第21話草競馬。

三日後に隣町で草競馬が開催される。

昔から開催されるのは知っていたけど観た事は無い。

流石にこの村に馬を連れて来るのは大変。

衛士さん達は凄いもので、あの峠を馬を御して越える。

前に町に行った時ビックリした。

普通は危険だからしない。

馬も御せれば田の畔を歩ける事は前世で知ってるけど、あの峠は片方が崖だからね。


今回は屋台を出して盛り上げに一役買う予定だ。

イヅモヤ初屋台で有る。

因みに少額の馬券購入もイワレ様に了解を得ている。


お弁当はウェステラさんにイヅモヤで買うと伝えておいた。

残念ながら子供が小さいので今回は僕一人だ。

まあ、衛士さんに囲まれているけどね。


朝早く出発しレース前には屋台の支度を終えた。

ターフだね。

そう、草原に囲いが有るのだ。

結構広くて一週三千㍍は有りそうだ。(直線は千㍍以上有るかも)


レースは3レースで一時間おきに行われるけど、昼休みが二時間以上有るらしい。

呑気だなあ。


レース前には大分売れたが、殆ど食べ物か飲み物だった。

3輪自転車の商人さんが新しく5台も買ってくれたのは嬉しい。


いよいよ第一レースだ。

直線のレースらしい。

ドッドッドッ。

ドッドッドッ。

おっ、遅い。

どう見ても遅い。

そりゃあねサラブレッドと比べちゃいけない。

しかし、2分ぐらいかかってなかったかな?。あれ。

ムチも使って無いし、長あぶみだし、鞍もレース用じゃ無い。

ナーダムより遅い。


第二レースの間お菓子が飛ぶように売れたが、僕は馬券なんて買う暇無いじゃん。「トホホ」


第二レースは一周のレース。

ドタドタ、ドタドタ、いやレースじゃ無いじゃん。

速歩かよ。

キヤンターかよってレベル。

「これ、軍用馬ですよね」

「そうだよ」衛士さんは答えた。

「遅く有りません」

「引退馬だからね」

ああ、成る程ボッテリしてるなあ。

トレーニングして無いのか。


そしてメインの第三レース。

「衛士さん・・・あれ今までと全然違う体つきなんですけど」

「あれは現役って言うか、これから活躍する馬達だね」

そう言う事か。

「これ品評会ですか?」

「うん、だから第三レースだけ頭数が多いだろ」

「えっと、50頭くらいいますかね」

「うん、この領地の軍用なんだけど、今年は良い馬が多いらしいよ」

へえ、そりゃ見物だ。



第三レース発走!。

ドダダダッ、ズドドドッ、草を舞い上げ壮観なレースと成った。

「こりゃあ凄い」

「今までの帯同馬と違い本調教のレースだからね。ほら客の目の色が違う」

本当だ、馬喰らしき人達が真剣に見てる。

「あの浅葱色の帽子のバクロウさん、あの人は名伯楽で目利きのプロだよ」

「ん?、でもあの人さっきウヰスキー買って呑んでたよ。大丈夫」

「あはは、まあ引退したらしいから・・・」

ちょっとお高いウヰスキー買ったからお金持ちとは思ったけど。

「ニンジンスキの勝ちだな」

名伯楽が言ったのが聞こえた。

「ニンジンスキ?」

「あれだよほら、あの白に斑の入った牝馬」

・・・・・ブチコかよ。

そりゃ強いよって心で思った。



レースは見事(ブチコ?)が勝った。

最後の直線は物凄く見応えの有る追い比べと成り、ひと伸びした(ブチコ?)が制した。

10キロメートル走ったけど、当然サラブレッドより遅いが、スタミナは充分有り過ぎる。


中々良いものを見せて貰い、お菓子や飲み物も沢山売れ、貢献出来て良かった。

夕暮れに成る前には何とか村に帰った。

衛士さんも僕も店前でへたり込んで、イヅモヤの弁当を食べているけどね。

ご飯食べる暇無いんだもの。

レース中にでも食べないと無理。

認識の甘さを痛感した。

馬券は当然買えていない。

「良かったじゃないの、無駄金使わ無くて」

「・・・ウェステラさんの意地悪」

ウェステラさんは子供を抱いて笑っている。


遠くで。

すうっと。

凪いだ海を、涼しい風が吹き抜けた。

でもニンジンスキって。

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