第142話 魂の統合・・・

撤退を決めると動きは早かった。

サチが開発したゴーレム列車をフル活用して、港まで。

タケヨシも民間船も使用したピストン輸送で次々にヨイまで住人を送り出す。


ヨイでもムネユキ指揮の元、受け入れ準備を整え、到着した住人を各地に振り分けていった。


そして、撤退が終わった地域からレールを撤去していき、急拡大していた領土を一気に縮小していった。


そんな中、アベルの意識は未だに戻らず、サチの憔悴しきっている姿に家臣のみならずオウカ兵達全てが悲しみにくれていた。


「やっと、会えたのよ。お兄ちゃん。」

子供に見せるものではないと、エリーゼの面会が中々叶わず、撤退する船の中でやっと会う事が出来た。

「お兄ちゃん、意識をしっかり持つのよ。」

エリーゼはアベルの手を握る。

「リリー、ルルお姉ちゃんもお兄ちゃんの手を握るのよ。」

一緒に面会に来ていた、リリーとルルに手を握るように言う。

「エリーゼ?どうしたの?」

エリーゼの薦めによくわからないルルは聞き返すが・・・

「ルルさん、手を握りましょう。エリーゼちゃんも何か考えがあるみたいですし。」

「そうね、これでいいのかな?」

リリーとルルはアベルの手を握る。


「そう、それでいいのよ。お姉ちゃん達はお兄ちゃんに語りかけるのよ。

お兄ちゃんを知るのはお姉ちゃん達なのよ。」

「エリーゼ?」

疑問に思いながらも二人はアベルを思い、語りかける。



「此処は・・・」

俺は暗い世界にいた。

『やっと、きたか。』

俺は話しかけられた方を向くと其処には俺がいた。


「なっ!俺か?何故?いや、夢なのか?」

『少し違うな、此処はお前の魂の中だ。』

「魂の中?」

『タナトスもいい仕事をする、お陰で俺の力が増した。』

「タナトスの仕業か!」

タナトスの名前を聞いて警戒するが・・・

もう一人の俺は話を続ける。


『そうともいえるし、違うともいえるな。元々俺はお前の中にいた。』

「どういう事なんだ?」

『お前のスキル、ソウルイーターは元々俺のスキルだ。』

「えっ?」

『俺が生前使っていたスキルなんだよ。』

「生前ということはお前は死んでいるのか?」

『そうだ、俺はお前の前世だ。』

「そうか・・・」

そう聞かされると納得出来るものがあった。

目の前の俺は他人の気がしていなかった。


『さて、此処からが本題だ、そろそろ表を変わってもらおうか?』


「なに?」


『此処までいい目を見させてやっただろ?何も無い弱い平民だったお前が戦場を駆け、英雄になれたんだ、もう悔いは無いだろう。』


「それは俺が!」

『ソウルイーターがあったからだろ?』

「・・・」

『ソウルイーターが無かったらどうなる、熊ごときに食べられて終わっていただろう。違うか?』

「それは・・・」

『お前を見ているものが何人いる。皆がお前に望むのは英雄としてのお前だ。』


「違う!」


『違わないだろ?家臣達が力の無いお前を主君とあがめるか?

婚約者がお前に望むのは自身を守ってもらう強さじゃないのか?』


「うっ、たしかに・・・それはあるかも知れない。」


『そうだ、誰しもお前に望むのは英雄アベルだ、タナトスを討ち破り、皆を引っ張って行くお前を待っているんだ。

だが、ソウルイーターの力を使わずにそれが出来るか?』


「無理だ・・・」


『そうだ、だが、俺なら出来る。タナトスを傘下につけ、世界の覇者になることも出来る、皆が望む姿はお前じゃなく俺なんだ。』


「俺じゃない・・・」


『そうだ、お前を見ているものがどれだけいる?

家臣達はどうだ?アイツらは母親しか見ていないだろう?

婚約者はどうだ?それこそ英雄アベルしか興味が無いだろう。

ユリウスは!

ハインリッヒは!』


「それは・・・」

俺は返事が出来ない。

きっと俺に力がなければ会うことも、ましてや慕われる事なんて無いだろう。


『そして、母親はどうだ?

勇ましいお前に誇らしくなっているようだが・・・

それはお前なのか?』


「・・・」

母親に認められているのは英雄アベル・・・

本当の俺は・・・


『母親の為にも身体を渡せ、俺なら英雄アベルになってやる。』


「英雄アベルに・・・」


『そうだ、皆が望むお前になってやれるのは俺だけだ。』


「・・・みんなをキズつけたりはしないか?」


『勿論だ、約束してやろう。』


「それなら・・・」


「ダメなのよ!」

エリーゼが其処に現れた!

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