第146話 帰国

船はヨイに着く、

「久しぶりの祖国ね。」

サチは嬉しそうな表情を浮かべている。


「母さんの作った町だよ、みんなに顔を見せてあげてよ。」

「そうね。みんなただいまー!」

サチはその辺りで働いている人に声をかける。

「サチさま!!」

すぐに人だかりが出来た。

勿論警備の都合ある程度の距離はとっているが・・・

「みんな帰ってきたよ、よく此処まで町を立派にしてくれたね。お疲れ様です。」

「サチさま・・・」

領民達は涙でしゃべれなかった。


領民の相手をしているサチをおいて俺はユグドラシルから来た人達を広場に向かわせている。

其処には前もって連絡しておいたので仕分けの担当者が待機している。


これからユグドラシルの人達は各地の空いた土地で田畑を耕したり、新しく町を作っていく予定だ。


「アベル、何をしてるのかな?ちゃんと療養しないとダメでしょう!」

広場に向かうよう指示を出していたらセイに捕まった。


「セイ、大丈夫だよ、身体は動かないけど、頭は動くし。」

「それを大丈夫とはいいません。指示は他の人に任せてアベルは休んで。」


「でもなぁ・・・ほら、家臣達はユグドラシルの人にいい感情無いみたいだし。」

先日のユミナの発言から、関係が微妙になりつつあった。


「それでも、アベルは休むの。

ユリウスくんやランスロットさんが取りまとめてくれるからね。」


「うーん、それでもなぁ・・・」

「ダメです!はい、アベルを部屋まで連れていって。」

俺は動けないから輿に乗っていたのだが、セイの命令で担ぎ手達が動き出す。


「ちょ、ちょっとストップ!待って!」

しかし、担ぎ手達は止まってくれない。

「なんで!」

「私の命令が勝ったんですよ。」

「直属の上は俺だろ?」

俺は担ぎ手を見るが目をそらされる。

「みんなアベルが心配なんです。輿に乗らないといけないぐらいに身体が悪いのですから大人しくしてなさい。」

俺は輿に乗せられたまま屋敷に帰された。


輿に乗り、ろくに動けないアベルの姿を見た領民達は・・・

「おいたわしや・・・」

「さぞかし無念であらせられたであろうに・・・」

「おい、聞いたか?向こうのお嬢様はアベル様の体調を考慮せずに戦えと言ったとか・・・」

「いやいや、俺が聞いた話だと、約束が果たされてないと責め立てたそうだ。」

「なんだと!何て奴だ!」

領民達の感情も悪化していく。


今回の遠征で領民達の負担はかなり大きかった。

増税、仕事の増加、家族の出兵・・・

しかし、アベルの為、サチの為に歯を喰いしばって耐えていた。


そんな中でも、領民はアベル達を恨む事はなかった、失敗に終わった今でもアベルの容態の方を心配しているぐらいだった。

だからこそ、アベルが助けようとした相手から責められる、その事は許せるものではなかった。

そして、それはユグドラシル人にも向けられる。


本来なら協力を惜しまない、善良な領民達が手助けを渋り出す・・・

なるべく関わらないようにするなど、両者の溝は明らかになっていく・・・



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