第128話 サチとユミナ

「アベル、無事だったか!」

ハインリッヒとユミナ、ユリウスは俺達を出迎えに街の外まで出てきていた。

「ええ、無事に母を助け出しました。」

俺がそういうとサチが前に出てくる。


「アベルの母のサチと申します。息子がお世話になったようで。」

「なんと、美しい方だ。それにアベルの親とは思えないほどの若さだな。」

「あら、お恥ずかしい。それで息子の婚約者とはどなたですか?」


「ユミナ来なさい。」

ユミナは前に出てくる。

「私はアベルさまの婚約者でユミナ・フォン・ローエンと申します、以後よろしくお見知りおきを。」


「あらあら、可愛らしい子ね、私はミナモト・サチ、アベルの産みの親よ。

・・・ねえ、ユミナさんはアベルとユグドラシル、ううん、この領地どちらを大事にするのかしら?」


「サチさま、それはどういう事ですか?

どちらも大事なのですが。」


「うん、そうね、話に聞くところによると、この国は今、平和じゃないんでしょ?

自分で立て直す力があればいいけど・・・」


「そ、それは・・・」

「なら、どちらかを選ばなければいけない時がくるはず、それを聞かせてもらえるかな?」


「母さん、それを聞くのは酷くないかい?」

「いいから、少し黙ってて、それでどうなの?」


ユミナはじっくり考えるが・・・

涙を流しだし・・・

「え、えらべません、ど、どちらも大事です。

アベルさまも大事なのですが・・・

ごめんなさい、産まれ育ったこの地を捨てることもしたくありません・・・」


泣き出したユミナをサチは抱き締め、

「それでいいのよ、産まれ育った地を簡単に捨てれる方こそ間違っているの。」

「でも、アベルさまと一緒にいるには、ローエン領を気にしてたら・・・」


「いいのよ、それぐらい何とかするのが男の甲斐性です。

アベル、小さい婚約者さんが泣いているのですよ。

何とかしなさい。」

「わかったけど、俺達が介入していいの?」

「かまいません!」


俺は少し考える・・・

「ハインリッヒさま、俺達はこれからローエン領の安全を確保します。」

「な、何をするか、聞いてもいいか?」

「簡単に言うとサクソンを追い出して、王都に攻め上がります。」

「なっ!それは反逆では・・・」

「まあ、王族の誰かを旗頭にしますが、アーサーは今何処に?」

「アーサーさまは今、隣の伯爵領に行っている。」

「ふむ。ならランスロットに連絡をとって・・・」


「お待ちください、アベルさん。」

ユリウスが口を挟んできた。

「アーサーさまの先日の失礼、どうか、お許しくださいませんか。」


「ユリウスさま、どうしたんですか?」

「ここでランスロットさまを旗頭にしますと王位継承に問題が生じてしまいます。

どうか、アーサーさまを旗頭にしてもらえないでしょうか?」

「・・・アーサーですか?しかしですね、先日の事で関係が悪化してますから、おさめた後で敵対されるのはめんどくさいですし。」


「それはアーサーさまも謝罪をしていました。直接謝罪がしたいともおっしゃっていました。

どうか、寛大な心で許してもらえませんか?」

「わかりました。ユリウスさまの顔を立てて、アーサーさまを旗頭に致します。」

「ありがとうございます。すぐに連絡を致します。」


後日、アーサーと会談を行う。

「アベル、先日は失礼した。」

アーサーは軽く頭を下げた。


「ええ、私も急いでいたとはいえ礼を失していました。お互い様ということで宜しいですか。」

「ああ、それで、用事が終わった所で我等の支援をお願いしたいのだが?」


「ユリウスさまからも言われてますので・・・そうですね、ここから此処までの土地を頂けたら、協力致しましょう。」


俺は地図を広げ、上陸した土地からローエン領までをもらえるよう交渉する。

ただ、その地は現在魔物が住む森であり、ユグドラシル領と呼んでいいかはわからない地帯がほとんどだった。

「土地か・・・仕方ない。ただし追加は許さんからな!」

その態度に少しくるものがあったが・・・

「ええ、この地でいいですよ。」

こうして俺達はアーサーを旗頭にユグドラシル国の沈静化に入る。



食料難の街に傘下に入る代わりに食料を配布、これだけでも多くの街が傘下に入る。

そして、この話に乗らなかった領主は住人の手によってその地位を追われていた。

それほど、ユグドラシルの住人は飢えていた・・・

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