第155話 湯治

俺はテルトラの薦めで湯治に来ていた。

キョウ近くのマアリという昔から伝わる温泉だ。


「こんなにのんびりしてていいのかな・・・」

俺はタナトスに備えて準備しているみんなを思い不安になる。


「アベル、あなたは身体を治すことを考えて。少しはよくなっているのでしょ?」

セイに言われる通り、温泉に入り出してから、何とか一人で歩けるぐらいまでは身体が回復していた。


「でもね、何かしてないと不安なんだよ。」

「今は仕方無いでしょ。」


セイと話しているとサスケがやってきた。

「失礼致します。ハル様よりお届けものです。」

「お母様から?なんだろう?」

セイは2つある箱のうち大きい方を先に開けた。

「男物の服?・・・と手紙?」

中には手紙があった。

セイが中を読むとアベルの身体を気遣う内容で一杯だった。

セイがアベル宛の手紙かと思いアベルに渡そうと思うが一文に顔を真っ赤にする。


「アベル、セイは初めてだから優しくしてあげてね。

あまり変な癖をつけてあげないで、普通にね。

お外でするのはあまり良くないとおもうのよ。

では、お土産は二人の子供でいいからね。

義母ハルより。」

セイは思わず手紙を閉じる。


「セイ、ハルさんはなんて?」

「ななな、なんでもないわよ。アベルの体調に気をつけてって書いてるだけよ。」

「そうなの?見せてよ。」

「だ、だめよ!これは私宛の手紙なんだから!」

セイは必死に隠す。

「なんか怪しいよね、本当はちがう事かいてるんじゃ?」

「・・・書いてないわよ。」

「今の間はなに?怪しすぎるよ!」

セイは嘘が苦手だった。

どんなに隠しても顔や仕草にでてしまっていた。

「いいの!気にしないで!」

隠せば隠すほど俺は気になる。

暫く攻防を続けていたら・・・


「お兄ちゃん、お姉ちゃん仲がいいのはわかったけど、ごはんなのよ。」

エリーゼが呼びに来た。


「いや、ちがうの!これはそういうのじゃないから!」

何故かセイはアタフタしており、手紙を落としてしまう。

「何これ?」

エリーゼが拾い読もうとする。

「ちょっとエリーゼちゃん返して。」

セイがあわてて手を伸ばすがエリーゼはアベルの元に行き手紙を渡す。

「読めない、お兄ちゃん読んで。」

「いい子だね、えーと何々・・・」

俺は手紙を流し読みしていた、内容は俺の衣類やアクセサリーを送ったと書いてある。

あれ?これ俺宛じゃないか?と読んでいたが最後の一文を読んでセイが隠していた訳がわかる・・・


「お兄ちゃん、何てかいてるの?教えて欲しいのよ?」

「あー、セイのお母さんから俺の身体を心配してくれているのと、衣類を送ったって書いてたよ。」

「なるほど、じゃあ、セイのお顔が赤いのはなんで?」

「う、うーん、それはセイに聞いてみてくれないかな?」

俺はエリーゼの純粋な質問から逃げた。

「あー、アベルの卑怯者!」


セイの非難が聞こえるが俺は食堂に逃げ出す。

エリーゼはセイを質問攻めにしていた・・・


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