第144話 意識回復
意識を取り戻した俺が最初に見たのはセイの顔のアップだった。
意識は取り戻したがまだ動けなかった俺に聞こえてきたのは・・・
「セイさま!抜け駆けはズルいですよ!」
リリーの声も聞こえる。
「だ、だって、みんなアベルと手をつないでるし・・・」
「だからって、キ、キスなんて!ダメです!」
「リリー何がダメなのよ?エリーゼもお兄ちゃんにキスするのよ。」
エリーゼは何も気にせずほっぺたにキスをする。
「エリーゼちゃんも!ダメです。女の子がそんなことしちゃ・・・」
「リリーもするのよ。ルルお姉ちゃんもこっそりする時あるのよ。」
「エリーゼ!それは秘密って約束したでしょ!」
「み、みなさん!何をしてるのですか!そんなことはお互いの合意の上で・・・」
四人は話しているのを見ている人に気付いていなかった・・・
「あ、あのね、アベルの事が好きなのはわかったからみんな落ち着きなさい。」
サチの声が響き渡る。
「えっ・・・いつから其処に?」
「みんなが起きる前からいましたよ。みんなで何をしてるのかな?」
「こ、これはねアベルを助ける為に仕方なかったのよ。」
セイが顔を真っ赤にしながらサチにいいわけを始める。
「おはよう・・・母さん・・・」
俺はやっと声が出せた。
「アベル!よかった、意識がもどったのね。」
「うん、セイやリリー、ルル、エリーゼのお陰だよ。」
「そうなの?みんなありがとう、お陰でアベルが・・・」
サチは涙で声がつまっていた。
俺は船内の会議室に家臣達を含め全員を集めた。
まだ、身体がうまく動かなかったのでセイ達に連れて来てもらったのだが・・・
俺が部屋に入ると既に来ていた家臣達が涙で迎えてくれた。
「アベルさま!よくぞご無事で・・・」
「ありがとう、みんな。
でも、あまり無事でもないんだ・・・」
俺は多くのスキルを失った事をみんなに伝えた。
「身体もまだ動かないし、もう戦いに出ることが・・・」
ムナシゲが聞き返してくる。
「それにどんな問題が?」
「いや、もう戦えないんだよ?」
「総大将が戦う必要はないのです。今まで先頭に立っていたほうが問題なのです。今後は後ろに控えていてください。」
「いや。でも、タナトスを何とかしないと。」
「そうですね、何かしらの対処は必要ですがアベルさまが戦うことではないですね。」
「それでも・・・」
「いいですか、大将が討たれたら敗けなんです。アベルさまは今後我等の活躍を見てくだされば良いのです。
前回不覚をとりましたが、次は必ずや私が倒してみせますから。」
「負けたお前だと説得力がないな、アベルさま次は私が戦いますのでご安心を。」
ショウウンがムナシゲの横から話し出す。
「ショウウン殿、それは些か失礼ではないですか!」
ムナシゲも反論するが・・・
「アベルさまに無理をさせおって、何を言う。」
「うっ!」
「二人とも落ち着け、アベルさまの御前だぞ、アベルさま、我等の手で片付けますから、どうか身体をいたわってくださいませ。」
ドウセツの心配が伝わってくる。
「わかった、それに本当に戦えそうにないんだ・・・こんな俺が主君でいいのか?」
「主君はアベルさまにございます。
お子をつくられ、跡を継がせるというのならいざ知らず、他の者を主君とあがめる気はございません。」
「ドウセツ、みんな・・・ありがとう。」
俺は家臣の忠誠心に涙を流す・・・
「アベルさま!」
集まりに遅れていたユミナが部屋にやってきた・・・
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