第20話スタンピート。

所謂魔物が溢れ出る異世界の名物行事だが、数や強さによりけりな処が有る。


「最強の魔物ですね」

「手も脚も出ません」

非番の衛士さんも駆け付けたが、すっかり魔物に取り囲まれた様だ。

朝イチに来た客が原因と思う。


日が昇り身支度を整え朝飯を済ませたおりに、朝一番の客がやって来た。

4・5歳の男の子を連れた女性客だったけど、ミックスジュースとお菓子をお買い上げ頂けた。

可愛いお子様に飴玉をサービスしたよ。

「あれですよね」

衛士さんが言う。

「あれですね」

僕も同調する。


可愛い魔物のスタンピート。

幼稚園児の集団スタンピート。

お目当てはお菓子にジュースそしてサービスの飴玉。


これは世界広しと言えども、勝てる勇者はいないだろう。

まさに最強の魔物で有る。


わらわら、わらわらと、来るわ来るわ。

200名はいるだろうか?。

引率の親御さんも制御不能。

可愛い幼稚園児達は常設のお菓子やジュースに夢中だ。

「はいはい並んでね。順番にね」

僕も次から次へ出される商品とお金の引き換えに懸命だ。

「はい!、そこ騒がない。そこ、喧嘩しない」

「駄目、勝手に持って行ったら」

魔物や悪党に強い衛士さんがあたふたしているのが、少し笑えて微笑ましい。

「ちょっとタンマ」

僕は慌ててお菓子やジュースそして飴玉の補充を始めた。

「でえー!、無くなるとはね」

「ケーキ、ケーキ」

「ママー」

「うわーん」

「キャハハ、キャーキャー」

「ひえぇ~、疲れるう~」

僕も衛士さんも悲鳴をあげた。

ごめんね奥さん、赤ん坊背負って働かせちゃって。

もう総動員。

村長さんまでいるよ。(笑い)



「ふう~、凄まじいスタンピートでしたね」

「無理もない。ここのジュースやお菓子は格別だからな」

「村長さん有り難う御座います」

王都から川を下り船に乗って、5日かけやって来た幼稚園児の集団旅行者。

若年から社会見学させる割りと裕福層の学園。

まさか社会見学のターゲットにされていたとは。

今年は地方に居を構える王様の生活がテーマだとか?。

いやいや、勉強に成って無かったと思う。

そもそも、僕が王様だと気付いた子達がいたのか怪しい。

このイベント村長さんはいちおう知ってたみたい。

ただお菓子の爆買いで終始するなんて夢にも・・・だそう。



その日はイヅモヤのお弁当が良く売れた夕方に成った。

皆さん夕飯作る暇無かったもん。

「弁当コーナーの商品無くなっちゃったよウェステラさん」

「あら、どうしましょ」

「フードコート覗いて見るよ」

ひえぇ~、売り切れ続出!。

「あっ、有った」

「どんなの・・・でも売れ残り?。仕方ないわね」

「むふふ、これは高いから売れ残ったんだよなあ」

「えっ、でも贅沢なんじゃ」

「ウェステラさんこれは仕方無いでしょう」

「でも高いんでしょ」

「まあ、年に数回なら良いと思います」

買ったのは特鰻重セット。

「美味しい~」

そりゃあね、日本が誇るソウルフード。

鰻重だからね。

ごめんねダンテ、(息子)君は赤ちゃんだから食べられ無いんだよ。

数年待ってね。



村人や衛士さん達は未だこの味を知らない。(だって高いもん)

浅漬けをつまみ、肝吸いを飲みながら、スタンピートに少し感謝するカルムで有った。


海は翌日も凪いで白く光る。

『あっ、売り上げは大した事無かったよ、うん』






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