第78話 領地
「二人とも落ち着きなさい。」
ハルが俺とヨシテルを止める。
「いいですか、ヨシタツ玉座は人に簡単にあげていいものではありません。わかりますか。」
「はい。」
「やーい、怒られてやんの。」
俺はヨシタツをからかう。
「アベル、あなたも、玉座を狙うならちゃんとしなさい!」
「狙いません!」
「いいのよ、狙っても。」
「それで母が国を出たんです。」
「あの頃とは状況が違いますから、今なら大丈夫ですよ。」
「いりません。」
「そうですね、スムーズに王になるにはセイと結婚するのが早いかしら?」
ハルは少し悩みながら計画をたて始める。
「ねえ、聞いて。いらないからね。」
「アベル、私がいらないって言うの!」
セイが嘘泣きをしながら訴える。
「そう言う話でもないよね。」
ハルも便乗してからかい始める。
「私、ムスコが欲しかったのよ。」
「もういるよ、ヨシタツが泣くよ!」
「ふっ、俺はヨソの子になるのさ。次の王は任した。」
「もうやだーこの一家。」
ヨシテル以外の皆にからかわれていた。
「ふふ、アベル。見ての通り私達一家に気兼ねはいりませんからね。」
「そのようですね、叔母上。」
「ええ、あなたも家族ですから、いつでも頼ってくれていいのですよ。」
「ありがとうございます。」
俺が遠慮しないよう、必要以上にはしゃいでくれたのだろう。
居心地のいい、時間をみんなが作ってくれた。
こうして、初めての登城が終わった。
「ドウセツ、疲れたよ。」
「陛下も嬉しそうでしたな。」
「母を見てからは泣いて話も出来なかったけどね。」
「それは仕方のないことでしょう。我等より思う処があったのでございましょう。」
「まあ、そうだよね。さてと、じゃあイマハルに帰りましょうか。」
「はっ!全軍出立する。」
俺は馬揃えに集まった軍を率いて、帰路についた。
道中、改めて領地についてドウセツに聞くことにする。
サチが治めていたのはヨイと言う地域で、北と西は海に面しており、南は険しい山脈、東はウドンという地域に面してした。
都市としては。
領都にして、貿易港を持つイマハルを中心に。
北に造船と海軍基地の島、キシマ。
西には観光地として名高い、ゴドウ。
更に西にはオウカにおいても類をみない空軍が存在する、ワジマ。
東には鉱山の町にして工業製品を産み出す、アライハマ。
五つの都市があり、その全てをサチが手掛け、発展している町となっていた。
首都から帰る道中、大軍ということも有り、陸路を通る。
通るのは、キョウからゴヒョウ、ヤマオカ、ウドンと言う地域を抜け、
現在、アライハマを目指していた。
その日、俺はムナシゲと話していた。
「アベルさま、本日はアライハマにて宿と致します。」
「了解。やっと領地に入るね。」
「はい、これよりはアベルさまの領地にございます。あれに見えるは我等が国境の城ノエにございます。この地は陸路の要所にて現在はムネユキ殿が城主として防衛の任についております。」
「なるほど、そうだ領内の配置はどうなってるの?」
「そうですね、まず東の守りはノエの城にムネユキ殿が騎兵千、歩兵三千を常駐させており、
アライハマの西隣のジョウサイにてチカヨシ殿が歩兵一万を屯田兵として農地を運用しながら待機しております。
北はキシマにてタケヨシ殿が大型船三百艘、中型船千艘、小型船四千艘を運用して海上防衛を行っております。
西はワジマをショウウン殿が歩兵五千、空戦隊五百。
ゴドウの横のヤママツにてセキシュウ殿が騎兵四千を遊軍として。
そして、領都イマハルには騎兵三千、歩兵三千が待機、某とドウセツ殿が指揮しております。」
「・・・それ、常駐兵?」
「はい。屯田兵は少し違いますが、それ以外は常駐兵として訓練を積んでおります。」
「多くないかな?」
「いつ如何なる時にサチさまから救援が来てもいいようにと、各地の将が責任を持って指揮しております。」
「予算とかは大丈夫?」
「それなら大丈夫です。サチさまが作られた町は伊達じゃありません。
海運の利益と工都アライハマで作られる魔道具の数々は多額の利益をあげておりますので兵に充分な給金を払ってもまだまだ余り過ぎております。
予算から考えると兵の数はもっと増やせるのですが、人口を考えて今の人数に止めております。」
「そうなんだ、この数って他の地域からしたら多いよね?」
ムナシゲは誇らしそうに。
「アベルさまが天下を狙うならいつでも行えると自負しております。」
「自負しちゃダメ!俺は天下なんていらないからね。」
ムナシゲは残念そうに。
「そうですか・・・」
落ち込むムナシゲを励まそうと、別の話題にする。
「落ち込まないで、それにそれだけの常駐兵がいるから援軍にすぐに来てくれたんだね。」
更にムナシゲは落ち込む。
「ええ、私はクジに外れてしまい行けませんでしたが。」
「クジで選ばれてたの!」
俺は驚きをかくせなかった。
「希望者が多すぎて、倍率が凄かったです。」
「そうだ、サイゾウ達の立場はどうなの?」
俺はフト気になった事を聞いてみた。
現在サイゾウ達は俺の家族の啓吾についてもらっていた。
「あいつらはイマハル所属の特務部隊の将ですね。情報の少ない土地での行動でしたので、器用な奴等が選ばれましたが、少々武勇に難がありまして。不安は有ったんですが、無事任務を果たせて良かったです。」
「あれで武勇に難があるの!」
俺は驚く。
「私ならあいつらは十人同時でも十分で片付けますね。」
ムナシゲは槍をかざす。
「へぇー凄いね、そうだ。イマハルに着いたら見せてもらっていい?」
俺は其処までの武勇が見てみたくなった。
「いいですよ、じゃあ、あいつらで見せますね。たまには鍛えてやるか。」
サイゾウ達の地獄行きが決まる。
「くしゅん!」
「さいぞう、かぜ?だいじょうぶ?」
「エリーゼさん、大丈夫ですよ。誰か噂してるのかな?」
「がんばってね。」
「えっ?エリーゼさん?なにを?」
「なんでも、ないです。なんとなくおもったの~」
サイゾウは良くわからないままだが、不安を感じてはいた。
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