第8話早馬の客。
即位から1ヶ月のとある平凡な日に、馬に乗った客が来た。
馬は少し疲れていた。
「店主、この店は薬も有るか?」
「一般的な薬なら何種かは、どんなご加減で」
「うむ、熱と咳が長くてな。熱は高くは無いので、暫く様子を見てたが一向に良くならん」
・・・結核か百日咳?。そんな病名が浮かぶが、どちらもうちの薬では対処は難しい。
「あのうお医者様はどの様に」
「難しそうだったな。ヤブでは無いのだが、ハッキリとは解らない様だ」
「今どの様な環境で安静にされておられます?」
「食事はお粥で、隔離の為窓は無く薄暗い部屋で寝ている」
「他に罹患された方は?」
「一応おらんな」
「回りの村や町に同じ症状の方は?」
「似た者は居らんから医者は伝染病では無いかもと言ってた」
確かに流行りとは思え無いかも。
「それならばこの時期ですし、風通しが良く明るい部屋に移された方が、よろしいと思います」
「私にも解りかねますが、感冒薬三種類で量の少ない物を、どれも朝昼晩と二錠ずつ食後30分以内に。一種類終われば次のを試して6日分ですね」
「三種類?」
「はい、全て同じ類いの薬では有りますが、人によって合うものと余り効かない物が有ります。飲んでみないと解りませんから」
「成る程、でももう少し多くくれないか。ここまで日数が掛かるので」
「分かりました。では余れば他の時にでもお使い下さい。それとサービスで、パインジュース12個と喉薬2つに、のど飴3袋入れておきますね」
「サービスにしては多いが」
「私どもは医者では御座いませんから、詳しい事は解りません。ですので治療が上手くいかなかった時のお詫びです。あっ、これも入れておきます。薬と同じく三食毎に一袋、・・・これは色々な食物とかの栄養素を集めた物です。サプリと言います」
「助かる領都から早馬で来ても3日掛かるからな。また寄せて貰うかも知れん。店主感謝する」
「お気を付けて」
早馬で来てたのか。
後で馬屋に聞くと、馬を替えて帰ったとの事だった。
領主様の弟だったらしい。
へえ~・・・。
廿日してまた同じ客が来た。
「店主有り難う。お陰で兄の娘が回復した。喉が傷んでいたのが良くなかった様だな。錠剤はこの箱のが合う様だから、これを5箱頼む。それとジュースもう1ダースとのど飴に喉薬各5つ欲しい。お嬢は昔から喉が弱くてな」
「ジュースは3ヶ月しか持ちませんよ。それに飴は封を開けたらなるべく早くお召し上がりを宜しく」
「分かった姪の為にもちょくちょく寄せて貰う。今日は宿に泊まりたいので宿を教えて欲しい」
食堂と一緒の宿を教えたよ。
「あっと、ここらで何か食べ物は売って無いか、未だ食堂は時間的に無理だろうからな」
「えっと、ご飯ものかパンかどちらが好みでしょう?」
「えっ!、ご飯もの有るのか?」
「まあカツ丼とか寿司とか」
「寿司?・・・」
裏側に回って寿司を持ってくる。
「少しお高いですが、この様な物ですよ」
「生魚だよなこれは」
「生駄目ですか」
「いや海の近くで食べた事は有るけど、そうかここは港の近くか」
「じゃあこれを頂こう」
「銀貨1枚です」
「えっ!結構豪華な品だぞ」
「サービスで」
「そうか済まぬな」
「衛士さんこの方、此方に座って貰って良いですか?」
「どうぞどうぞ、儂らも善意でこの様な席を貰っております故」
寿司を食べたお客から、お茶のペットボトルと寿司のトレーを渡して貰い、宿の行き方を案内した。
数十分して、ドドドってさっきの客が血相を変えて走って来た。
僕の前に正座すると「王様とは知らず無礼しました。申し訳御座いません」と謝ってしまっている。
「いやあの、それをされると困ります。普通に庶民として暮らしていますので」
「いやでもこの度兄が議員に任命されましたし」
「それは神が議員に相応しいと任命したからです。僕は神の決めた議員を王都に報告しただけですので、お礼は神様にお願いします」
「いやそれでも王様に不敬を」
「本当に不敬ならば貴方は神に殺されています。僕も普通に何とも思ってませんし、普通に接していますから、貴方もこれまで通りにお願いしますね。別に不敬なんてこれっポチも有りませんから」
「王なんて澪標みたいな物ですから」
「・・・みをつくし?」
「海の道路標識です」
「浅瀬に船を誘導する為に、杭に三角版の付いた物が有るでしょう。あれですよ」
「無くては困るし、そこに有っても気にしない。何かを導く為に居る。だから世の中の道路標識で有って、別に偉くも尊ぶ者でも無いんです。だから自ら人々に不敬を働くと神に死を賜るんです。特別なウプサラ(天恵)と共にウプハルマ(天啓)を受けますが、ウプハルマには戒めを破れば死ぬぞと記されてもいるんです。だから普通の人と変わらないんですよ。特別な天恵(ウプサラ)は、標識が取れると困るでしょ。だから生活に困らない為なんです」
「王は身を尽くしてや恋渡るべき」
「はあ?」
「人々(恋)に接する(会うのに)に、身を尽くせとってね。此の世の全ての人が、芦のかりねの人なんです。あっ奥さんは別ですよ。あれは怒らすと神様より怖い。」
パアーン!!。
いつの間にか後ろにウェステラさんがいた。
ハリセン持って。
衛士さんの大笑いが聞こえたこの空と、この海は今日も白く凪いでいる。
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