第111話 モルが・・・

「何を二人で話しているんだ!」

モルは二人が仲良さそうに話しているのが気に入らなかった。


俺は改めてモルに真実を伝える事にした。

「一応言っておく、リリーは王族じゃないぞ。」

「そんな筈がない、そうじゃないとオウカに行ける船を用意出来る訳が無いじゃないか!」

「俺が王族だ。」


「何を・・・!」


「リリーがオウカで暮らすのに寂しくないよう、また、ユグドラシルで何が起きても気を病まないように、オウカの姫が俺の側室になるリリーの為に用意したんだ。」


「嘘だ・・・」

此処にも来てもまだ信じて無い様子だった。


「そう思うならそう思ってろ、ただし、俺からの援助は無いと思え。」


「お前からの援助なんか無くても、リリーから!」


「私も援助しない、というか出来ないよ。私はここで何かの権力なんて無いから、

アベルさんとの付き合いで友達や家族を連れて来れたの。

今後の生活の保証もアベルさんとの繋がりがあるからなの。もし、私が裏切ったらみんな路頭に迷う事になるよ。」


「なっ・・・」


「リリー、もういいか?あまり人前でバカにされてるのを見逃す訳にも行かないんだ。」

「はい、すいません、あんな人を連れて来てしまって・・・」

「何を二人で話しているんだ!」

モルはただキレて叫ぶだけになっていた。


「お前に選ばしてやる、このままユグドラシルに帰るか、ここに住むか?一応リリーとの約束だ、死なない程度に食べ物はくれてやる。」

「何を!・・・ま、まってくれ、本当の事なのか?」

モルは反論しようとしたが此処に来て周囲の様子に気付き、声を荒げるのを止める。


「もちろんだ、お前とお前の家族は援助対象から外す、さあ、どうする?今ならユグドラシルに送るぐらいはしてやるぞ。」


「い、いや、ユグドラシルに帰ったって・・・何も無いのに・・・」

モルはリリーと結婚して王族になると思い込んでいたため、シーマを離れる時に持ってた家財を全て知り合いに無料で渡していた為に何も資産を持っていなかった。


「じゃあ、残るんだな。誰か適当な空き家に放り込め。」

後ろに控えていた兵士が聞いてくる。

「はっ!何処でもよろしいですか?」

「任せる。」

兵士も怒り心頭だったので、酷い家に案内する気だった。


「ま、待ってくれ、他の人はどうなるんだ?」

「他の人は一度屋敷に招いて、その後、適職に合った場所に家を用意するつもりだ。」

「職も斡旋して貰えるのか?」

「もちろんだ、リリーの友人に苦しい生活をさせるつもりは無い、客人として、そして、新たなオウカの民として新生活に入って貰う。」


「じゃあ、俺は・・・」

「知らん、適当に仕事を探せ。あればだがな・・・」

「えっ?仕事が無いのか!」

「お前を雇う人がいるかがわからん。何せ市民権を発行する気になれんし。」

「なっ!それぐらいはするだろ!」

「別に住んでくれなくてもいいんだがな。」


ここに来て、モルの父親が頭を下げ始める。

「ど、どうか息子のやった事をお許しください。何卒御慈悲を・・・」

「あんたが親か?何でもっと前に止めなかった。人を侮辱していたのはわかっていただろう?」


「それは・・・」


「まあ、どうでもいい、1時間だけ待ってやる、ユグドラシルに帰るならその間に兵士に伝えろ、それ以降はどこかの家に案内されるだろう。」


「お、お待ちを!あなた様に見捨てられたら私達はどうしろと!」


俺の目に十歳ぐらいの男の子が目に止まった。

「知らん・・・と言いたいが、息子のしたことで家族全員がというのは可哀想か?

・・・小さい子供がいるようだしな、モルと縁を切るなら最低限の生活が出来るぐらいの援助はしよう。」

「息子と縁を切れと!あなたは鬼ですか?」


「俺が鬼か・・・ユグドラシルでは貴族に無能と言ったらどうなる?」

「・・・いきなりなにを?そりゃ、死罪が当然じゃあないでしょうか。」


「じゃあ、そうしますか?」

「えっ?」

「先程も言いましたが、私はこの地の領主であり、王族になります。

モルは先程から領主にたいして無能と叫んでいたことになるのですが?

そして、あなたも私に鬼と言う、さて、私はどう処罰すべきでしょうか?」

「・・・平に平に御容赦を!」

父親は頭を地面に擦り付ける。


「ふぅ、1時間、時間をあげます、家族でどうすか話し合ってください。

ユグドラシルに帰るか?

モルと縁を切って最低限の生活を得るか?

モルと共に生きていけるだけの生活か?

私はどれでもいいです、答えは兵士に伝えてください。

私は会いたくもないので。」

俺はモルの家族をその場に残し、立ち去る事にした。

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