第141話 撤退
エンに着いたオウカ軍はアベルを寝かせた後、会議を行う。
「現状はどうなっておる?」
ドウセツが偵察を行っていたサイゾウに聞く。
「ハッ、城から出てきた魔族は四方に散ったようにございます。
此方に来たものはシマズ殿が討ち取り、他三方は不明にございます。」
「タナトスとか申す者の行方は?」
「それも不明にございます。しかし、城から追加で魔族が出てこない所を見ると城に残っているのかと。」
「ムナシゲ、タナトスというものはそれ程強かったのか?」
「はい、アベルさまが尋常ではない動きで戦われましたが、余裕を持って受けてました。」
「・・・さて、どうしたものか。アベルさまを主君と呼んでいたということだが、意味はわかるか?」
「いえ、ただ戦いの最中に気付いたような感じでございました。」
「わからぬ事だらけだな。」
「そんなことより、アベルさまの容体はどうなんだ!」
チカヨシの心配は其処だった。
「落ち着け、今はサチさまとセイさま達がみておられる、医師の見立てだと疲労しているだけと言うが・・・」
「ムナシゲとソウゴンの話を聞く限りでは、タナトスに何かされたと考えるべきだな。」
ショウウンは冷静に語る。
「くそっ!俺がいながら!」
ムナシゲは自身の不甲斐なさに激昂する。
「ムナシゲも落ち着け、さて、どうするか。1度ヨイに戻り仕切り直すか?」
ドウセツにとってこの地はどうでもよく、必要なら切り捨てることに迷いはなかった。
「お、お待ちを!我等を見捨てると言うのですか!」
ランスロットとユリウスは焦っていた。
オウカ軍は魔族とやりあっても勝っているが、エン軍はかなりやられていた。
ここでアベルの軍がいなくなれば、エンの地は魔族にやられるのは間違いなかった。
ドウセツがユリウスに代表して話す。
「しかし、我等はいつまでも此処にいられないし、魔界と繋がった以上、自力で何とか出来ないなら滅びるだけだぞ。」
「そんな・・・」
「ただ見殺しにするのはアベルさまの気持ちに逆らう事になるだろう。
ユリウス殿が良ければ住人ごと移住されるのはどうだろう?」
「祖国を捨てろと・・・」
「力になれず申し訳ないが、アベル様も負傷なされ、全力を上げても落とせなかったのでな、これ以上の支援は厳しいな。
住人には今までと同じ暮らしとは言えないが出来るだけの事はしよう。」
「・・・どうしようも無いのですか?」
「・・・うむ、魔族だけなら何とかなるが、タナトスは別だな、ムナシゲがいてもどうしようもなかった以上、倒すのは難しいだろう。」
「それではオウカの地にこもっても同じでは!異国の地だからこそ出来る作戦もあるのでは!」
「ユリウス殿、気持ちはわかるが・・・我等もこれより奴を倒す術を探さねばならん、それにオウカには我等以外にも猛者はいるのでな、其処に援軍を頼む手もある。
しかし、この地まで来いとは言えんな。」
「・・・」
「ユリウス殿、貴方がアベル様の婚約者の兄だからこそ移住を持ちかけているのですぞ。
そうでなければ、早々に撤退に入っておる所です。」
「・・・わかりました、しかし、移住が終わるまで領民達の護衛を願いたい。」
「もちろん、それぐらいはしよう。ただ長々と時間はかけれない。タナトスが来る前に撤退したいのでな、なるべく急いでくれ。」
ユリウスはその日のうちに領内すべてに連絡口を回す、勿論反対するものも多くいたが、側近達を各所に送り、事情を説明、生き残る為に仕方ない事を伝えた。
領民の多くは家を、故郷を捨てることに不満はあるが、長年善政をしてくれていたローエン家からの涙交じりの説明に新天地に移ることを了承した。
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