第151話 裁き・・・

「アベル!娘に何をする!」

ユミナの姿を見てハインリッヒが怒鳴る!

「父上! お止めください!」


怒りのあまりハインリッヒはアベルに近付こうとするが重臣達が刀を首に突きつけた。


「俺達はいつでもその首を切り落としてもいいんだぞ!」

普段温厚なムナシゲの目が冷たくハインリッヒを見ている。


「うっ、アベル、止めさせないか。」

「さっきからアベル様を呼び捨てにしおって!貴様は何様のつもりだ!」

ムナシゲの刀が少し首に切り込む。

「待て!ムナシゲ。」

「はっ!アベル様。」


「アベル、家臣の教育ぐらいはしておけ。」

「勘違いするな、別にハインリッヒがどうなろうと関係ないが、せめて話ぐらいは聞いてやる。」


「な、なんだと!」


「父上お止めください!アベルさん、ユミナのこの姿は?」

ユリウスは動揺する心を静めながらアベルに聞く。

「ヨシモリの部下だった奴の手引きで他領に逃げようとしていた所を捕まえただけだ。

まあ、その部下も裏切って奴隷として売ろうとしていたみたいだがな。」


「そ、そんな!」


「所詮裏家業の奴等だ、トップが死んだら命令なんて聞かないだろう。」


「ヨシモリは死んだのですか?」


「どうやらそのようだ、俺の護衛が命をとして討ち取ったようだ。つくづく良い部下を失ったものだ。」

ユリウスに言葉はでない。


「さて、ユミナ、何か言いたい事はあるか?」


「ア、アベルさま、違うのです、これはその・・・」


「何が違う?

蔵から武器を持っていったよな?

俺も捕縛するように指示をしただろ?

違うか?」


「そ、それは・・・しかし、アベルさまが私を見てくれないから。」


「見てくれない?

今、ユグドラシル関係で忙しいのはユミナの為でもあったのだが・・・

まあ、ローエン領を救えなかった負い目もある、それでも、俺は動けない身体になるまで頑張ったとは思うが、それでは足りなかったか?」


「しかし、故郷を捨てることになってしまいました。

アベルさまは約束をしてくれましたのに!」


「確かに約束はした、だからこそ、ローエン領の領民全てを連れて避難したんだ、

まあ、大将の俺の意識がなかったからな、防衛戦を行えなかった事もあるのだろうが。」


「ならば、もう一度遠征軍を派遣してください!」


「無理を言わないでくれ、それにこんな事態を起こして遠征など出来る筈がないだろう。」


「なら私が責任を取れば遠征軍を派遣してくれるのですか?」


「ないな。

そもそも死人が出ている以上、責任はとってもらうし、ユグドラシルの人達に対する当たりも強くなるだろう、

そもそも、ユミナ、なんでこんな事をしたんだ。」


「それは、私を見てくれないから・・・」


「そうか、それしか理由がないか・・・

ならば仕方ない、ユミナには出家を言い渡す、寺に入って政治と関係ないところで余生を過ごすといい。」


ハインリッヒは何とかして思いとどめようと訴える。

「ま、待てアベル・・・殿、娘は、ユミナはまだ子供、余生を過ごせとはあまりにも長すぎる。どうか軽くしてもらえんか?」


「・・・これでも軽くしているのだが?

ユミナのせいで護衛の者は全員亡くなっただぞ。

本来なら死罪でもおかしくないところを、子供ということを考慮して出家という事になったんだ。」


「しかし!」


「父上、お下がりくだい。

アベル様、妹ユミナのおかした失態、死罪でも致し方なく思います。


ただ、父のいう通りユミナの長すぎる余生を考えれば家族として減刑の機会を求めたい気持ちも解っていただけないでしょうか?」


「減刑か?」


「はい、私や父が今後たてた手柄でユミナの減刑に繋げてもらえないでしょうか?」


「ユリウスくん、並大抵の事ではないと理解しているのか?」


「勿論にございます。兄として妹の身を案じるのは当然かと。」


「わかった、ユリウス、ハインリッヒの手柄をユミナの減刑に繋げると約束しよう。」


「ありがとうございます。」

ユリウスは深く頭を下げる。

その後、ユミナは尼寺に預けられ、ユグドラシルの関係者で面会出来るのはユリウスとハインリッヒのみであった。

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