第39話踊り子。

天城峠で逢ふた日は~。

違うな。


月の浜辺に揺れる恋心。

違うな。


駆け引きだけの愛は消えて行く。

違うよな。


えっと、こんな幼子が旅してるの。

大丈夫なのかな。

国は何も言わないの。

「お隣の国の芸人ですから」

疑問を察知した衛士さんが答えてくれたけど、日本だったら児童保護法とかに引っ掛かる。

可愛い子が少し煌びやかな衣装に小太鼓を抱え踊っている。

港で歌や踊りを披露している。

僕も投げ銭をした。

ついでにお菓子やケーキも渡す。

小さな踊り子は丁寧にお辞儀する。

実に躾られた可愛い女の子だ。

男の子は軽業を披露していた。

日本なら女子高生くらいの人が見事な踊りを舞っていた。

皆見入っていた。

容姿はフジコ様並みだったので、大変な人気だった。

でもその人が突然に倒れたので、場は騒然と成ってしまった。

近くに昔僕か造った温泉施設が有ったので、そこに寝かされている。

男衆は追い出された。

まあ商業ギルドの温泉に入れば良いしね。高いけど。


後日彼女は妊娠初期が発覚した。


「父親はわからないの」

「そうね本人が言わないのよ」

「訳アリだね」

「真偽はあれだけど手篭めにされたって話も有るみたい」

「旅してたら良からぬ人も居るよねそりゃ」

「カルムはそんな事しちゃ駄目よ」

「ウェステラさん酷い」

「冗談よ。カルムは私の事大好きだものね」

僕は真っ赤に成ってヤカンの様に蒸気を上げ、俯いてしまった。

衛士さん達がくっくくと笑っている。

傍目から見ても僕はウェステラさん一筋なのだ。

これは本当だから仕方無い。


しかし問題なのは彼女は旅がもう出来無いし、踊る事は危険だ。

堕胎には危険過ぎると医者は判断したので、無事ならこの地で子供産んで暫く過ごすしか無い。


旅芸人の長は村長にお金を渡して彼女を頼もうとしたが、村長はお金を受け取らなかった。

「子供は国の宝じゃ。無事に産まれたら村で引き取るよ。だからお金は要らんし、娘さんも大事に預かる」

いいね村長。

男だね。

僕もお金を寄付した。


彼女は暫くして商業ギルドの宿泊施設に移された。

何とか母子共に無事な様だ。

1ヶ月して。

もう大丈夫って成ったので、村の空き家に移っている。

うん、うちはちょっと過疎な処が有るからね。未だ空き家が有るんだよ。だって誰かが峠の道を普請したから、なおさら人が町へ流出したんだよね。あはは。


体調も落ち着いてお腹も大きく成った頃は冬だった。

温暖と言っても10度前後なので、羽毛布団やら生活必需品はうちの店で提供したよ。

だってタダだもん。

パアーーーン。

久々のイワレ様のハリセンが翔ぶ。


荷物を運んでた衛士さんと元気に成った元踊り子さんは、仲良くうちに御礼に来たよ。うん仲良くね。

「うふふ」とウェステラさんが見送っていた。


春に芸人一行が様子見がてら訪れてくれた。

物凄く村長に感謝してた。

芸人の子供達が指を加えて僕を見ている。あはは成る程。

直ぐにお菓子とケーキを持って来てこっそりあげたよ。

笑顔が弾ける。

うん最高だね子供の笑顔。


村長が芸人の長と何やら長話をしている。

後でウェステラさんに聞いたけど、居着く事に成った衛士さんと夫婦に成るらしい。

晴れて村人だ、しかも三人。

誰かのせいで人口減ったからね。

うん、良かった、良かった。


村人は優しい。

絶対に手篭めで出来た子なんて言わない。

「そんな奴は村八分だ」と村長が言ったが、僕はそんな奴をこの村では知らない。

優しい両親と優しい村人に囲まれてきっとよゐこに、いや、良い子に育つに違い無い。うん。


旅芸人の女性は危険が多い。

やはり良からぬ者は何処にもいる。

ウェステラさんにもストーカーがいたからね。

芸人さん達で気を付けてはいるそうだが、彼らはそこかしこで隙を伺うと言う。本当にいやらしい輩だ。


芸人さん達総出で別れの挨拶をしてくれた。

僕ら村人の中心は勿論あの新婚さんだ。

港から出ていく彼らを手を振って見送った。た、の、だが。

「・・・・・忘れ者だな」

「忘れ者(物では無い)ですね」

そこには座って美味しそうに、ケーキを食べている女の子と男の子が居る。



突然に空から現れた幽霊・・・いや神の船にびっくりしていた。

船首はこちらに向いていたので、慌てて戻って来る途中だった様だ。

「やあ、またお逢いしましたなあ」

「そうですなあ。あは、あはは」

「はい、忘れ(者)ですよ」

芸人の長は「申し訳ございません」と言いながら、子供達を抱き締めていた。親御さんも謝りながら我が子を抱いていた。


「村長、帰りはゆっくり海の上を行きませんか。風が心地良いです」

「カルム」

「はい」

「港は直ぐそこじゃぞ」

10分の船旅は終わりを告げる。

向きを変えた客船を見ると、お菓子の一杯入った袋を持った子供達と、芸人一行が手を振っていた。



コットは早く食べてねと言われたお菓子を開けた。「・・・なんだそれ」「なんだろね?」

「ちべたい」

「甘いけどちべたい」

「柔らかい」

「なにこれ溶けて無くなったよ」

フェルツはアイスクリームにビックリしていた。

「モチモチしてるね」


春の雪見だいふくはあっと言うまに彼らのお腹に消えてしまった。

「コット・・・お姉ちゃん幸せそうだったな」

「うん、凄く笑顔だった。お姉ちゃんの笑顔初めて見た」

「あの男からやっと逃れられたね」

「うん、やっとだねお兄ちゃん」



数ヵ月後僕は暴漢に襲われた。

「てめえかコラ!、俺の女を取りゃあがったのは」

そう言っていきなり斬りかかって来たのだ。

だが、あっと言うまに魔法衛士が空気弾を放ち、悶絶する二十歳過ぎの男を二人の衛士が拘束した。

「東の端のブランドルって町で大商人の一家が突然死したそうだ」

衛士長さんが拘束されていた男の家族と親戚だと説明した。

余り噂の良くない商人だとか。

拘束した直後泡を吹いて死んだ男は、幸か不幸か勘違いしてカルムを襲ったのだ。

「幸かは良くないですよ」

「そうだな・・・でも、アレルとビッターにとっては、正直幸だな産まれてくる子にとっても・・・」

「あの子はアレルさんの子ですから」

「勿論だ」

「この話は終わりだ」と衛士長さんは去って行った。

あ~俺も子供がいたらなあと呟きながら。


男が勘違いしたのは神様の導きかも知れない。

カルムはそう思った。

背負子に寝ている子供を首を回して見たカルムは、「イワレ様もう少し現金稼いでも良いですか?。三人目が出来ちゃいました」と店の外に出て言ってみた。

『かまわん。と言うかお主稼がな過ぎじゃ。もうちょい稼げ』

いやいや、楽過ぎる商売してるんで、バチが当たりますよっと。



『やっぱりカルムはお人好しじゃのう。相当数の国民を救うとるに』

声に出さずイワレは呟いた。

今回は嫌な仕事をさせたしのう。



私は踊り子~♪

揺れる恋心♫

月の浜辺に♬

多分出鱈目だけど。

そんな歌を口ずさむカルム。

「日本ってどんな所なんだろう」


それは呟いてはいけない言葉。


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