第30話紙芝居少女。

新人冒険者が村にやって来た。


満月の夜うちの店の物置の軒で12・3歳の女の子が寝ていたと、衛士さん達が言っていた。

取り敢えずその夜は衛士さん達の厩で寝て貰ったらしい。


何でも冒険者に成って3ヶ月との事。

満月とは言え夜中に峠を越えたのには衛士さん達もびっくりしていた。

王都で冒険者登録して、ずっと歩いて放浪していると言う。

食用の草や雑穀それに小動物を捕まえて、放浪しているとの言葉にびっくりだ。


王都の近くの村で暮らしていたが、12歳の天恵を親に話したら、役立たずが!、と言われ追い出されたと言う。

これは本当は法に触れるらしい。

まあ当たり前か。

しかし、少女は家に帰っても仕方ないと、思い旅をしているらしい。

確かにそんな親ではね。


6歳になる前に前世を終えた僕でも紙芝居は解るけど、この世界では未だ聞いた事が無い。

衛士さん達が紙芝居にキョトンとしている中、僕はイヅモヤでスケッチブックと安いクレヨンを買って、彼女に絵を描いてもらった。


「お前上手いな」

衛士さんの一人が言った。

「うちはずっと土に描いてたけど、これ描きやすいね」

少女の言葉と絵の上手さに確信した僕は、木工品で材料を買って簡単な木枠を作り前面に透明なアクリルをはめた物を、頭に浮かべパンッ!と膝を叩いて、彼女に聞いた。


「冒険者だよね、個人的な依頼を出していい?」

「いちおうギルド経由でお願い。」

「分かった、ギルドヘ行こうか」


ギルドで作画の依頼を出したら変な顔をされたけど、別に問題は無いと言う事で彼女ヘの依頼は通った。


この前のシャッセの大事を物語風に手を加え解説して作画してもらう。

新たに買った画用紙とクレヨン二十四色に驚かれた。

楽しそうに絵を描く彼女だが。

僕と衛士さん達は驚愕していた。

「上手い!!、上手過ぎる」

特殊な天恵はチートな物が多いとウェステラさんに聞いた事が有る。

これはまさに天才だな。

紙や絵の具が高くて買って貰えなかったから、親が気付かなかったのだろうけど、ある意味幸いしたかも知れない。


僕は店があるので村の木工屋に材料を渡して紙芝居の箱をお願いした。

アクリル版をしげしげと見つめていたが触れずに帰った。

説明出来ないよ。


「イワレ様聞こえます?」

『何じゃ?、面倒事か』

「あっ、いや、アイテムBOXって入手するにはどうしたら良いですか?」

『そんな物お主なら作れるじゃろ』

「えっ?・・・無理ですよ。」

『お主なあ、技工の護符に魔法の護符授かって何言うとるかのう』

「・・・組み合わせれば出来るもんなんですか?」

『出来るぞ』

「・・・・・(汗)。やってみます」


イヅモヤでリュックサックを買った僕は、技工と魔法を組み合わせるイメージを浮かべて。

イヅモヤで買った画用紙5万枚と、クレヨンやその他の画材あらゆる物を沢山リュックサックに詰めて調べた。

重さは感じないし、容量も町ひとつ入りそうだ、ヤバいなあこれ。

容量は黙っておこう、うん。


画用紙1万枚でも持てないからね。

スッゴく重たいからね紙って。

もう少しでウェステラさんと夫婦の営みが出来なくなる処だったよ。

でもあの娘平気で夜でも峠を歩く子だよな。

「よしっ!」

もう2つリュックサックに魔法を追加しておいた。


「あっ、ノエルちゃんお出かけかい」

「うん現金が乏しいから、薬草取採取に行くの」

「その革製の背負子もう持たないよね。ボロボロ過ぎるよ」

「でもこう言うの高いから・・・」

「銀貨1枚なら払えるかなあ」

「それなら何とか・・・でも」

「水筒に食べ物もサービスで付けるよ」

「本当に!!」

「うん」

「・・・買う」

「はい、毎度銀貨1枚ね」

「あっと、他にも少しサービスで入れてる物が有るから、昼飯時にリュックに向かってウインドって唱えてね」

「うん、そうしないと昼飯も水筒も出て来ないから」

「・・・?唱えるんですか?」

「そう唱えるだけね。そうすると目の前に色々表示されるよ。絵でも表示されるからそれを指で触ってね」

「魔法みたいですね」

「うん一寸魔法のリュックにしたからね」

「えー、おじさん魔法使いなんですか」

「そうだよお~。でもお兄さんね、お兄さん。分かった?」

ノエルちゃんは少し引きつっていた。

この村の悪ガキどもは皆僕をおじちゃん呼ばわりしてるからね。

どう見ても兄ちゃんなのにね。



夕方少し前ノエルちゃんが血相を変えて飛び込んで来た。

「何ですかおじさ・・・お兄さん。このリュックは、もしかしてアイテムBOXですかあー」

「そうだよ。僕が魔法で作ったからその分はサービスだけどね」

「こんなの銀貨1枚で貰えません」

「それは困るね。もう売っちゃったから」

「でも・・・」

「それはね先行投資と言うやつなんだよ」

「先行投資?」

「そう、将来君がこの店に利益をもたらしてくれると思っての売り物さ」

「・・・でも私・・・」

「利益と言うのはね、直接本人で無くても、何十年先でも考えて練るものなんだ。君の天恵は子供の心を豊かにするし、子供の教育にも成るんだよ。だから数十年先の先行投資なんだ。判るかな?」

「つまりね、子供の教育には紙が売れるし、絵の具や絵画の道具も売れるかも知れない。紙芝居は数百年先に出来るかも知れない動く絵に、成り得るんだよね。難しいかな?」

「ううん、私絵が動いたら凄いと思う。私ね土に描いた絵がいつも動いて見えるんだよ。それ言ったらお父さんに馬鹿にされちゃったけど・・・」

「君が何で紙芝居の天恵を授かったか分かったよ。お願いだ僕に君の天恵のお手伝いをさせて欲しい。頼むよこの通り」

僕はノエルちゃんに手を合わせてお願いした。

ペラペラ漫画でも良い。

この娘は将来のアニメの先駆者だ。

この時は僕はそう思った。

ただそれはね、二千年より更に先の事だったよ。



これはそれから六十年位かな。

その頃のお話。

ウェステラさんが他界する少し前だったかな?。

昔過ぎて覚えて無いや。

ノードエルだったかなあ?、そんな名の少年が店に来た時。


「お父さんに頼んでこの店に寄らせて貰いました」

そう言って少年は頭を下げた。

「いやいや、お客さん頭を上げてくださいよ」

「いえいえ、お婆ちゃんも僕もそして、ここに居るお父さんも貴方には凄く感謝しています」

「これっ」そう言って見せたのは見覚えの有るリュックだった。

「本当はこれを背負って紙芝居をあっちこっちで見せたいんですけどね。現金を得る為の商売道具に使ってるので難しくて、すいません。」

「あはは、紙芝居じゃ現金収入は見込め無いですものね。仕方ないですよ」

「でもあの箱は僕が背負って、近隣では紙芝居見せてますよ」

「おお、そうですかノエルちゃんも喜んでるでしょうね」

「お婆ちゃんは残念な事に半年前に亡くなりました」

「・・・そうですか、それは、残念ですね」

「お婆ちゃんは、カルムさんに恩が返えせない事を悔やんでました」

「いえいえ、このリュックも大事にしてくれていますし、何よりもお孫さんに紙芝居を伝えて下さいましたしね。こちらが感謝ですよ」

「そこまで言って下さって、お婆ちゃんは草葉の陰で泣いて喜んでますよ。有り難う御座います」

「でも大変でしょう。これの製作者聞かれて・・・」

「あっ、すいません。この製作者もう亡くなった事に成ってます。すいません」

「あはは、それは良い。それなら僕の所へは誰も来ませんね」

「・・・う~ん」

「どうされました?」

僕は小さいポーチを少年に渡して、こそっと耳元で呟いた。

「これ、アイテムBOXなのでYO・RO・SHI・KU」

実はあれからかなりの数を作っている。

ただ渡す相手がいなかった。

何故か拒否られるのだ。

そんな怖いもの頂け無いと。

そんな僕の顔色を見て、少年はこそっと呟いた。

「これも、結界とガーディアンゴーレム付きや、温度変化も腐敗もしないやつでしょうか」


あ~やっぱりノエルちゃんは真夜中にあの峠を越えるだけの事は有る。

防護機能付けて良かった。うん。





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