第90話 チロルの動きが・・・

「アベルさま!お待ちください。」

ユミナはユグドラシルの使節団が起こしたトラブルを聞いてあわてて来たようだった。


「ユミナ庇うなよ、今、コイツをユグドラシルに送還を決めたところだ。」

「あなたは・・・チロル伯爵?」

「おお、ユミナ嬢、この痴れ者とお知り合いたでしたか。」

俺を痴れ者扱いしたことで周囲が殺気立つ、

ユミナはチロルを責める。


「あなたは何を言っているかわかっているのですか!他国に来てその領主を辱しめるとは!」


「痴れ者を痴れ者と言ってなにが悪い。この者はユグドラシル王国の価値も知らず、ユグドラシル貴族たる我をぞんざいに扱いおった。

その罪、万死にあたる!この者の所業は陛下に報告さしてもらう。

その時に詫びを入れても遅いのだから覚悟しておくことだ!」

しかし、興奮しているチロルは更に騒ぎ出す。


「そうか、なら俺もユグドラシル王に書状を送ろう。

このような愚か者を送って来るとは、先の戦で恩あるオウカ国に対する行動ではない。」


「うん?先の戦・・・アベル・・・ユミナ嬢・・・まさか!」

チロルはここにきてアベルに気付く。


「なんだ?」

「アベル殿、いや、アベルさまはもしかしてアベル将軍にございますか?」

「たしかに先の戦では将軍をしてたが、それがどうした?」


チロルは急に態度を豹変させる。

「・・・アベルさまもお人が悪い、それならそうと先に言ってくださったらよろしかったのに。」


「えっ?」

あまりにチロルの変わりように俺は驚く。


「アベルさま相手に私としたことがお恥ずかしいかぎりです。いや~既に領主になられているとは思いませんでした。

さすがアベルさまですな、英雄と呼ばれるかたは動きが早い。

私などの思慮の浅いものが出る幕はありませんな。」


「お前は何を言っているんだ?」


「いや、みなまで申されなくて解っております。このチロル、陛下にしかとアベルさまのお考えをお伝えておきましょう。」

チロルの発言の意味がまったく解らなかった。俺は混乱の度合いを深める。


「いや、だから、何を???」

「では、私はアベルさまの申し付け通りユグドラシルに帰らせていただきます。ユミナさま、何か伝言か手紙があれば預かりますが?」


「あなたに託すようなものはありません。」

「そうですか、それなら私はこれで失礼します。兵士の諸君ちゃんと私を船まで連れていってくれたまえ。」

チロルは兵士を連れる様に部屋から出ていった。


「・・・ユミナ、アイツの言ってた事わかった?」

「い、いえ、アベルさまが英雄アベルと気付いて態度を変えただけだと思いますけど・・・」

「うん、さっぱりわからん、何に納得したんだか・・・」

俺とユミナはチロルが何に納得したのかわからなかった。

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