第163話 報告
テルトラはサチの元に来ていた。
「サチ、朗報だ、アベルの身体が治ったぞ。」
テルトラが告げると、
「テルトラ、本当なの!本当に治ったの?」
「ああ、間違いない、歩ける姿を確認している。」
「よかった・・・よかったよ・・・」
サチは感極まって泣き出した・・・
テルトラはサチが泣き出して慌てる。
「サチ、落ち着きなさい、泣かなくても。」
「だって、だって・・・」
そこに俺が報告に訪れる。
「母さん、無事治りましたよ。」
「アベル!」
サチは駆け出し、俺を抱き締める。
「よかったよ・・・」
「ええ、タマさんの力と、セイとリリーのお陰です。」
「私からもお礼を言わないと。」
「それとテルトラ殿に命を救われました。」
「テルトラに?」
「はい、実は・・・」
俺は身体からハデスが出てきたこと、そして、タナトスが現れた事をつげ、テルトラが撃退してくれた事を告げる。
「テルトラ、ありがとうございます。」
テルトラは少し照れ臭そうにしているが、
「何、アベルを助けるのは当然ではないか、サチの大事な息子であろう。」
「うん、私にはそうだけど、テルトラからしたら違うでしょ?」
「同じ事だ、サチが大事にしているものは私にとっても大事なものだ、そこに遠慮などいらん。」
「テルトラ・・・ありがとう・・・」
サチはテルトラの手をとり、感謝をつげている。
俺は2人を残して、城のヨシテルの所に向かった。
「ヨシテル伯父上、お話したい事が・・・」
王の私室を開けるとそこにはハルに正座させられているヨシテルの姿があった。
「伯父上?どうしたんですか?」
「アベル、たすけて・・・」
ヨシテルの言葉を遮るようにハルが俺を抱き締める。
「良かったわ、治ったのね。」
「あ、ありがとうございます。その事でお話が・・・」
「いいのよ、すべて知っています。セイが先に報告に来ましたから。
どうせ、するのですから、先も後も関係ありません!」
「それは、母としてどうなのでしょう?」
「いいのよ、可愛い息子の為ですもの。」
「いやいや、娘の事ですよ!」
部屋を良く見るとセイとヨシタツも疲れたように椅子に座っていた。
「お母様、アベルを離してもらえますか?」
目があったセイがハルを引き離そうとする。
「あらあら、嫉妬かしら、大丈夫よ。盗ったりしないから。」
「そういう話ではありません。でも、私に返してください。」
ハルは俺を名残惜しそうに離し、
「仕方ないわ、旦那様は奥さんのものですものね。」
「ま、まだ、旦那さまではありませんよ、まだ・・・」
セイはモジモジしながら否定する。
「セイ、その事だけど、俺と結婚してくれないか?」
「アベル!」
「不甲斐ない俺だけど、こんな俺の為に身体を張って助けてくれたんだ。
どうか、俺と結婚してほしい。」
「アベル・・・うん、嬉しい。」
セイは俺を抱き締める。
「あらあら、式はいつにしましょうかね?」
ハルは嬉しそうにしているが・・・
「ハル、もういいだろう?正座を止めても?」
「良くありませんわ、あなたは少し反省してください。
何よ、ちょっと貞操を使ったぐらいでギャーギャー騒いで。
大事なのは世間体より、相手の心を掴むことなのよ!」
「わ、わかったから・・・俺も結婚に反対なわけではないんだ・・・」
ヨシテルはハルに一生懸命言い訳をしている。
「伯父上、ハルさん。娘さんを俺にください。」
俺は改めて2人に告げる。
「ええ、うちの娘で良ければ。ほら、あなたも!」
「うむ、セイ幸せになるんだよ、アベルが相手なら私も反対はしない。
・・・だから、正座を止めて貰えるよう頼んでくれないか?」
ヨシテルは涙目で頼んできた。
「ハルさん・・・伯父上の正座を止めてあげてくれませんか?」
「もう、アベルが言うなら仕方ないわね。」
ハルの許しを貰いヨシテルは正座を止めるが、足の痺れでもがき始めていた。
「アベル、セイおめでとう。」
ヨシタツが近付いてきて祝いの言葉をくれる。
「ありがとう。」
「ただ、順序は大事にしろよ。まあ、キョウを離れる時から色々やらかしてるが・・・」
「なっ!なんのはなしだ!」
「馬車で色々してただろ?お前な外はよろしくないぞ。」
ヨシタツはニヤニヤしている。
「見てたのか?」
「見せてた奴が何を言う?」
「あ、あれは違うんだ!」
「へぇー、どう違うの?」
「いや、それはな、セイ?」
「いまこっちに振らないで!」
セイは顔を赤くしている。
「セイはみんなの前で達したもんな、王家始まって以来のスキャンダルだぞ。」
「わーわーわー!聞こえない!」
セイは叫びだしヨシタツの声を書き消そうとする。
王の私室は混乱に満ちていた。
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