第153話 ウエスギ来訪
「ウエスギ殿、お久しぶりですな。
此度はいかなる要件ですかな?」
ヨシテルが挨拶をかわす。
ウエスギは北方の雄であり、王のヨシテルにしても配慮のいる相手であった。
そして、その当主ウエスギ・テルトラは軍神とも呼ばれるほどの戦上手であり、隣国からも恐れられていた。
「ヨシテル様、ご無沙汰しております。
この度は某の隠居を認めていただきたく。参りました。」
「隠居ですか?テルトラ殿はまだお若いではないですか?」
テルトラはまだ43歳、ヨシタツやサチと同年代だった。
「国の運営は先の長い若者が決めるべきなのです、我等のような年の者はそれを指導する立場になるのが正しい。」
「そうですか、隠居はよろしいですが、同年代がいなくなるのは寂しく思うな。」
「そうでもないですよ。」
「えっ?」
ヨシテルには意味がわからなかった。
テルトラはサチに向き、
「サチ迎えに来たぞ、改めて俺の妻になってくれ。」
「テルトラくん、あなたとの告白は昔、断ったでしょ。」
「ああ、当時は権力のせいで断られたが、今ならどうだ?私も当主から降りたし、サチも当主ではないだろう?」
「でも、私には主人がいますから。」
「事情は聞いている、勿論、今すぐにとは言わない、気持ちの整理がついたら考えてくれないか?」
「答えるとは限らないけど?」
「それでもよい、今まで独り身を貫いてきたのだ、今さら断られた所で何ともないが、出来る事なら気持ちを受け止めて欲しいものだ。」
「わかったけど、保留させて、みんなには昔の事かも知れないけど、私にはつい最近主人を無くしたばかりなの。」
「わかっている、だが考えれるようになった時に思い出してもらえないのは寂しいからな、なるべくそばにいることにしようか。」
「そばにって・・・」
「なに、ヨイに移住するだけだ。」
「ちょっと、ウエスギ領はどうするのよ!」
「若いのに任せるさ、ワシがいなくなってだけで運営出来んようでは先がないからな。」
「いいの?」
テルトラが連れている家臣に確認すると深く頷く。
サチが余所見をしている間にテルトラはアベルの所に行く。
「君がサチの息子かい?」
「はい、テルトラ殿にはお初にお目にかかります。」
「そんな、堅苦しい挨拶は無しにしようか。
何せ父親になるつもりだからな。」
「え、えーと、それは母と話し合っていただければ。」
「うむ、息子としては反対しないのか?」
「母が幸せになるなら反対しませんよ。」
「うむ、必ず幸せにしよう、聞いたかサチ、アベルくんは認めてくれたぞ。」
「アベルが認めても私が認めてません。」
「なに、じっくり考えてくれ。
それより、手強い敵にやられたと聞いたが・・・」
「恥ずかしい話です。見ての通り、戦えない身体となってしまいました。」
「ふむ、ならば湯治に行くとよい、戦いや政治から離れて休養をとりなさい。」
「しかし、やらないといけない事が!」
「それは他の人に任せたらよい、
今はゆっくり休んで身体を治しなさい。
アベルくんが倒せなくても、私が変わりに倒してみせよう。」
「しかし、タナトスは強すぎます。何らかの策を用いないと!」
「なに、私も強さには自信があるのでな、大船に乗ったつもりでいなさい。」
テルトラは自信満々で答えていた。
「母さん、テルトラ殿はこういってますけど大丈夫なのでしょうか?」
「この人の強さは人間やめてるから・・・」
「サチ、それは誉めているのか?」
「勿論よ、この状況だし、味方してくれるならこれ程頼もしい事はないわ。」
「任せとけ、アベルくんが戦う必要などない。」
サチに頼られたテルトラは気合い充分、いつでも戦闘できる状態であった・・・
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