第136話 アベルを思う女達

セイが援軍を連れて来れたのには訳があった。

戦が始まる前にセイはアマテラスから神託を受けたのである。

神々の規則により、断片的にはなったがアベルが危機に陥る事、そして、援軍が必要な事を伝えられていた。


そして、神託を受けた翌日、募兵をしようとしたところにヨシヒロが来訪してきた。

「これはセイさまイマハルにおられるということは・・・おめでとうございます。」

「いや、ヨシヒロさん、まだ、其処までの話にはなってないからね。」


そして、セイは考えつく、募兵する兵よりシマズを連れて行った方が力になるのではと。

募兵した所で集まった兵に訓練したりするには時間がかかる。


それなら精強で名高いシマズを・・・

「ヨシヒロさん!アベルを救いにサチさまに会いに行きませんか!」

「アベルさまを救いに?」

「実は・・・」

受けた神託をヨシヒロに話す。

「わかりました!直ぐにでも、援軍に向かいます。」

セイはタケヨシに話、船を用意してもらうが・・・


「セイさま、他国に軍を出すには王の許可が必要ですが、いかにしますか?」

ヨシテルに頼めば直ぐに許可が出るとは思うが、早く向かわねば取り返しのつかない事になる気がしており・・・


「王位継承権と引き換えに無理を通します。各国に通達を、あと父にも連絡をお願いします。」


王位継承権と引き換えにすれば一度だけ王命と同じ効果を出して良い、という法律をヨシテルはサチがいなくなった日から制定していた。

今後、混乱もあるかも知れないが、王位継承権のせいでサチがいなくなった事を考えるとヨシテルとしてはどうしても制定したかった、そうすることで二度とサチのようにが出奔するような事が起きないようにしたかった。

その為反対を押して制定したのだ。


それをセイが使った。

「よろしいのですか?」

タケヨシは再度聞く、アベルの為に王位継承権を使用するということは、王族としての死を意味しており、王女が男にたいして使う事は降嫁を意味しているようなものだった。


「かまいません!それより早く出立の準備を!」

「はっ!姫様のお覚悟承知致しました。者共!姫様のお気持ちに答えるぞ!準備を急げ!」

タケヨシ達は急ぎ出立する。


一度シマズ領に寄り、兵を乗せて行くがシマズ領では民間船も動員して既に渡航が始まっていた。

「これは・・・」

その光景にセイもタケヨシも驚愕する。

「なに、出兵の権利に外れた者達が自費で向かっているのですよ。

何せサチさまにお会いできるチャンスですからな、皆が必死なのですよ。」

サチと話しているのはシマズ家当主のヨシヒサだった。


「ヨシヒサさん、なんで此処にいらっしゃるのですか?」

セイがいるのは船上だった、其処に当主自らいる意味は・・・


「もちろん、私も向かうからな。サチさまにお会いできるのに他の者に任せる訳にはいかん。」

「いえいえ、当主が留守にして大丈夫なのですか?」

「親父を置いてきている、あの親父はこっそり行こうとしやがって、何が元当主としてお会いしたことのあるワシが行かねばならんだ、罰として代理を任せてきた。」

セイは何となく親子だなと思った。


「セイさま、困った事が・・・」

タケヨシが3人の女性を連れて来た。


エリーゼとリリ、ルルだった。

「何故3人が?」

リリが代表して話す。


「あの私達もアベルさんの所に連れて行ってください!」

「リリさん、向かうのは戦場ですよ?」

「知っています!でも、アベルさんが危ないのでしょ?」

「それは・・・何故知ってるの?」


セイは3人に伝えていないはずの情報に何故知っているか疑問に思う。

その疑問にエリーゼが答える。


「セイお姉ちゃん、アマちゃんが言ってたのよ、お兄ちゃんが危ないって。」

「エリーゼちゃん、アマちゃんって誰?」

「アマちゃんはアマちゃんなのよ、それでリリとルルが必要って言ってたのよ。」

「リリとルルが?」

「そうなのよ、じゃないとお兄ちゃんが壊れちゃうのよ。」


「アベルが壊れる?」

「そうなのよ、セイお姉ちゃんだけじゃ、足りないのよ、お兄ちゃんをお兄ちゃんとして見てる人が大事なのよ。」


「それがリリとルルなの?」

「そうなのよ、2人はお兄ちゃんがお兄ちゃんの時を知ってるのよ。」

「アベルがアベルの時?」

「そうなのよ、セイはお兄ちゃんをお兄ちゃんとして見てるから同じくらい大事なのよ。」


エリーゼが言っている事はよくわからないが、意味もなく無茶をする子でもないし、

何より戻って降ろす時間も足りなかった。

「3人とも絶対に軍から離れないで、いい!」

「「「はい。」」」

こうしてアベルを思う女3人が戦場に向かう事となった。

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