第77話 アベル仲良くなる。

「お前達、仲良くなったな。」

放置されていたヨシテルは不機嫌になっていた。


「父上、何故不機嫌なのですか?家族が仲良くなっているのだから、もっと嬉しそうにしてください。」

「そうですよ、お父様。年の近い者同士仲良くなるのは仕方ないことなのです。」

ヨシタツ、セイはヨシテルをなだめるが、


「不機嫌になどなっておらん!そんな事より、サチの言葉を伝えてくれんか?」

「わかりました。では、開きます。」

俺は兄へと記載されている映像を開く。


「兄さん、久し振りです。

元気にしてますか?


出ていって何年たっているかはわからないけど、私の子供が会ってるぐらいだから、十年、二十年はたってるのかな?

兄さんも、家族が出来てるのかな?

ちゃんと大事にしないとダメだからね。


えーと、私が出ていった理由はわかってると思うけど、国内に内乱を起こさない為。

お父さんが長生きしてくれたらこんな事にはならなかったんだけどね。

こればかりは仕方ないか。


若くして跡を継いだらどうしても家臣が割れてしまうから。担げる神輿は1つの方がいいの。

いい、次の跡継ぎの時も忘れないでね。

確実に後継者を決めること。

お父さんみたいに兄さんか私みたいに迷ったらダメだからね。


まあ、それは置いて置くとして。


兄さん、勝手に出ていった妹ですが、お願いがあります。


どうか其処にいる私の子供を支えてくれませんか?

この子がどんな子か今の私に知る術はありません、それに其処に私がいないと言うことは私が助けてあげる事も出来ないと言うことでしょう。


どうかお願いします。

勝手な妹ですがその子に罪はありません。

どうか、どうか、その子を保護してもらえませんか。」


深く頭を下げ、頼んでいる姿が其処にはあった。

そして、俺はいろんな人に涙を流してまで、まだいない子供の事を頼む姿を残した母の深い愛を感じていた。


ヨシテルも涙を流していた。

サチが出ていった頃、父が死に。家督を継いだばかりで、家臣に動揺があった。

父は死ぬまで後継者を迷っていたのだ。

優秀なサチか、凡庸なヨシテルかを。

しかし、サチが出ていった事で、サチを当主にすることは出来なくなり、次第に落ち着いていった。


「アベルよ、サチの望み通り、私が後見人となろう。何かあればすぐに言うがよい。」

涙を流しながら、ヨシテルは後見人になることを誓った。

「はい、その時は宜しくお願いします。叔父上。」


「うむ。そうだ、アベルには登城と城内の自由を許可しておこう。アベルならこの部屋まで自由に来て良いぞ。だが、私室はその者の許可を取るようにな。」

「いや、そこまでの許可は不味くないですか?私が何か企んだらどうするんですか?」

「企むのか?玉座が欲しいならくれてやるが?」

「企みません!それに玉座もいりませんから。」

「アベル、いるなら俺の分あげるぞ。」

ヨシタツも渡してこようとする。

「王と王子がそんなんでどうするんですか!」


ヨシタツは不満そうに言う。

「いいか、アベル。王子なんてさ、城から出れないし、国政を学べとかうるさいし、パーティーに出ても、話しかけると女なら婚約、男なら目をかけてもらったと騒ぎだして、ろくに話しかけれないしで楽しくないんだよ。代わりたいなら代わる・・・というか代われ。」

「やだよ、それ聞いて代わりたい奴がいるのか?」

「まあ、いるだろうけど、マトモな奴は嫌がるな、マトモじゃない奴には任せられないからな。

だが、その点アベルなら血筋は問題ないし、民にも慕われてると聞くし、家臣団もサチさんの家臣は優秀だから問題ない。完璧じゃん。」


「や、やだな、民に慕われてるってそんなことないだろ?俺はまだ10日ぐらいしかオウカに来てから、たってないよ~」

俺は昨日のしたことを後悔したがシラをきることにした。


「甘いな、登城の時の民の声は凄かったじゃないか、これならいつでも代われるな。」

ヨシタツは悪そうな笑顔で俺の肩をたたく

「やだって言ってるだろ!俺は自由に生きる!」

「その自由をくれ!」

「やだよ!」

俺とヨシタツは腕を組み力比べをしていた。


「ホントにお兄様と仲良くなりましたね。」

俺達を見てセイがしみじみ言う。

「そうだな、こんなにはしゃぐヨシタツを見るのは初めてかもしれん。」

ヨシテルも嬉しそうに眺めている。

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