第109話 リリー帰国

リリーが出発して2ヶ月、リリーがオウカに帰ってきた。

「アベルさん、ただいま帰ってきました!」

港に迎えに来ていた俺にリリーは抱き付いてきた。


「お帰り、リリーさん怪我はない?」


「大丈夫です。それより・・・ごめんなさい。予定より数が増えてしまいました。」

リリーが連れて来たのは、先に到着していたシンディ以外に

父親のマッド、

冒険者ギルドの受付嬢をしていた、アリアとその家族、

冒険者ギルドの職員モルとその家族、

八百屋のバジル、パン屋のサーシャ、雑貨屋のウルマが家族を連れて来ていた。


みんな、シーマの町に住んでいた人達で俺も住んでる時に面識のある人達だった。


「リリーさんが連れて来たのなら何も問題ないよ、すぐに住める場所を用意するから。」


俺とリリーが話しているとモルが割り込んでくる。

「リリー、そんな奴と話さずに休める所に案内してくれよ、両親を休ませたいんだ。」


「ちょっと、モルさん!失礼じゃないですか!

すいません、アベルさん。」


「何で謝ってるんだよ、おい、アベル、さっさとリリーから離れろよ。」

モルは俺とリリーを引き離す。


「モルさん!」

リリーの顔が青くなる。

周囲の雰囲気が和やかなものから変化する。


「な、なんだよ。」

「来るときにちゃんと説明しましたよね。覚えてますか?」


「ああ、もちろん覚えているよ、リリーが実はオウカのお姫様で、俺を助ける為に迎えに来たんだろ?」


「えっ?何ですかその話は?」

リリーは困惑していた。

困惑しているリリーをおいてモルは話を続ける。


「そんで、アベルは先にリリーが助けてあげたんだろ?

リリーは優しいからな、昔から無能のアベルが死なないように手を回してたしな。

大丈夫、俺にはわかってるから、これぐらいで浮気なんて言ったりしないから。」


ここまで曲がった話を聞いて、逆に凄いと思った俺がいた。


「全然違います!

私はオウカのお姫様なんかではないですし、アベルさんは無能なんかじゃありません!

それに浮気ってなんですか!いつから私がモルさんと付き合った事になっているんですか!」

リリーはモルに怒りだす。


「リリー、怒った顔も可愛いけど、そんな顔は似合わないよ。それより、休める所に案内してくれよ。」

モルは相変わらずマイペースだった。



リリーとモルが言い争いをしている間に空気を読んだサーシャが俺に寄ってくる。

「アベルくん、お願い!この町でもパン屋をやりたいんだけど協力してくれないかな?」

サーシャは両手を合わせ、頼んでくる。


サーシャは二十歳の美人さんで両親のパン屋を若い頃から手伝っており、憧れる人は多かった。

特に金の無い人達に余り物のパンを格安で売ってくれていたので若い冒険者達には頭の上がらない存在だった。

そして、俺も初めの頃は世話になった事があった・・・


「サーシャさん、この国は米の文化が強いですが、それでもパン屋をやりますか?」

「ええ、リリーから国の話は聞いてるけど、だからこそやりたいの。」

「そうですか、なら協力しましょう。とはいえ、パン屋に何が必要か知りませんので後で教えてもらえますか?」

「ありがとう、アベルくん。」

サーシャは俺を抱き締めてくる。


「いえいえ、昔、お世話になりましたし。出来る事は協力しますよ。」

「それでも感謝は伝えたいわ。だって、またパンが焼けるのですもの♪」

サーシャの嬉しそうな笑顔は凄く魅力的だった。


「なんだ、アベルがキーマンか?」

八百屋のバジルもサーシャの動きを見て、話すべき相手に気付いた。

「バジルさん、お久し振りです。」

「ああ、久しぶりだな。」

バジルはシーマの町で八百屋をやっていた男で、それなりに話す事もあった人だった。


「バジルさんも八百屋をやりたいという事ですか?」

「話が早いな、まあ、そう言う事だが、店と仕入れ先を用意してくれないか?」


「ええ、準備しますけど、少しは待ってくださいね、現在ある店との距離とか色々考える事もありますので。」

「ああ、それはわかっているつもりだ。」


「大丈夫ですよ、リリーさんが連れて来たのはですから、ちゃんと食べていけるように手配します。」

「なぁ、リリーとお前結局結ばれたのか?」

「ぶっ!い、いえそんな事は・・・」

「嘘を言うなよ、そうじゃないと船を用意したり出来ないだろ?これだけの移住にどれだけ金がかかっているんだ?」


「金?あっ、予算確認してないや、まあ、何も言ってこないから大丈夫なんだろう。」

「おいおい、大丈夫か?これだけの人数だからな、だいぶになるぞ?」

「大丈夫でしょう。一応ここの領主ですから。」


バジルは目を丸くする。

「・・・ホントに?」

「はい、後、王族です!」

俺はイタズラ気味に胸をはる。


「おうぞく!えっ!いや、ちょ、ちょっと、すいません!わたしゃ礼儀がない平民な者でどうかお見逃しを・・・」

あわてて急に取り繕い出したバジルをあわてて止める。


「あっ、いやいや冗談だから、いや、王族なのは本当にだけど、普通に話してくれていいよ。」


「しかし・・・」


「いいって、正式な場所だと不味いかも知れないけど、それ以外は気にしないで。」

「わ、わかりました、いや、わかった、これでいいか?」


「いいですよ。まあ、金の話ですけどそういう訳で大丈夫です。」

「なるほど、じゃあ、リリーは側室か?」

「・・・たぶん、そうなるのかな。正室はなんか政治が絡みそうで。」


「なるほど、王族も大変なんだな。」


「まあ、その辺はまだ未定なので。」


「でも、リリーを大事にしてやれよ。お前が冒険者で困っていた時からの付き合いだろ?」


「ええ、良くしてもらってましたから、出来るだけの事はしたいと思ってますよ。」


「それならいいんだ、まあ、リリーの知り合いというだけでこれだけの人数の移住の面倒をみるんだからな、心配しなくても大丈夫か。」

バジルは笑っていた。

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