモチーフにした三段重ねのハイティースタンドが聳え、色とりどりお菓子が並んでいた。
やや少女趣味が入ったティーセットだが、その前でお茶の時間を楽しんでいたのは、妙齢の女性である。
紫色でまとめたロングドレスを着て、長く細い足を組みながら、カップを皿に戻す。
カップの縁には、血のような赤い口紅が残っていた。
「ふふふ……。整ったわ」
ステルノ・ヴィクトール・ドラガルドは薄く微笑んだ。
他の王子王女が『マスク』の予告状を受けて、離宮で警備に就いている中、ステルノだけが王宮に留まっている。
さぞ周囲から見れば、奇異に映ったかもしれないが、別にステルノだけ警備の任務から外されたわけではない。
ただ――
ステルノにとって、次期王位などどうでも良いことだった。誰が玉座に着こうと、ステルノはステルノらしく、今と変わらず傍若無人に振る舞える自信があった。
どんな王になっても、自分であれば王以上に振る舞うことができると信じているからである。
あわよくば、その王を乗っ取ることも……。
しかし、1つステルノにも誤算があった。
ライハルトの存在だ。
文武に長け、柔軟な発想を持ち、周りから神童と謳われ、慕われてきた弟。
それでも、自分ならばと勝てると思っていたが、結果ステルノは惨敗した。
あの日、あの夜……。
ライハルトの別荘で弟を詰問した時、見事にかわされてしまった。
周りからすれば、他愛もない姉弟間の争いごとと思われがちだろう。しかし、ステルノはショックだった。雨の日に傘も差さず、濡れて帰るぐらいに……。
ステルノは気付く。
自分がこれまで誰とも勝負をしてこなかったことを……。
本能的にライハルトを避けていた自分を……。
冗談じゃない……!
あの雨の日にステルノは誓った。
ライハルトに復讐すると。それは実に子どもじみた理由であるが、初めてプライドが傷付けられたステルノにとっては、重要なことであった。
ステルノはすべての作戦を見直し、ライハルトの目的を見抜き、場を整えた。
予告状を送ったのも自分である。
そして奴隷の取引を行われる場所をリークしたのも自分だ。
離宮と取引場所は2つ。
今度は3つ。『マスク』が2人、いや3人いるというなら、3人とも『マスク』に出てきてもらえばいい。
その3人とも根こそぎ捕らえてしまえばいいのだ。
「いえ……。ライハルト、あなたなら絶対に離宮に向かうはず。エニクランド陛下に真意を問うでしょう。あなたはとても優しい子。家族、それも父のことであるなら、絶対に人に任せないはず」
ついにステルノは紅茶を飲み干すと、席を立った。薄い桃色のパラソルから離れると、強い日差しが彼女を襲う。
全身を紫や黒でまとめた彼女の姿は、まさにドラガルド王国に巣くう影にふさわしい。
「さて、そろそろ私も参りましょうか? きっと私が離宮に着く頃、ライハルトちゃんは泣いて困っているだろうから」
ついにステルノ・ヴィクトール・ドラガルドもまた運命の地へと向かうのだった。
◆◇◆ ライハルト 視点 ◆◇◆
三族会議は離宮外にある庭で行われていた。
庭と一口に言っても、その広さはちょっとした動物保護区並みの広さがある。
中には池というよりは、湖と称してもいいぐらいの
このすべてを人間に作らせたのだから、驚きだ。魔法文化が発展しているからだろう。
その池泉には湖畔から1本張りだした石造りの桟橋があり、その先には柱と天井だけの建物がある。
国際会議並みの重要な会合にもかかわらず、そんな開放的な場所で行われるのには、3者がいずれも密室を好まないからだ。
クローズドされた場所では何が起こるかわからないというのである。
そもそも密室ならば、こんなところで会合するよりも、王宮でやる方が遥かに効率的だろう。
王宮はドラ族の支配圏内。そのため、他の2族が良しとしなかった経緯もある。
けれど、他にも警備上のメリットが存在する。会議が行われる建物に行くには、池泉を船で渡る以外に、桟橋を通るしかない。
池泉は見晴らしがよく、接近してくるものがいれば、山からの狙撃も可能。基本的に桟橋を守っていれば、誰も入る事はできないのだ。
『マスク』からの予告状があった今、いつもの倍の警備兵が立っている。まさに鼠一匹たりとも、三族会議の舞台となる建物には近づけないはずだ。
桟橋の前はグラトニア兄様の私兵が固め、俺は池泉の西側、アンナが東、そしてデロフがもっとも遠い北側の守りに就く。
さらに離宮の外にもガル族やルドー族の兵を含む警備隊が、目を光らせていた。
「この警備では、いくら『マスク』といえど、侵入などできますまい」
俺の直属の部下である警備担当が豪快に笑う。
若干浅慮なところもあるが、勝負強く、また粘り強い。警備担当としてはかなり優秀だ。
「相手は貴族の屋敷の警備を突破した強者だ。それも1つや2つじゃない。油断してはいけないよ」
「はっ! 肝に銘じます」
警備兵たちは自らを戒める。
そのやる気を頼もしく思う一方で、俺は「そろそろか」と呟く。
そして、その予言は密かに当たった。
かすかだが遠くで音がする。
直後、離宮の南と北で黒い煙が上った。
しばし様子を見ると、グラトニア兄王子の
『ライハルト、様子を見てきてくれないか?』
使い魔からグラトニアの声が聞こえる。
「構いませんが、ここに留まった方がいいのでは? 陽動の可能性も……」
『なるほど。確かにな』
少し熱を帯びていたグラトニアの言葉が平常に戻る。俺に言われて、やっと気付いたらしい。
だが、2本の黒い煙は現場を騒がせるには十分だったようだ。
『何??』
「どうしました?」
『デロフが持ち場を離れたらしい。戻るように説得しているが』
デロフか。つくづく予想通りに動いてくれるな。
「他の兄妹たちにも自重するように、兄上から言って下さい」
『お前はどうする?』
「俺はデロフお兄様を説得してきます。警備隊ここに残すので、ご安心下さい」
『わかった。すまないが、頼む。全くデロフの奴め……』
珍しく悪態を残し、グラトニアの使い魔は離れて行った。
俺はすぐさま、振り返る。
「というわけだ。他の者は持ち場に戻ってくれ」
「わかりました。どうかお気を付けて」
警備兵たちは頭を下げる。
俺は軽く手を振ると、足先に風が渦巻いた。
飛行魔法を完成させると、一気に空へと跳び上がる。
そのまま北へと、デロフを追いかけることにした。
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