第95話 アベルとセイ
街を出る瞬間、セイが抱き付いてきて、胸元に顔をうずめた。
「セイ、大丈夫?」
俺はフトモモの手をのけ、頭と背中を撫でる。
「アッ!ちょっと、ダメ!今触られたら・・・アッ、ダメ、くる!きちゃう!」
セイは小さな声でそう言うと体を大きく震わせ、ギューと抱き付いてきた。
「セイ?どうしたの?」
セイは息が乱れていた。
「あっ、はぁはぁ、き、聞かないで。お願い。」
トローンとした顔を浮かべたセイは、
街から離れても暫くセイは抱き付いたままだった。
その日の夜、宿にて・・・
「アベルのばかーーー!なんであんなことするのよ!」
「セイから始めたんじゃないか?」
「それでも、限度があるでしょ!もう、私はどんな顔してキョウに戻ればいいの。」
「なんでそんなに怒ってるんだよ、そりゃ恥ずかしかったかも知れないけど、それはお互いさまだろ?」
「だ、だって、私、あんな顔を見られたのよ。」
「あんな顔?真っ赤になってて可愛かったけど。」
「もうもう、そんな話じゃないのよ!」
セイはクッションで俺を叩いてくる。
コンコン!
扉がノックされる。
「はい、どちら様?」
「アベルさま、ムナシゲです。凄い声が聞こえましたが大丈夫ですか?」
「あー大丈夫、セイが興奮して暴れてるだけだから。」
「私、興奮なんてしてないからね!」
「ほらね。」
「わかりました。私は警護に戻りますので何かあれば御連絡を。」
ムナシゲは扉の前から離れていった。
「もう、セイも落ち着いて。みんなが心配しちゃうからね。」
「うーーー!」
俺はセイの頭を撫でて落ち着かせようとする。
「ふにゃ~ってアベル、ダメだよ!」
セイは一瞬気持ち良さそうにしたが、すぐに慌てたように離れる。
「セイ、どうしたの?」
「だ、だって、私達まだそういう関係じゃないし、順番ってものがあるでしょ。」
「うん?」
俺は何の話かわからなかったがセイがチラチラ見てる視線をおうとそこにはベッドがあった。
「・・・セイ、そんなんじゃないからね!」
俺も慌てて否定する。
「だ、だって、夜に男の人と二人きりで宿に泊まっているし・・・それに男の人は狼だって友達も言ってたから・・・我慢出来ないものなんでしょ?」
「我慢できるからね!全員が狼じゃないから。」
「でも、魅力的な女性には抗えないって・・・私魅力ないのかな?」
「いやいや、魅力的だけど、ちゃんと理性的に動けます。今セイに手を出したら一大事でしょ。
叔父上も叔母上も信用して任せてくれてるのにそれを裏切ったりはしないよ。」
「うーん、お父様もお母様も怒ったりはしないと思うけど。」
「それでもです!未婚の女性を預かったのだから、ちゃんと無事に帰します。」
「私、既に無事じゃないよ・・・」
「だから、何があったの?」
「き、聞かないでよ!」
何度聞いてもセイが口を割ることはなかった。
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