第149話 逃走
モトイエの爆発は輿の上の俺にはよく見えた。
「何だ?」
俺は状況がわかっていなかったが、担いでいる者にはわかったようであった。
「隊長、お見事でございます・・・」
「何が起きたんだ?」
「隊長モトイエは職務をまっとう致しました・・・」
「なっ!」
言葉の意味を察して俺は涙するが・・・
悲しむ暇もなく、危機がおとずれる。
「伏兵です!」
ヨシモリは退路にも手勢を隠していたようだ。
100ほどの兵が潜んでおり、側面から撃たれる。
しかし、当たっているのに誰1人倒れない、
今残っている22人の内、10人が伏兵に突撃する。
「アベルさまを頼む!」
「隊長に続け!」
兵は血を吐きながら、伏兵に突撃していく。
「みんな・・・」
俺を守る為に死にいく兵を見ているだけの自分の不甲斐なさに涙が出る。
『力が欲しいか・・・』
俺の内から声が聞こえてくる。
「欲しい・・・みんなを守れる力がいる。」
『ならば、身体を渡せ、俺ならみんなを守ってやるよ。』
「本当か?渡せばみんなを守れるのか?」
『ああ、今すぐにでも助けてやる。』
「それなら・・・」
「ダメ!!アベルこっちを向いて!」
俺の呟きを聞いたセイに両手で顔を押さえられ、無理矢理目を合わせられる。
「あなたは今何をしようとしてたの!」
「俺は・・・」
「いい、あなたがあなたで無くなったら、命をかけて守ってくれている人に何て言うの!」
「でも、みんなが俺の為に死ぬなんて・・・」
「アベル!私達王族は生きなくてはいけないの!
彼等の命に答えたいなら、彼等の家族が笑って生きられる世界を作るの!
どんな事があっても自分を捨ててはダメ!」
「でも、死ぬ訳じゃない、今の俺じゃないかも知れないけど、俺は俺だろ?」
「でも、貴方じゃない。
サチさまの子供で、領民に愛され、私やリリーが大好きな貴方は貴方だけよ!」
「アベル様、事情はわかりませんが我等が必ずお助けします。どうか御安心を!!」
残りの護衛も満身創痍の中、戦い続けている。
「アベル様!御無事ですか!」
モトイエの爆発を見て、異変に気付いたムナシゲが手勢を連れて駆けつけてきた。
軍勢の出現に俺達を襲っていた者達は不利を悟ったのか一目散に逃げ出した。
「賊を討ち取れ!」
ムナシゲは部下に追撃を命じ、俺の元に来る。
「よくぞ御無事で。」
「ムナシゲが駆けつけてくれて助かった。
生き残っている護衛の手当てを頼む。」
しかし、護衛の生き残りは誰もいなかった。
彼等は援軍がアベルを助けたのを確認すると命を燃やし尽くし、全員が生き絶えていた。
俺は報告を受け、彼等の壮絶な戦いに涙し、手を合わせて冥福を祈る。
「・・・有事の際に彼等のような烈士が護衛にいたことを生涯の誇りと思う。」
暫く祈ったあと、ムナシゲに話しかけた。
「ムナシゲ、彼等の家族に手厚い配慮を頼むよ。」
「はっ、彼等もアベル様を御守り出来て喜んでいると思います。
しかし、何処の者でしょう?
ヨイの国でアベル様を襲うとは・・・」
「・・・ユミナだ、ヨシモリが指揮をとっていた。
俺を捕縛して、傀儡にでもする気だったんだろう。」
「ユミナ様が?・・・アベル様、如何になさいますか?」
「・・・子供だからな、死刑にはしたくないが・・・」
相手は子供だ、我慢をしなくてはいけないのだろう・・・だが・・・
俺は怒りを抑えるのに必死だった。
「アベル様、まずはドウセツ殿に相談致しましょう。
アベル様が直接何かなされる必要はありません。」
「わかった、まずは屋敷に帰ろう。
ムナシゲ、彼等の遺体を丁重に町まで運んでくれ。」
「かしこまりました。」
ムナシゲは俺の意をくみ、丁重に護衛のみんなを町に運んだ・・・
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