第120話 エン城内

エンの城内に伝令が走る。

「ハインリッヒさま、ユグドラシル国軍とサクソン軍、共に壊滅撤退しております。」

「なんと!ユグドラシル国軍がサクソン軍と戦ってくれたのか?」

「い、いえ、正体不明の軍勢が両軍と対峙、交戦したようにございます。」

「正体不明だと!」


次の伝令が別の情報をもたらす。

「ハインリッヒさま!正体不明の軍から使者が来ております。」

「なに、すぐに会う、丁重に案内してくれ。」


使者をつとめる、アキツグは謁見室に通される

「私はオウカ国ヨイ軍の使者でアキツグと申します。此度は我が主君アベル様より対談を行いたいとの既望で参りました。」

「アベルが軍を率いて来ておるのか?」

「はい、今や敵国とも言えるユグドラシルにアベル様が単身来るような事はございません。」

「そ、そうか・・・」

ユミナから事情を聞いている、ハインリッヒは敵国という言葉に寂しくもあり、理解も出来た。


「では、我が城にお越しいただきたい、出来るだけの歓迎はしよう。」

「申し訳ない、失礼とは思いますが、アベル様の安全を考えると城は避けたいのです。

我々はオウカとユグドラシルは既に敵国と考えておりますので、ユグドラシル公爵であるローエン家の城の立ち入りはどうか御容赦を。」

「なっ、い、いや、当然の配慮だな、こちらこそ失礼した、ならば城外にてお会いしよう。明日の朝では如何かな?」

「わかりました、アベル様にお伝えしておきます。」

アキツグは城から去っていく。


「ユリウス、ユミナ、朝、アベルに会う。二人とも会う準備をしておきなさい、それとユミナはアベルに着いていく準備もな。」

「わかりました。」


ユリウスは承諾するが、

「お父様、しかし、この状況で町をおいていくなど・・・」

ユミナは町が気になって、アベルに着いていくか迷っているようだった。


「ユミナ、町の事は僕が何とかするから、ユミナはアベルさんと共にいるべきだよ。」

ユリウスはユミナをアベルの元に行くように言う。

「でも、お兄様、私にも出来ることがあります!」

「ユミナ、君の気持ちはどうなんだい?領地の事は領主の父上と嫡男の僕が何とかする問題だよ。あとはユミナの気持ち次第だ、ユミナはアベルさんの事が好きじゃなかったのかい?」

「・・・好きです。」

「なら、その事だけ考えなさい。ユミナは政治的な事に動きすぎだよ、そんなんじゃ、オウカの王族とわかったアベルさんやその家臣の皆さんと溝が出来てしまう。あくまでも嫁いだ先を大事にするように。

領地の事はこの兄に任せてくれたらいいから。」

「お兄様・・・」

「ユミナはアベルさんの地位が好きな訳じゃないだろ?自分に正直に生きなさい。」

そして、ユリウスは父ハインリッヒに向きなおし。

「そして、父上、何故婚約を正式にしておかなかったのですか!」

ユリウスは父を責める。


「すまない、出兵前だったので陛下に報告したから終わった気になっていた。

せめて教会に伝えていれば・・・」

「あの時にしておけば、オウカにしてやられる事もなかったのですが・・・

過ぎた事を言っても仕方ないですね。

ユミナ正妻の座は諦めないといけないかも知れないことは覚悟しておいてください。」

「・・・わかってます。アベルさまのお立場が上がりすぎてますから。」

「そうだね、それにユグドラシルがこの状況だし、ユミナには申し訳ないのだけど・・・」

「わかってます。」

ユミナは涙を浮かべており、ユリウスの目にも涙が浮かんでいた。

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