第129話 アーサー狂気が宿る

「オウカとは恐ろしいな・・・」

エンに滞在しているアーサーは思わずこぼした。


戦わずして、ユグドラシルの半分が傘下に入り、それは未だに拡大している。

そして、それを支えているのは莫大な食料だった。


オウカから船で持ち込まれ、傘下の街に配られる、これで国民の多くが来年の収穫まで食いつなげるだろうが、果たして彼らはユグドラシルに戻ることを望むのだろうか?

オウカに統治されることを望むのではないか?

そう考えるとアーサーは恐ろしくてならなかった。


アベルに会ったアーサーはすぐに先日の失礼を謝罪し、アベルもそれを許してユグドラシルの代表として扱ってくれているが、


オウカの兵は未だに敵を見るような目を止めていない。

彼らにとってアーサーはサチの救出の邪魔をした者なのだ。


いつ誰が暴走して、斬られてもおかしくないとアーサーは考えており、そのせいで城内から出る事が出来なかった。


代わりに合流したランスロットが精力的に動き回り、国民に接していた。

ランスロットに以前の傲慢さはなく、誰とでも肩を並べて呑み、

その席で先の戦でのアベルの素晴らしさを語る為に、オウカ兵の受けも良く、国民にとって、今やアーサーかランスロットどちらが代表かわからない状態になりつつあった。


問題はまだあった。

アーサーの最大の味方である、ハインリッヒが隠居してしまったのだ。

理由はユリウスの若い感性がこの情勢に必要だと述べていたが、国にしがらみが少なく、アベルを慕うユリウスの事だ、いつオウカに鞍替えしてもおかしくないとアーサーは考える。


そうして疑心暗鬼におちいったアーサーは人前に現れる事を嫌がり、城の奥で過ごす日々を続けている。そして、人々から段々忘れ去られていく・・・


「ランスロット!」

その日アーサーはたまたま見かけたランスロットを呼び止める。


「兄上、お久し振りです。」

「お前には王族の誇りは無いのか?」

「王族の誇りですか?持ってはいますが、何をお怒りですか?」


「お前は民衆に紛れて呑んだりしているとか聞くが?」

「民の声を聞くのも王族のつとめでしょう。」


「王族が混ざって呑むなどありえん!」

「・・・兄上、今必要なのは王族の権威じゃなく、民の信頼だと思います。

父上が失ってしまったものを回復させなければユグドラシルに未来は無いと考えます。」


「そんな事はわかっている!だが、見てみろ、ここはユグドラシルか?オウカの支配下ではないか!」


「兄上、ならアベルさんの力なく平和を取り戻せますか?」


「ぐっ・・・」

アーサーは言葉もなかった。


「他国の力を借りるとはこういう事です。

あとはアベルさんの気持ち次第、友好的にしていたら、ユグドラシルの存続は認められるでしょう。」


「なら、お前は私にアベルにすがって生きよというのか!」


「兄上、そこまでしなくてもアベルさんに誠意ある対応をしていたらいいんですよ。

あの人に領土的野心は無いようですから。」

「そんなのわからないじゃないか!現に一部の領土を自領にしているじゃないか!」


アベルはいつでもユミナが帰省できるようにとの配慮と現地での食料確保の為に必要な地域を求めただけだったが、

アーサーとしては土地を渡す事は受け入れがたく、状況的に仕方なく合意していたが、不満を募らせていた。


「兄上、あの地は魔物も多く、手がつけれなかった地区ですよ、領有を主張するのも厳しいのにそれで話をつけてくれてるのですから、不満を言うのは間違っていますよ。」


「何をいうか!今や一大生産地になっているじゃないか!元々我等の土地なのだ、事が終われば返すのがスジだろう。」

屯田兵の力で食料生産地に変貌を遂げた地を勿体ないと思い、アーサーは返還を訴えたが、アベルにあっさり却下されていた。


「兄上、それは無理でしょう。向こうも開発に費用も手間もかかっているのに、いきなり返せと言われても困る話ですよ。」

「しかし、あの地があればユグドラシルの国力は間違いなく上がるではないか!」

「それは上がるでしょう、でもその結果オウカと戦争するのですか?」


「うっ!そ、それは・・・」

「一度譲渡した土地を返せとは宣戦布告も同然ですよ、よく却下だけで済ませてくれたものです。」

ランスロットはタメ息をつく。


「それは・・・なぁランスロットよ。」

「なんですか?」


「仮にだ、仮にだぞ、我等と父上の王国軍が手を結んだら、アイツに勝てるのではないか?」

アーサーの目が狂気の色に染まる。


「兄上!何を考えているのですか!父上に命を狙われて此処に逃げて来たのではないのですか!」


「仮にだと言ったであろう、だが今や一大勢力になった我等だ、父上の軍と合わせれば20万にはなるだろう。そうすれば、2万程度しか連れていない、アイツを破るのは夢ではないのでは?」


「無理です!そもそも我等の軍のうち何人がオウカとの戦に付き合ってくれるのですか?」


「全軍が付き従うに決まっておろう、その時は王太子たる私も出陣するからな、士気も上り充分やりあえると思うのだが・・・」

アーサーは夢物語を描いていた。

王太子に国民は無条件で従うと信じ、国難に立ち向かう英雄の姿を自分に重ね、国民の歓喜の元、中高の祖として歴史に輝く自分の姿を・・・

そんな有りもしない未来を・・・


「兄上、バカなことを考えるのはお止めくださいませんか。

ほとんどがオウカに付くでしょう、その時こそユグドラシルの最後です。」

かつて王位を夢見て失敗したランスロットは現実が見えていた。


「ランスロット!お前はいつからオウカの手先に成り下がった!

命を助けてやった恩を忘れて私に歯向かうとは!」


「それを言うなら私はアベルさんに付きますよ、私の命を助けてくれたのはアベルさんですからね。」

ランスロットは睨むようにアーサーを見る。


「ぐぬぬ・・・もうよい!お前とは話すことなどない!」

アーサーは城の奥に下がっていった・・・


「兄上・・・どうか、間違った選択だけはしませんように・・・」

ランスロットは祈る気持ちで立ち去るアーサーを見ていた。

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