第79話 アライハマ

俺達はアライハマの宿に着いた。

兵の数が多すぎ、宿が足りない為、野営となるが、俺は領主でもあるので宿が用意されていた。


「みんなに悪いから俺も野営でいいよ。」

「そうは行きません、アベルさまは領主なのですから領内で野営など、お止めください。」

ドウセツにも止められた為、仕方なく宿に入る。


宿に入ると揉めている者がいた。

「だから、部屋を用意しろって言ってるのがわからないのか!俺は新しい領主なんだ!」

「しかしですね、本日は満室でして。」

「そいつらを追い出せばいいだけだろ、特別室を用意するように。」

宿に無理難題を言っていた。


「ドウセツ、あれが新領主だって?」

俺が指差し笑っていると。


横のドウセツは怒りに震えていた。

「誰が領主だと!」

ドウセツは男の頭を掴むと握力で握り潰そうとする。


「いてぇ、いてぇって!誰だよ、はなせ!」

しかし、ドウセツは止めない。そのまま潰すのかと思ったところで、男の連れがやってくる。


「お待ちを!どうか待ってください。」

男の言葉に取りあえずドウセツは離したようだ。


「いてぇな、てめぇ、領主の俺に何をしやがる。」

「・・・誰が領主だと?」

ドウセツが威圧を込めて言う。


「俺だよ、この俺様!ヤマ家のクニタカだ。あんたはこの地域の武士だろ、聞いてないのか!」

「知らんな。」

ドウセツが軽くあしらうと、クニタカは切れて叫びだす。


「てめぇなんだその態度はヤマ家に逆らうのか!」

「若、お待ちを私から説明致します。」

連れの男が話し出す。


「失礼、私はクニタカさまの家臣シゲクニと申します。その風貌、ドウセツさまとお見受け致しますが?」

「たしかに、ワシはドウセツだが。」


「やはり、そうでございましたか、この度、このアライハマはヤマ家の管轄となりまして、クニタカ様が派遣されて参りました次第にございます。すみやかに明け渡しを願います。」


「ほう・・・誰の命令か?」


「陛下の命令に決まっているでしょう。どこぞの馬の骨がサチさまの領地を継ぐようですが、その様な若造に全領地の統治は無理だと、ゴドウ、ヤマオカ以外の都市はアライハマはヤマ家、ワジマはトモオ家、イマハルはオオチ家が管理する事になりました。」


「その様な話は知らんな。」


「ドウセツさまは中央より離れて随分たちますからな、情報が遅いのも仕方ないかも知れません、これが命令書にございます。」


シゲクニは命令書をドウセツに見せる、それには国王の印璽付きで確かに書かれていた。


しかし、ドウセツはそれを迷わず破り捨てる。

「ドウセツさま!何をなさるのです、国王の命令書を破り捨てるなど反逆罪ですよ!」


「こんな紙切れがどうした。つまり、ヤマ家、トモオ家、オオチ家は我等と敵対するという事だな!」


「その様な事ではありません。これは陛下の命令なのです!」


「我が当主ミナモト・アベル・テルユキ様が先日、陛下から正式に領地を認めてくださった。それを反故にするなら何処の誰であろうと我等がお相手いたす!」


「なっ!それは反逆するという事ですね!ただちに陛下に奏上して遠征軍を派遣してもらいます。よろしいのですか!」

「くどい!」

キレているドウセツに声をかける。


「まあ、ドウセツ落ち着いて。」

「アベルさま、しかし!」

俺はドウセツをなだめながら。

「まあまあ、えーと、シゲクニだっけ?陛下の甥の俺から領地を奪うという話だけどいいのかい?一度確認した方が良くないか、このままだと、戦争になるが?」


シゲクニが話す前にクニタカが遮り叫ぶ。

「確認など必要ない!ヤマ家の名に置いて本日よりアライハマは我等の領地となった事を此処に宣言する!」


「・・・ドウセツ、戦の準備だ。」

「いつでも、行けます。」


「こいつを捕縛しろ、そして、ヤマ家に確認いたせ、身元が確定したら戦だ!トモオ家、オオチ家も敵である!各地に臨戦態勢をとらせろ。」

「はっ!ただちに伝令を送ります。」


クニタカ、シゲクニが抵抗するが、抵抗虚しくあっさり捕縛される。

そして、ヨイの領地では魔道具による緊急通信設備があり各地にすぐさま連絡が回る。

どうやら各地に代官と名乗る者が来ていたようで、全員すぐさま捕縛した。


そして、その日のうちに臨戦態勢に移行する。

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