第143話 アベルの居場所

「エリーゼ?」

突如現れたエリーゼは俺に抱きついてくる。

「お兄ちゃんはお兄ちゃんだからお兄ちゃんなのよ。」


「エリーゼ?どうしたの?」


「あんなやつに身体を渡したらダメなのよ。」


『エリーゼ、格好いいお兄ちゃんの方がいいだろう?』


「黙ってて、お兄ちゃんはいつも格好いいのよ。」


「エリーゼ、でもな、みんなが望むのは俺じゃないんだよ・・・」


「そんなことないのよ、ルルお姉ちゃんもリリーもお兄ちゃんが大好きなのよ。」


「ルルやリリーもきっとあいつを望むよ・・・」


「そんなことない!」

ルルが現れる。


「ルル!」


「お兄ちゃんは昔から優しくて大好きだった!力なんていらない!だから一緒にいよ。違う人になるなんて嫌だよ・・・」


『ルル、違うも何も俺もアベルだ。』


「違う!貴方はお兄ちゃんじゃない!姿が同じ別人よ!」


「でも、今必要なのは力なんだ、みんなを守らないと。」

俺は力の必要性を考える。


「そんなの他の誰かがやるわ!お兄ちゃんが全て背負う必要何て無いのよ!」


『それはお前が一緒に育った家族だからだろ?』


「そうよ!家族にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんなのよ!」


『世間が許す訳が無いだろう!』


「世間が許さなくてもいいの!」

リリーも現れた。

「リリー?」

「世間が許さないなら、二人で何処かに逃げましょう。」


『おいおい、リリー。そんなこと言って、お前も英雄アベルにひかれていたんだろ?』


「そんなことない!!

強くみんなを引っ張っていく姿より、人に優しく出来るアベルさんが昔から好きなの!」


「リリー・・・」


「アベルさん、私は力を手にいれたからアベルさんが好きなわけではないの、冒険者をしてる頃からアベルさんをずっと好きなの。

お願い、こんな人に身体を渡したりしないで!」


「リリー」


『ふう、お前が非力なアベルでもいいのはわかった、だがどうする?

オウカの民は英雄アベルを慕っているのだぞ?

お前はそれを裏切るのか?』


「ふざけた事を言わないで!」

セイも現れた。

「セイ!」

「「セイさん!」」

何故かリリーとルルも驚いていた。


「セイさんどうして此処に?」


「アベル見舞いに来たら三人で手を握りあってたから、私はキ、キス・・・ううん、ちょっと身体に触れたら此処に来たのよ!」


「セイさん!寝てるアベルさんにキスしたんですか!」

リリーはセイを責める。


「じ、事故よ事故!」


「どんな事故ですか!確信犯でしょう!」


「そ、そんなことはいいの!それより!

「あまり良くないのですけど・・・」


セイは無理矢理話題を変える。

「そ・れ・よ・り!貴方、オウカの民をなめないでもらえる?一人の英雄にすがるような国ではないわ!」


『しかし、お前も英雄アベルに惹かれていたのだろう?』


「英雄?アベルが?違うわ、私は別にアベルが英雄だから好きな訳じゃないの、ただ一緒にいて楽しいから好きなの。

たとえ力が無くてもいいじゃない!

あっ、先頭で戦わなくなるからその方がいいのかな?」


『お前は王女としての自覚はあるのか?

今必要なのは力だろ?』


「それは個人がどうこうする話ではないわ、一人に頼った所で次に同じ事が起きた時にはどうするの?

王女としては国として対処する話だから、たとえアベルが弱くても問題ないわ!」


「セイ、あまり弱い弱い言わないでくれよ。」


「あら、弱くなるのでしょ?それなら仕方ないじゃない。

そうだ、弱くなるのなら、今度力比べしましょ♪

私に負けて悔しがってね。」

セイは楽しそうに笑っていた。


「弱くなっても其処までにはならないだろう?元々の力に戻るだけだろうし。」


「あら?元々強かったのかしら?」

「ソコソコは強かったはずだ!」

「口ではどうとでも言えるもんね♪」

「言ったな!」

セイと軽口を叩いていたら、だいぶ気が楽になる。


ふと、もう一人の時分を見ると少し透明になっていた。


『良いのか、ソウルイーターが使えなくなるぞ?』


「それでも・・・悪いが身体を渡したりはしない!」


『いつまでそう言えるか楽しみにしている。

力が欲しいならいつでも変わってやるからな・・・』

もう一人の俺は姿を消し、

俺達も現実世界にもどった・・・



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