第156話 療養中
顔を赤くしつつ、セイはエリーゼを連れて食堂にやってきた。
「アベル、よくも置いていってくれたわね。」
「説明したの?」
「出来るわけないでしょ!」
「まあまあ、二人とも落ち着いてください、食事が出来ていますよ。」
リリーが膳を持ってきてくれる。
「ありがとう、リリー」
「いえ、それより身体はどうですか?」
リリーは俺の横に座り身体を心配してくれる。
「日に日にマシにはなってるけど、全然だめだね・・・」
「焦らないでください、ゆっくり治したらいいんですよ。」
リリーにも優しい言葉をかけられるが、俺としては早く動けるようになりたかった。
「失礼します。アベルさまで宜しいですか?」
食事が終わり、のんびり中庭を見ながらお茶をしていると同じぐらいの年頃の女性に声をかけられる。
「ええ、アベルは私ですが?あなたは?」
「私はタマと申しまして、キョウで神社を営むものです。
この度はヨシタツの頼みでアベル様の厄除け祈願に参りました。」
「ヨシタツの?」
「はい、ヨシタツが珍しく慌てて、私に頼み事をしてきましたので引き受けた次第です。」
「失礼かも知れないけどヨシタツとの関係は?」
「結婚を前提にしたお付き合いをしております。」
「ヨシタツにそんな相手が!」
俺が驚いているとセイガやって来て・・・
「タマさん!どうしたの!」
「セイちゃん久しぶり、アベル様の厄除けに来たのよ。」
「あーお兄様が頼んだのですね。じゃあ、お願い出来るのですか?」
「勿論ですよ、セイちゃんも手伝ってくださいね。」
「うん、何でもするよ。」
俺は事態がわからないのでセイに聞く。
「厄除けって何?」
「あーアベルは知らないよね、オウカでは一定の年齢が来たら厄除けって言って身体についた厄災を落とす習慣があるんだけど、
タマさんはその厄除けで有名な巫女さまなの、アベル、1度厄除けを受けてくれないかな?」
「それはわかったよ、是非お願いします。
ただ、そんな事よりヨシタツの婚約者って本当?」
「そんな事じゃないんだけど・・・でも、婚約者っていうのは本当よ。」
「こんな綺麗な人がヨシタツの婚約者なんて!」
「やかましい!」
俺は頭を叩かれる。
「ヨシタツ!」
「黙って聞いてたらお前は・・・」
「だって、勿体ないだろ?こんな綺麗な人がお前の魔の手にかかるなんて。」
俺はもう一度、ヨシタツに頭を叩かれる。
「うるさい、誰が魔の手だ。」
「イテ、ヨシタツお前だよ。どうせ俺の物になれとか言って無理矢理せまったんだろ?
ダメだぞ、暴君は。」
「なんだ、その決めつけは!普通に告白して受け入れてもらったよ!」
「本当かなぁ~」
俺が疑いの眼差しを向ける。
「本当だよ!」
俺とヨシタツの会話を横で見ていたタマは・・・
「ヨシタツと距離が近いです。
これがセイちゃんが言ってた掛け算の関係なのですね!」
「ちょ、ちょっとその話は乙女の間の秘密でしょ。聞かれたらどうするの!」
セイは慌ててタマの口を押さえる。
「そうでした、つい、実際に見てしまうと・・・」
タマはポーとした目で二人を見つめている。
「落ち着いて、いい、絶対に言っちゃ駄目だからね。」
「はい、でも、あんなヨシタツ見るのは初めてですね。楽しそうにはしゃいでます。」
「うん、立場上気兼ねなく話せる人は少ないから、お兄様も嬉しいのだと思うけど・・・距離が近いですよね。」
「私もそう思います。掛け算を考えると・・・あら、鼻血が・・・」
興奮で鼻血を出したタマにティッシュを渡し、落ち着くように再度促す。
「タマさん、落ち着いて!ばれちゃうから!」
俺とヨシタツは腐った視線を向けられているのにも気付かず二人で騒ぎ続けるのだった。
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