第127話 これまでの説明

洞窟から出ると、全兵士が跪いていた。

「アベルさま、サチさま無事の帰還お喜び申しあげます!」

「ありがとう、みんな、私もなんとか無事だよ。」

サチの言葉に泣くものが多くいた。


「さあ、帰るか。」

俺はみんなが落ち着くのを待ってから指示を出した。

「はっ!」

そして、帰路につくが・・・


「ねえ、アベル、この軍勢どうしたの?ここユグドラシルよね?」

「母さんを捜しにみんなで来たんだ。」


「あなた、何を言ってるの?これ侵略行為じゃない!」


「大丈夫、此処は今敵に攻められて微妙な地域だし、国自体も内乱中だから、俺達を取り締まる力はないよ。」


「そんな事じゃないの!・・・あれ、内乱起きてるの?この国に来た時は落ち着いていたと思ってたけど?」


「今の王が急に増税をしたせいで国民が耐えきれず内乱が起きたようだね。」


「まさか、マーリンが関わっているのでは?」


「父さんを裏切ったっていう奴だよね?」

「ええ、アイツが裏切らなかったらタクトがやられる事もなかったのに!」


「じゃあ、知ってそうな人に聞いてみる?」

「誰か心当たりがいるの?」


「この国の王太子が国を追われて近くに来ていたから、王の側に誰がいたかぐらいは知ってるかなと?」

「アベル、王太子と知り合いなの?」

「うん、まあ、この前ちょっともめたけど・・・」


「ねえ、あなたがどう過ごして来たか教えてもらえるかな?」

「そんなに大したことはしてないよ。」

「ううん、普通は王太子と知り合いになんてなれないのよ。それに子供がどう育ったかも聞いてみたいし。」


「そう、じゃあ、言うけど。

この洞窟近くのエデ村の孤児院で育ったんだ、アダとエダっていう院長さんが俺の親代わりだったんだ。二人は優しくて二人の子供のルルって子とも分け隔てなく育ててもらったんだ。」


「そう、会ってお礼をしなくちゃ。」


「今はオウカに来てるから、帰ったら会えるよ。

でも、俺はなんか村に馴染めなくて、孤児院の子達以外で話せていたのは・・・カインとマインっていう二人の幼馴染みぐらいだったんだ。」


「そう、それなら幼馴染みさんにも会ってみたいわね。」


「それはいいよ。」

「えっ?」

「二人には殺されかけたし。」

「どういうこと?」


「俺は冒険者になれる頃に村を出てシーマという街に行って三人で冒険者になったんだ。

三人で順調に依頼もこなしてランクも上げていたんだけど、

ある日、キングベアーに襲われて・・・

当時の俺達の力じゃ勝てない相手で、俺は戦っていたんだけど、二人は俺を見捨てて逃げ出したんだ。

それで、俺は巣に連れていかれて、エサにされる前に力に目覚めて逃げ出したんだ。」


「アベル・・・」

サチはアベルを抱き締める。


「怖かったよね、辛かったよね。

友達に裏切られて、熊のエサになんて・・・」

サチの瞳から涙が流れている。


「も、もう大丈夫、リリーっていう冒険者ギルドの受付嬢に支えてもらったから。」


「あら、アベルすみに置けないわね。その子にも会わしてもらえるかしら?」


「うん、今はオウカにいるよ。」

「あらあら、そういう関係なの?」

「好意は向けられてるけど・・・」

「あら、どうしたの?」


「俺、熊に襲われて帰った時から人からの好意がわからないんだ・・・」


「それって、どういうこと?」

「状況とか話とかで好意を寄せて来てくれてるのがわかっても、心があまり反応しないんです・・・」


「もしかして・・・」

「たぶん心が壊れているのだと・・・

あっ、でも、最近は少しはマシになってきてるよ、ヨシテル伯父さんに家族のあたたかさを教えてもらったし、

家臣達が寄せてくれている忠誠心とか、

何より母さんが残してくれたメッセージから親の温もりが感じられたよ。」


「そこに女性からの好意が無いのは?」


「うっ・・・それがよくわからないんだ・・・

熊に襲われた時、マインという幼馴染みに恋をしていたんだ、でも、マインはカインの彼女で毎晩のように盛っていて、襲われた日も見張りはアイツらなのに盛ってて・・・

それなのにアイツらは俺を見捨てて逃げ出して・・・」


「そう、そのせいで変に女性不審になってるのね。」


「わかっているんだよ、アイツと他の子は違うって。でも、好意がよくわからなくなって・・・まだ、打算とかの方が計算出来る分、安心出来るというか・・・」


「打算?他にも誰かいるの?」

「うん、婚約者がいるよ。」

「婚約者!!その話を聞かせなさい!」


「わ、わかったよ、でも順番に話すよ。

街に帰ってから、手に入れたスキルを検証してたら回復魔法に気付いたんだ、そしたら、リリーさんの父親でギルドマスターだったマッドさんの紹介でオズマという剣豪がやって来て、失った腕を治せと脅してきたんだ。

でも、当時は欠損が治せるかわからなかったから、街から逃げたんだ。」


「はぁ、それでまた人を信じれなくなっちゃったのね・・・」


「それで、王都に来ている途中で公爵家の馬車が崖から落ちていたから助けに行ったんだけど、二人の子供が重症だったから回復魔法で治したんだ。

その後はお礼として、公爵家にお世話になっていたんだけど、王太子のケガの治療を頼まれて治したことで多少王太子と縁が出来たんだ。」


「なるほど、それなら知り合いになれるわね、アベルの回復魔法は普通じゃ無いし。」


「その後、他国に攻められて、公爵が出陣することになったんだけど、お世話になってたから助けようと願いでたら、援軍の将を任されたんだ、そして、その時に助けた娘のユミナと婚約することになったんだ。

たぶん、公爵は親族を援軍の将にしておきたかったのだと思うけど。」


「それで打算とか計算で婚約って言ったのね。」


「うん、それにユミナは10歳だからね。

政略結婚という事かなと一応その時には王太子を助けた事で子爵になってたし。

それで、援軍に向かおうとしたんだけどサイゾウ達が俺の援軍に来てくれて。一緒に戦ってくれたんだ。」


「それでオウカと繋がりが出来たのね。」


「うん、サイゾウ達は俺にオウカに行く事を条件に大活躍してくれて。戦後、オウカといったんだ。

そこで、母さんの手紙を見つけて、家臣達に認められて。

ヨシテル伯父さんに会いに行って・・・あっ

母さん、ヨシテル伯父さんに家族が出来てるの知らないんじゃ?」


「お兄ちゃんに家族ができてるの!会ってみたいな。」


「娘のセイならイマハルにいるから、帰ったらすぐに会えるよ。」

「ねえ、なんで王の娘がイマハルにいるの?」


「イトコで仲がいいから?他の領主に攻められない為と伯父さんはいってた。」

「普通は来ないからね、まあ、お兄ちゃんの狙いはわかるけど・・・その子可愛いの?」


「可愛いよ、負けず嫌いですぐにムキになるけど、優しくて、笑った顔が可愛いんだ。」

「ふ~ん、帰ったらムスコのお嫁さんを整理しないとね。」


「母さん、なんでそうなるの?」

「あら、大事よ。領主だから側室とかはいいけど、序列はつけないと国が乱れる元だからね。」


「まあ、帰ってからだね、そうだ話に出ていたユミナはユグドラシルにいるから、最初に会えるよ。」

「なるほど、ここは母の威厳を見せる時だね。」

サチは気合い充分でエンの街に向かった。

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