第7話伝説少女。
僕の眺める海には伝説が有る。
いつもは穏やかな海だが、嵐が来ればそうもいかない。そして意外に潮流は速いのだ。
この海に身を投げた少女の伝説が有る。
イワレその身を投じ嵐を鎮めたもうたり。
イワレ王妃と成らざりしも後に王妃とし封じられる。
船は中にして十余隻浅瀬の津を出程無く野分けに遇う。
前日野分け有りも明けに晴れる。
して帆を張るもにわかに風強く浪高く成る。
先の海府に急ぐも舵折れ帆柱破損多数に至る。
六隻海にのまれイワレ天に乞う。
身を以て風浪を鎮めたもう事。
のちにその身岸に上がるも既に帰らざり人なり。
王哀しみ都に造りし灌漑の池にイワレと名付けたもうたり。
聞いた事有る様な無い様な?。
まあいっか。
朝海を眺める僕は、今日奥さんと峠を越え町に行く為に、そそくさと家に帰る。
2人で三輪の自転車をこぎ町へ向かうけど・・・?。
「どうして衛士さんが同行されるんですか?」
前後に衛士さんが4人と、つかず離れずいる衛士長さんに尋ねた。
「お店の製品はカルムの天恵だから、カルムが襲われると身も蓋も無いので」
ああ、なるへそ。
二時間かけて町に着いた。
所謂オフロードなのでそんなに飛ばせ無い。距離にしたら20㎞だろうか。歩けば往復で八時間はかかる。
町に入ると三輪自転車と馬に乗った衛士さんが目を引く。
三輪自転車は商人さんが乗り回してるので珍しくは無いが、衛士の護衛は流石に珍しいだろう。
早速と言うか何と言うか、前から深緑のローブを纏った変な集団が来る。
7人ばかりの先頭に居る人が如何にも仰々しい。
「あれはトスマニア教団の2代目教祖ね」
ウェステラ(奥さん)さんがそう言った。
また胡散臭い名前だな。
その教祖様がどうも僕に近付いて来る。
「止まれ!」
衛士さんが言うと、教祖は「汝我の前に跪けよ」と錫杖を鳴らした。
ドサッ!。
「えっ!」
衛士さんが馬から落ちて立ち上がれない。
その場に踞ってしまった。
「大丈夫ですか」
「来ないで、こいつは魔法を使う」
魔法?。
「あの錫杖は魔法具ね」
ウェステラさんが言った。
魔法具は魔法を増幅させる物だ。
この教祖は魔法で教団員を従わせているのか、何と厄介な奴だ。
「汝我に跪けよ」
「・・・・・?」
「・・・・・・?、何ぃー」
「何故跪かぬ?、何故じゃ」
教祖が何度も錫杖を鳴らすが、僕には利かなかった。
「・・・えっ!」
その場の横を一人の女の人が通り過ぎる。
「お主は馬鹿か、王がお前ごとき痴れ者に、跪く筈がなかろう」
奥さんより少しだけ年上と思えるその人はそう言うと、音もなく立ち去って行くのだ。
・・・この人人間じゃ無い!。
咄嗟に感じ取った僕は後ろを振り返るが、すうっ~と彼女は消えて行った。
回りを見渡すと、衛士さんは立ち上がり教祖を捕らえていた。
そして町の人の中にほんの数人、正座して両手を合わせ拝んでいる。
「海の女神様、海の女神様じゃあ~・・・、久し振りに御目にかかれたのじゃあ~」
ウェステラさんも立ったまま手を合わせ拝んでいた。
僕も拝んでみた。
・・・にしても聞き覚えの有る声だったなあ?。
「教祖様あー!」
ん?。
「・・・事切れています」
「えっ!、えっえっ?・・・死んだって・・・ええー」
「そりゃ王様に魔法を放ったらそうなります」
町民のお爺さんが言った。
「?、??・・・」
「ウェステラさん王様だったの」
「はあ?、あのう~・・・。そろそろ気付いても良くてよカルム」
「はあ?」
ドッドッド。
「このアンポンタン!」
さっき聞いた女神様の声と共に此方へ駆けてくる人影。
パコーン。
頭をハリセンでひっぱたく女神様なんて何処に居るんだよ。
まあ、此処にいる。
「何ですか?、いきなり」
「汝に決まっておろうが、妾がウプハルマ(天啓)出したろうが」
「えっ!、ウプハルマ?・・・ウプサラ(天恵)じゃ無くて」
「あっ・・・・・・日本語か」
「ああ、てんけいって出したから・・・」
「・・・発音が同じじゃな」
「何でウプハルマで出さなかったんですか」
「いや、妾は元日本人だからな。つい懐かしくてなあ」
「女神様も転生者なんですか?」
「妾は元の名を般若姫と言う。まさか此方に生まれて、同じ運命を辿るとは思わなんだが」
「あっ、あの僕は、山口県の柳井の生まれなんです。元は」
「なっ!なんじゃとおー・・・」
・・・・・・。
「固まってますね」
「固まっておるな。しかも全員頭に question mark 付けておる」
「そっ、それは僕には見えませんが、言わんとする事は解ります。でも僕は王だったんですね。だからあのウプサラ(天恵)なんですねえ。やっと理解出来ました」
ザッ、ザッザッ、ザッ・・・?。
「えっ?、なっ何」
見ると衛士さんも、町の人も奥さんも、教団の人も皆片膝を着き、胸に手を当て頭を下げている。
呆気に取られていると突然、真っ白なとてつも無い大きな鳥が天空に現れ、「即位!!ー」と鳴き?ながら飛んで行った。しかも飛行機雲の様に虹色の線を大空に書きながら。
それはそれは綺麗だった。
そこの全ての人が、その村その町その領、そしてその国全ての人が次々に空を見上げて安堵して行く。
僕も、奥さんも、衛士さんも町の人も、やっと我に帰った時、衛士長さんが言った。
「カルム王この度は即位おめでとう御座います」
すると「「「「「おめでとう御座いますー」」」」と、あちこちから言葉を浴びせて来る。
「即位の儀はどうされますか」
「はっ・・・?」
「村で簡素に執り行いますか、王都に行かれますか?」
「いや行きたく無いし、執り行わ無くて良いし、村で普通にして居たいです」
「成る程では、先程の事を即位の儀として王都に通達いたします。それで宜しいでしょうかカルム王様」
「衛士さん・・・」
「一応即位の儀式ですので、この場は敬語を使わせて頂きたく」
「じゃあこの後は今まで通りに」
「その方がカルム王様もよろしいでしょう」
「助かります。では、それでお願いしますね」
「はっ、皆の者!。今日この時を以て、元号はカルム一年と成る。王都に通達を出す故にそう留め置く様に。尚、特別な儀式は執り行わないと、カルム王様のお言葉であるのでその様に」
・・・「但しカルム王様皆は祝い祭りを行いますれば御容赦を」
「ははは・・・そうですね」
寂しく教祖の遺体は運ばれて行ったが、町は祝い事一色に染まるのを後に、村に僕達は帰った。
村でも僕が即位したと分かっていたので、お祭りの支度がされていた。
「ある程度の支度は村で準備しておりましたカルム王。いやあ待たされましたわい」
「もしかして皆さん知ってたんですかあ?」
「当たり前でしょう。衛士さんが付くは、万屋の不思議な品々を見れば解ります」
・・・・・知らなかったのは僕だけなの?・・・って奥さんに聞いたら。
「そうねぇ、多分」って・・・。
複雑な気分。
「カルム・・・だってそれがカルムだから・・・私はそれが好き」
パアァ~。
僕の心は奥さんの一言で晴れた。
実に単純じゃなと声がしたが、気にせずにお祭りを楽しんで、眠りに着いた。
翌日から実に普通な、普通の人の王様人生が始まった。
衛士さんが37人に成り、9人の四日二日3交代制に変わった。魔法が使える衛士さんが8人居るが、何処に居るか僕には解らなかった。
税金が免除に成ったので、煩わしい改竄(安売りの為の)が要らないのは助かる。
「棟梁、今日は随分豪勢だね」
「婿取りが決まってな、寿司20人分だよ。後なんか酒と肴欲しいんだが」
いつもの日常だ、良かった。
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