カナークと言う町へ。

今年の夏は少し暑かった。

今は空は高く澄んだ青だ。

鱗雲が南の半分を綺麗に流れていく。

清々しい風が実に心地よい。

今日はカナークと言う町へ行く事に成った。


シャッセの奥から連なる山脈はこの国をぐるりと囲っている。

途切れているのは東の端で、少し低めの千メートル級の山地から、二三百のメートルの小高い山を経て海に繋がる。

藤鯱様の管轄からもイワレ様の管轄からも外れ、新しい神様の管轄地らしいよ。

と、シャッセを管轄している神様が教えてくれたので、少し興味がてらに行ってみる事にしたのだ。

う~ん蜥蜴の神様名前が思い出せない。

まあよく有る事だ。


内陸だが気候的にはうちの村と似たり寄ったりだそうだ。

神様の名前はルナシャ様と言うらしい。

蜥蜴の神様もどんな特性の加護持ちなのかは知らないとか。

ただ可愛らしい神様っておしゃってたなあ。

1年の間に二柱(ふたはしら)の神様が交代するのは、かなり珍しいとイワレ様は言ってた。

それは短くても五百年は在任するらしいからだ。

その五百年しか在任しなかったのがシャッセの元神だ。


カルパロン山脈は南が最も高く、シャッセの辺りから徐々に低く成って行き、東のモンテの手前で切れる。

西はアザールの町より少し南西で切れている。

カルパロン山脈が徐々に標高を下げ始めるのを、遠くから眺められる位置にカナークは有るらしい。

『あやつはワシを美味しそうに見るから嫌だ』

ハクタ神が呟いた。

あっ、そうだこの方ハクタ神だ。

『ん、何か言ったか?』

「なっ何でも無いです」

美味しそうって、・・・蜥蜴食べれるの?。

『何かお主から邪気が感じ取れるが気のせいか?』

「それはもう、ゼータイ気のせいです。はい」


何の変哲も無い、普通の町や村が点在するルナシャ神の管轄地は、マーチン公爵領エニフグ村にも劣らぬ田舎だった。

あっ、ここは町だからエニフグより大きいよ。

勿論峠を越えたうちの村(エニフグ)の隣町より大きかった。少しだけど。

遥か遠くの山地はインペリアルタイガーを追った山かなあ?。

わからんけど。


衛士さん3人(内一人は魔法衛士)と何故かアベック一組を連れてカナークの町へ到着。

宿では僕を挟んで衛士さんとアベックが隣合わせだ。

アベックさん夜はお静かにね。

四姉妹の四女と村の若者のアベックは見聞を広める為に来た。

・・・本当かなあ。


魔物なんてカルパロン山脈か遠くの山地に行かないと居ないけど、野生動物は丘陵地帯や森にいるので猟師は居ますよ。

一人の衛士さんが教えてくれた。

この人は三女の(将来の旦那様)だ。

この辺りの出らしい。

そんな平地の多い土地柄で、穀物生産地としては国一番だ。

その為外周のカルパロン山脈に平行しての街道は外環と言われる。

そこから延長された本街道は、穀物運搬の馬車が通るため、幅は広く整備が行き届いている。

脇街道もかなり整備されているし、カナーク規模の町が点在する為全人口も、この国では一番多い地域だ。

つまりそれなりに経済規模の大きい地域と成る。


山脈沿いに外環街道が有るんだ。


呟きが漏れたらしく。

「王様のくせに知らないの?」

「あっ、まあ。あはは」

四女は容赦無いなあ。

「モンテからアザールへは海路が有名だけど、各地へ商品を卸して回るのには陸路も必要でしょ。だから外環は重要な街道なのよ。そこからの各地主幹道もね。外環街道には冒険者も多いのよ」

朝食の席で四女に教えられた。


「観光的には何も無いなあ」


河は木材や石材運搬に、その他は高低差が殆ど無い陸路が望ましいと衛士さんが言ってた。


「すいませんね。こんなぶらり旅に同行させちゃって」

「これが仕事ですからね」

「うちらは息抜き」

「君は彼女について来て大丈夫」

「まだ収穫前なのでなんとか」

凄いな青々とした穀倉地帯の植物の穂が見渡す限り連なっている。

そして街道が平坦。

河も緩やかで幅が有る。

阿賀野川ラインみたいだ。

よくみると子供達が水浴びをしている。


ぶらりと町の外を見て回り帰って来た。

「んっ、町の中で何やら揉めている」

「何か有りました?」

「なんだてめえは。余計な事に首を突っ込まない方が身の為だぜ」

少し若い頭の男の横の者が剣でこちらを威嚇した。

「バタッ」

「!!・・・どうした?」

他の取り巻きの男衆が彼を抱え起こすが・・・、その者は既に。

「剣で威嚇などするからだ」

「何だと!」

「あっ」

遅かった。

剣を振りかざした為その場にて絶命した。

「カルム王に剣を向けるなど言語道断、素直に剣を収めよ」

「「「えっ」」」

数人の男等と頭風の男はびっくりした様だ。

僕は・・・絶命するのが早かったのが少し気に成ったが、どうやら引いてくれたので、話を聞く事に成ったが・・・。


いわゆるヤクザのシノギだった。

金銭のゆすりたかりだ。

証文をちらつかせるが、どうやら無理矢理書かせた物らしい。

今僕らはヤクザの住みかで話をしている。

相手も下手に手を出すと自分どころか、一族郎党全滅なので出せない。

それで今調停中だ。

何故か僕の膝には黒猫が鎮座している。

先程の所から僕について来て膝の上に乗ってしまった。

別に可愛らしいのでそのままにしている。

横には衛士三人と後ろにカップル。

言っとくけど「言わないけど」カップルの女の子だけでも、この場のヤクザ殲滅しちゃうよ。

気を付けなチミ達。


この頭折れそうに無いなあ。

しばらく睨み会ったその時。

頭の手がピクッと微かに動いたが、そのまま昏倒してしまった。

二度と起き上がる事は無かった。

握った掌から毒の付いた手裏剣が見つかった。

首筋にはそれとは違う焼き肉の串の様な手裏剣が刺さっていた。

四女だったが、毒は塗って無くて死ぬ程では無かった。



若頭風の男に組織解散の念書を書かせ、解散後の男等の就職先を話合った。

ナダーシャ神管轄の鉱山へ行ってもらう事にした。

罪人では無くて賃金も住みかも与えられる。

ちゃんと働いてもらう為だ。

「今は鉱山道路を拡張整備中だ。数十年はかかるから老いたら手持ちも出来て、付近の町や村で過ごしたら良かろう。問題を起こさなければ」

「罪人では無いので鉱山道路を抜けて外国にも行けますから、手持ちを稼いで行商人にもなれます。何も起こさなければね」

衛士さんと僕の説得で話は纏まったが、僕はナダーシャ神と話が出来るので、事を起こせば死に繋がる事は忠告しておいた。


「頭の家族は助かりませんか?」

『情けはかけん』

突然黒猫が喋ったので周りは驚いたが、僕は気付いていた。

「ルナシャ神様・・・」

『特例は無理じゃ。今頃は一家郎党死に絶えておろう』

『無論子供もおなごも居るが、きゃつがそうしたのだから無理じゃ』

『お主等も何故神がそう決めたか良く考えて行動する事じゃな。妾はこの地の事代主ルナシャと言う、よく肝に命じよ』


後に顔役等はいたが悪徳なシノギなどは無くなった。

鉱山で働く部下も1人真面目な行商人に成り、他の者も普通に暮らした。


僕は土魔法と技工で黒猫の焼き物を5つ作って、ヤクザの建物に供物として供えた。

その猫の置物の後ろ頭にはコインを入れるスリットがあり、一枚を入れて手を合わせて後にした。



カナークには数十年を経ても猫の置物が名物として残っている。

貯金箱として。







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