第98話 セイとユミナ

宴の翌日、セイはアベルの家族に会っていた。


「はじめまして、アベルのイトコのセイと申します、アダさまとエダさまにはアベルがお世話になり誠に感謝しております。今後も御家族がこのオウカでつつがなく生活が出来るようにいたしますので、何かあれば御連絡ください。」


アダとエダは国のお姫様に丁寧に挨拶され固まっていた。

そこにエリーゼが来る。


「おひめさま、おにいちゃんをとるの?」

「えーと、エリーゼちゃんかな?とったりしないけど、どうして?」

「だって、おにいちゃんとけっこんするんでしょ?」

「け、結婚?な、なんのこと?そんな話はまだないよ。」

「だって、まちのひとがいってたの。でもね、おにいちゃんにはリリーもおねえちゃんもいるの、とっちゃだめなのよ。」

「そうかぁ、エリーゼちゃんはお姉ちゃん達のために抗議に来たんだね。優しいね。」

セイはエリーゼの頭を撫でる。


「私とアベルがどうなるかわからないけど、みんなの事もちゃんとするからね、エリーゼちゃんは安心してていいよ。」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。」

「おひめさま、ありがとー!」

エリーゼはセイに抱き付く。

「エリーゼちゃん、私のことはセイでいいからね。」

「セイ?」

「うん、私の名前、エリーゼちゃんも名前で呼んでくれるかな?」

セイはエリーゼに笑顔で話しかける。

「セイおねえちゃん♪」

「はい♪皆さんも気軽にセイと呼んでくださいね、アベルの御家族なら私にとっても家族なのですから、何も気にしないでください。」

その後、セイは他の家族とも積極的に話、その日の内に打ち解けていた。


そして、ユミナとの対談である・・・

部屋にはユミナとリリーが待っていた。


「お初に御目にかかりますね。アベルのイトコのセイと申します。」

「はじめまして、私はユグドラシル王国、ローエン公爵家が長女、ユミナ・ローエン、アベルさまの婚約者です。」

「私はリリーです。は、はじめまして。」

リリーは緊張しながら挨拶をする。


「リリーさんそんなにかたくならなくてもいいですよ、アベルの友人なら無下にはしませんので。」


ユミナはセイを睨みながら質問する。

「それでセイさまはどのような御用件ですか?」


「そんなに敵意を見せなくてもいいですよ。ただ、状況の確認と今後についての話し合いをしたいのです。」


「・・それはアベルさまの婚約についての話ですか?」


「まあ、そうですね。はっきり申しますと、オウカ国としてはアベルの正妻はオウカの人と考えているのです。」


「それがセイさまだと?」


「・・・わたしは候補だったのかな?そこはわかりませんが、まあ、今はそんな感じですね。」


「しかし、私が既に婚約者ですよ!」


「それなのですが・・・各所に確認をとりました所、婚約出来てませんよ。」


「えっ?」


「お父様がユグドラシルの教会に問い合わせた所、手続きがされていないと、そして、ユグドラシル王も貴族達に告知をしていないと言う事で、現在アベルとユミナさんの婚約はされていない状況と考えております。」


「でも、私のお父様と陛下が認めていれば!」


「アベルの家族の合意は得ましたか?」


「えっ?」


「婚約するのにアベルの親代わりのアダさん、エダさんの承諾を得ましたか?」


「そ、それは・・・」


「手続きもせず、家族の承諾も得ていない婚約なんてあって無いようなものですよ。」


「でも、なんで手続きをしてないの・・・」

ユミナは訳がわからなかった。


「私見になりますが、アベルが援軍に失敗した時には婚約を無効にするつもりだったのでは?

もしくは元平民が公爵令嬢と婚約するのが許せない貴族が手続きを遅らせていたか・・・

色々思い付く事があります。

まあ、英雄になったアベルが国にいたらつつがなく成婚出来たのでしょうが・・・

凱旋してすぐにオウカに来ましたからね。」


セイに言われてユミナは気付いた事があった。

「アベルさまが国を出たのは、オウカの策ですか!」


「策という程ではないと、サイゾウがアベルの不満を見て誘導したと聞いております。

サイゾウはユミナさんとの婚約に反対だったみたいですからね。」


「この卑怯者!オウカは人の婚約者を奪うのですか!」


「卑怯者?元々アベルが流されやすい事を良いことに婚約を強引に進め、そのくせ、いつでも切り捨てれるようにしておくなんて、どちらが卑怯なのですか!」

ユミナとセイは睨み会う。



「お、落ち着いてください!」

リリーが間に入って二人を止める。


セイは落ち着きを取り戻す。

「失礼しました。さて、ここからが本題です。

あなた達の今後の話です。

私は別にあなた達を排除しようとしているのではありません。

アベルに危害を加えず、正妻の座をお譲りいただければ特に何もありません。

それより、ユミナさんは国に帰らなくてよろしいのですか?」


「それは私に出ていけと?」


「いえ、そうではありません。あなたの祖国が大変なことになりつつありますのでお知らせしに来たのですよ。」


「大変なこと?」


「はい、ユグドラシル王国は近々内乱か隣国に攻められるかするでしょう。」


「一体どういうことですか!何でそんなことが起きると?」


「どうやら、民に重税をかした事により、国内が乱れているみたいですね。サクソン王国の動きも怪しいですから、再度戦争になってもおかしくないかと。」


「でも、サクソンはアベルさまが前回の戦でかなりの損害を与えた筈では?」


「ええ、しかし、サクソンの王が私費を投じてフレイ将軍を助けた事で国は纏まっております。今は国の立て直しの為、国民総出で頑張っているようです。それを考えれば、次の戦は更に厳しくなるでしょう。」


「サクソンが攻めて来ればお父様のローエン領が・・・」


「そうですね。だから、今戻らなくていいかとたずねたのです。公爵令嬢として備える事もあるでしょう。」


「なら、アベルさまも一緒に!」


「行かせません。サクソン王国の狙いは間違いなくアベルに向くでしょう。そのような危険な所にアベルを行かすことなんて出来ません。」


「・・・アベルさまが来ると言ってもですか?」


「アベルは優しいですからね、話を聞けば行くとは思いますよ。ただし、その時はオウカ国の多くがアベルを守るために参戦するでしょう。

公爵令嬢なら友好国でも無い他国の軍勢が援軍に来る危険性はわかるでしょう?

アベルはともかくドウセツ達まで優しさを求めるのは間違ってますよ。」


「でも、アベルさまなら・・・」


「どこまでアベルに頼る気ですか!そもそも、あなた達ユグドラシルはアベルに何をしてもらって、何をしたのですか?」


「それは・・・」

ユミナは気付いていた。

今までアベルにしてもらっている事への対価が払われていないことに、その為に言葉につまる・・・


「ユミナさん、今すぐに答えろとは言いません、しかし、近い内に答えを見つけないと後悔する事になりますよ。」


「・・・」

ユミナは反論も出来ずに黙り込んでしまった。


「リリーさん、あなたにも話があるのですが・・・別室に行きましょうか。ユミナさんはよく考えておいてください。」


セイはリリーを連れて別の部屋に向かった。


残されたユミナは、頭の中を整理するだけで一杯だった・・・

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