第38話幽霊船。
「出るんですか」
「出るんだよ」
「でね、君に調査して貰いたい」
「嫌です」
「・・・・・」
商業ギルド長が頼みに来たのだが、僕には海に出る船も無ければ腕も無い。
まして夜の海は危険だ。
「カルムは灯りの魔法が使えるよね」
「船が駄目です」
「えっ?」
「酔います」
「そうかあ・・・仕方無いなあ」
けれどウェステラさんは知っている。
本当はカルムが幽霊が苦手な事を。
僕は懐中電灯を売ってあげた。
翌日。
「駄目だあれ」
「消えるんだよ」
「マジですか」
ギルド長によると、近づくと船ごと消えていなくなるそうだ。
こえー。
断って良かったあ。
「被害は出ていないんだよなあ」
「ならほっとけば良いじゃ無いですか。何で捕まえて調べ様とするんですか」
「いや、国籍も所有者も不明な船の航行を許す訳にはなあ」
「国籍も所有者も幽霊でしょ。それに航行を許すも何も消えていなくなる船に、何の障害が?」
「・・・それで通れば苦労せんが」
「んじゃとりあえず仕方無しで。だって拿捕すら出来ないでしょ」
「ウムムム」
はあ、やだよ幽霊船なんて。
中の人出たらどうすんのさ。
「・・・・・(冷や汗)」
目の前に半透明の人が立っていた。
「えっ衛士さ~ん!!」
「どうしたっ!」
「こっこっこの人」
「ん?・・・どの人」
「へっ?」
すとんっと腰が抜けてへたり込んでしまった。
次の日はお店休んで寝てた。
「本当ヘタレね」
「だって幽霊だよ。アンデッドなんかに魔法は効かないからね」
「浄化は?」
「そんなの使い方知らないよ」
試しに浄化って唱えたら、服や体ウェステラさんと子供達が綺麗に成った。衛士さんも家も綺麗に成った。
去年より綺麗に成ったあ~♪。
って、ちゃうやんこれ。
魂の浄化ってイメージが湧く訳が無い。「転生ファンタジーじゃ有るまいし」
『毎度、なんやらカルムが病気って聞いて来たで』
「あっ、イワレさ・・・ま」
すとん!!。
『なんじゃ病気で力が入らんのか』
「やっ、そっその人・・・ゆゆゆゆ幽霊」
『ああ、こやつか?。こやつはアザールとは反対方向・・・まあ東じゃな。そっちの神様をやっとるモンテスキューって奴じゃ。海洋神も兼ねとる。この国最大のモンテ港の神じゃな。王都に行く時はその港から行く方が早い。ついでに船の神でも有るぞ』
「・・・・・幽霊じゃ」
『無いぞ』
「でも半透明」
『神じゃからの』
「でもイワレ様は」
『あっ、妾も透明になれ・・』「成らなくて良いです!!」
モンテなんちゃら神は普通の透けない体で現れて貰った。
『カルム・・・あのな幽霊なんておらんぞ』
「えっ!」
『人はのう、思い込むと勝手にその物体が見えるんじゃ。幽霊は人の脳の中で創られた幻影じゃ。取り憑いて殺すとか体が無いのに物理的に無理じゃろ。ポルターなんちゃらも風や地震或いは電気的な何かじゃ。人の話し声がしてて、後にその家が燃えたとか有るじゃろ、あれな、コードがショートしてて人の声に聞こえるんじゃ。分かるかカルム』
「はあ・・・」
『まあ良い。その幽霊船とやらはこやつの船じゃ。空も飛べるし転移も出来る。そりゃあ消えるわな』
『すまぬのモンテスキューじゃ。まさかあれ程の肝の持ち主が、幽霊が苦手とは思わなんだ。シャッセの祟り神とやり合った男がのう』
「だって祟り神は幽霊じゃ無いし」
『ぶっははは。おもろい。おもろい奴じゃ』
『御主にあの船をやろう』
「はっ?・・・いや、要りません。操縦出来ませんから」
『大丈夫じゃ。あれは自動で航行するからのう、海も空もな』
「置いとく所が無いです」
『異空間に収納出来るぞい。だから船の荷物もあれに積めばアイテムボックス代わりじゃ。すごいじゃろ』
「僕には転移魔法が有りますよ」
『海の上に転移したら溺れるぞ。それに遭難救助にも役立つ』
『カルム貰っとけ、余程御主が気に入った様じゃ。それに収納すれば邪魔に成らんし、永遠に忘れてもどう言った事は無い』
『イワレ・・・それは酷い』
かくて僕は幽霊せ・・・ゴホン。
神の御船を手に入れた。
使い道無いけど。
海難救助って言っても何処に漂流してるか分かんないよ。
フラグとは恐ろしいもので、3日後に遭難事件が起こった。
僕は店番(良く売れる在庫は置いて有る)を衛士さんの1人に頼んで、二人の衛士さんには船に同乗して貰った。
「かっカルム!!、浮いてるぞ」
「わっわっ、飛んでる」
「そりゃ船ですから」
「「んな訳有るかあ!」」
「えっ、空飛ぶ戦艦って知りません?」
「知らん」「知らんよ」
「ノーチラス号みたいな奴で飛ぶんですよ。あっ、宇宙戦艦ヤマトじゃ無いですよ」
「「だからあ、分からんて」」
「う~ん。一寸見つかりませんねえ。」
「・・・お舟さん、もっともっと上がってくれるかな。探査を円錐状に掛けるから」
「「うわっ、わわっ」」
「んっ、お舟さんストップ」
「「ストップ?、て何?」」
「探査に米粒みたいな何かが掛かりました。お舟さんあの粒分かるかな?」
すると船はゆっくり探査に引っ掛かった粒に向かって、斜めに降りていく。
「あっ!、発見しました。小型漁船ユーフラ号です。オールは有るようですが片方折れてます。潮流が速いみたいで流されてますね。ここら辺こんなに速かったんですね」
「・・・う~ん。お舟さんあれをこの船上に転移しても良いですか?」
言うが速いか、目の前に小型漁船が載っていた。
「えっ、えええ!、お舟さん転移魔法が使えるの」
船は船首を縦に振った。
「「「ワワワッ、止めて」」」
その後、お舟様はゆっくりと海上に着水した。閃光焼夷弾を打ち上げて港に帰った。勿論飛んで。
衛士さん達が言った。
「とんでもない船だな」
「いや、飛んでましたよ」
「「・・・・・・・・・天然か」」
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