第147話 巡察

国に着いた俺達はすぐに軍を解散させ、領内の内政に努める。

全軍を上げての遠征の為に領内がだいぶ疲弊していた。


「屯田兵の皆さんには苦労をかけ続けてるね。

本当申し訳ない、せめてもの気持ちに倉から酒を持ってきた、みんなで飲んでくれないか?」

俺は輿に乗って屯田兵の元を訪れていた。


屯田兵には遠征中から開墾、鉄道の敷設、戦闘とフル活用しすぎていた。

さらにこの後も増えた人口の為に開墾の予定が組まれており、あまりの負荷に俺は心配になり様子を見に来たのだが・・・


「アベル様!我等の事はいいですから、何卒療養なさってください!」

「いやいや、せめて慰労の言葉ぐらいはかけさせてよ。」

「勿体無き御言葉・・・ですが何より御身を大切になさってくださいませ。

我等一同それが何よりの労いにございます。」

慰労に回る予定が屯田兵に帰るように言われる。


「屋敷にいても布団に横になるだけだからね、せめてみんなの前に顔を出すぐらいはさせてよ。」

「どうか、御自愛くださいませ。」


「アベル、また抜け出して!」

「ゲッ!セイ!」

セイが追いかけてきていた。


「ゲッ、って何よ!それよりなんで抜け出すの!」

「みんなが頑張ってるのに、俺だけ寝てるのもねぇ・・・」

「ねぇじゃないわよ!いい、アベル貴方は衰弱死寸前まで体力が落ちてるの、

風邪をひいただけでも命に関わると医者に言われたでしょ!」

「お医者さんはオーバーに言うだけだよ。」


その言葉を聞いた屯田兵達はあわてて布団を持ってきてアベルにかぶせる。

「ちょ、ちょっとみんな何を!」

「アベル様はゆっくりお休みくださいませ!」


「屯田兵の皆さん、皆さんの苦労は充分承知しております、しかし、アベルの体調がすぐれないので慰労は取り止めに致します。

後日、アベルが回復したあかつきには再度来ますので、どうか御容赦くださいませ。」

セイがみんなにお詫びをする。


「姫様、俺らは大丈夫ですから早くアベル様を屋敷に。」

屯田兵達は俺の体調を心配してくれている。

布団から顔だけの状態になっている俺は、


「取り止めにしなくてもこのまま・・・」

「ダメです!」

「お止めください!」

セイと屯田兵達に止められ、結局屋敷に連れて帰られる。


帰路でセイに愚痴る、かぶせられた布団はそのままだった・・・

「セイ、他にも回りたい所あったのに・・・」


「ダメだって言ってるでしょ。」

「でもなぁ、ユグドラシルの人達の所の様子も見たかったんだけど・・・」

「代わりの人が行くから大丈夫だよ、それにアベルは行かせられないの。

特に今の状態ではね。」


「そんなに状況悪いの?」

「うん・・・ヨイの人達との溝も深いのだけど、それ以上に故郷を捨てたことの不満や移民の苦しさからアベルを恨んでいるみたいなの・・・

それにユミナさんも・・・」


「ユミナがどうかしたの?俺の事を恨んでるの?」

「ううん、それはわからないけど、アベルの婚約者という立場を使って軍の倉を勝手に解放しての。」


「いや、それはダメでしょ。」


「当然ダメなんだけど、最初アベルの命令だと言って倉を開けさせて、その後ユグドラシルの人達が持っていったから、管理している兵が確認したところで発覚したの。」


「何が無くなったの?」

「旧式の軍事物資。」


「それは不味いね、ユグドラシルの人達が武装しているって事でしょ?」

「ええ、行方を調査しているけど、まだ見つかってないの。」


「ねえ、なんで、俺まで情報がきてないの?」


「ドウセツがアベルに心労かけさせたくなかったからよ。

もし今アベルがユグドラシルの人達の所に行って人質にされたら困るから絶対に行かないでね。」


「わかった、でも、ユリウスくんとランスロット、あとユミナを屋敷に呼んでくれるかな?」

「わかったわ、でも、私もその場にいるからね。」

「ああ、それはかまわない、さて、屋敷に戻るか。」


俺が屋敷に戻る途中、見慣れぬ集団が前から近付いて来ていた。

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