家族旅行。

一番下の娘が5歳に成った頃ペルブルグの温泉に家族旅行する事にした。


この頃にはペルブルグへは年に1回の視察と成っていて、掘り当てた温泉にも小さな宿が一軒出来ていた。


一月前の視察で予約しておいたのだ。

温泉地としては格段にシャッセが良いが、土産品に難が有るのだ。

ウェステラさんはそれを聞いて大笑いしていた。

子供達は皆キョトンとしていたが、あの人形は見せられない。

精巧過ぎて僕と分かるからだ。

セーラー服にミニスカート・・・そして、ご丁寧に脛毛もバッチリだ。


弁解はしておくが本当に必死だったんだから。

危うく死ぬ処だったし。

そんなに笑わなくても良いと思う。


そんな訳で今回はペルブルグの秘湯に行く。

本当に何も無いし、料理も特別な物も無い。

湯治場的な温泉宿なのだ。


だがしかし、ペルブルグ自体にはここ数年寄る人が増えている。

それはペルブルグの教会で、年に数人農耕の加護を貰った人が出たからだけど、あれ実はメイテルの加護だったりする。

この時初めて人でも加護を与えられると知った。

それと同時にメイテルは神クラスの人間で有ると認識した。



全くとんでもない人材をメイテルの国は流失させたものだ。

神様はわざとやってるよね。

だってクロエって僕がイヅモヤで調べなければ分からない。



あの鉱山トンネルを間違えて突き抜けさせて良かった。

人が通れるだけのトンネルだけど、今は拡張工事を行っているようだ。

灯りが無いので冒険者か鉱山関係者くらいしか利用されていないが、将来は馬車も通れる様にしたいらしい。

そんな未完成の暗いトンネルを1人で歩いて来たのは凄い。

おそらく生活魔法程度の薄暗い灯りでだ。

彼女は豊穣の護符以外は生活魔法程度しか使えなかったからね。

それでも冒険者に成ったのは生きる為だったと言った。

家は継げないし、技能も無い。

しかも天恵がクロエなんて、この世界では通じない言葉だから仕方無い。


色々考えていたら温泉宿の上空に達したので、ゆっくりゆっくり降りて行く。

流石に温泉宿の中居さんみたいな人がびっくりしてた。


「どんな具合です経営は」

「ぼちぼちです」

中居さんは答えた。

大阪弁の[ぼちぼちでんな]とは違い、本当にぼちぼちなのだろう。


「建物増えましたね」

「ええ時折団体様もいらっしゃいますから」

「成る程」

知らない内に一軒増えていた。

中居さんと話ながら僕は温泉の水脈が他に無いか探していた。

・・・鉱泉と真水の水脈なら近くに有るな。

沸かせば鉱泉も温泉に出来るが、燃料確保が難しいので諦める。

まあ水量はここは問題無いしね。


中居さんに促されて旅館に入って、軽く案内を受け部屋に入った。

「あら、良い部屋ね。それに何これ?」

「これは畳だね」

「お父さんタタミって何?」

「特定の植物を編んで重ねて床板の上に敷いたものだよ。湿度を調整する効果が有るんだ」

「湿度?」

「うん、夏のジメジメとか、冬の乾燥とかが調整出来ると、涼しさや暖かさに繋がるんだ。それに安眠効果や鎮静効果が有るから、気持ちが落ち着いて集中力も出るんだよ」

「へえ~・・・良くわかんな~い」

うんうん、難しいね。

イヅモヤの説明書きそのままだし。

そう、特別にこの部屋は僕が頼んで設えていただいた。

勿論畳は僕の自前と言うか、神様の自前のイヅモヤで買った。



お風呂を堪能して食事をしたら、子供達はお眠だ。

僕は一人で薄暗く成った外へ出て、気になった鉱泉の水脈へと向かった。

何の鉱泉かな?。

地中深く探査してみる。

ここら辺かなあ。

「鑑定!」

・・・・・。

「あっ!・・・これ・・・炭酸水」

ラドンや他の天然放射性物質は無い。

鉱泉として飲料に適さないものも無い。

単純炭酸泉だ。

しかも井戸水と同じで冷たい。


慎重にこっそりと土魔法を使い土管を通した。

さてと、「貫通!」手動ポンプを設置した井戸に溢れる炭酸泉。

「よっしゃ、完了~っと」

おおお、シュワシュワ、アーノルド・シュワルツェネッガーではねえべか。



畳とお布団の朝。

あ~安らぐ。

温泉の朝飯・・・う~ん。

美味しいけどパンとスープ。

子供達もウェステラさんも僕を見ている。

(出して)感が半端ない。

皆の一膳分ご飯と味噌汁とそして、だよねだよね、生卵!。

5人でかっ込む卵かけご飯はサイコー。

中居さんが来る前にそっと収納した。


そして朝風呂そして、炭酸水。

「なっ、何でこんな所に井戸が?」

「すいません。昨夜作りました」

「えっ?、うち井戸有りますよ」

「いえこれは鉱泉です」

「鉱泉って、温泉の成分の」

「はい、ですがこれは冷泉で、しかも単純炭酸泉です」

「あー暖かいと美容にいいのに」

流石温泉宿の中居さん良くご存じで。

「冷泉の炭酸水は使い道が一杯有るのです」

「そうなんですか?」

「はい、幸いに飲料に適してました」

「炭酸泉を飲むんですか?」


僕はコップにベリー果汁と炭酸泉を注いで中居さんに渡した。

「さっ、ぐいっと」

ゴク、ゴク。

「へえ~、爽やか」

「でしょでしょ、梅酒も試して下さい」

僕は薄目の梅酒サワーにして中居さんに渡す。

ゴク、ゴク。

これは薄目ですけど、お酒に合いますね。

「はい仕事中なので薄目にしましたけど、焼酎・ウヰスキー・その他果汁にも合いますよ。どうでしょう名物の一つに」

「支配人に相談してみます。有り難う御座います」



その日は家族で薩摩芋掘りをした。



そして二日目の夜を過ごして帰宅する。

船の中で「どうでした衛士の皆さんは」と聞いてみた。

「いやあ、スッキリするね」

「二日目のあのブドウジュースは何だろうね。こう、シュワシュワっと」


また何かしら名物でも考えよう。

ぼちぼちあの地が発展すればいいや。

「セーラー饅頭ってどう」

末っ子が悪気無く言う。


「勘弁してくれー」











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白い海のカルム 日前みかん @hikumamikan

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