第76話 家族
「そうだ、それとアベルよ、そなたに家名と名を与えよう。」
「家名と名ですか?」
「うむ、王族に相応しく、家名はワシと同じミナモトを名乗るがよい、そして、名だがワシの名とサチの名を組み合わせてテルユキと名のるが良い。」
「家名は承諾いたしました。しかし、名前は育てていただいた親に付けてもらったアベルの名がありますので御容赦を。」
「うむ、しかしだ、出来ればワシとサチの名前を付けてくれんか?」
「そもそも、サチなのに何でユキになるのですか?」
「おお、そうか、実はなオウカの文字ではサチ(幸)と書いて、そしてユキと読めるのだ、サチのままだと女のイメージが強いからの、それで少し捻ったのだが。」
「まあ、それはいいのですが、名前の事はお許しを・・・」
家臣の一人コレマサがヨシテルに意見する。
「陛下、名前の事ですが両方付ければよろしいのでは?」
「コレマサよ、両方とは?」
「はっ、ミナモト・アベル・テルユキと名乗って頂ければ、両方を使う事になるのでは。」
「それは妙案じゃ!アベルよ、聞いた通り2つとも名乗ってくれんか?もちろん普段どちらを使おうと構わん、ワシは公式の文書にテルユキの名を残せたらそれで良い。」
ヨシテルの頼みに俺は承諾する。
「わかりました、叔父上の言われるように、このアベル、今日よりミナモト・アベル・テルユキと名乗る事に致します。」
「うむ、今日は良き日じゃ。皆に布令を出せ。サチの御子が正式に王族となった。その名を国内に伝えよ!」
「ハッ!ただちに布令を出します。」
兵士の一人が伝令に走っていく。
「あの~叔父上、そこまでしなくても。」
「いや、せねばならん。皆も興味があるに違いない、そして、良き関係だと知らせないとな。」
「そんなものなんでしょうか?」
「うむ、あとワシの家族も紹介しよう。後で奥に来てくれ。」
「はい、それはもちろん。」
俺との会話を終えたヨシテルは俺の横に控えていたドウセツに声をかける。
「ドウセツよ、そなたの才覚ならワシの直臣にもなれるところだが、今後もサチの領地をそして、アベルを支えてくれんか?」
「勿論にございます。この命アベルさまの為に使いきる所存にございます。」
ドウセツは決意のこもった目でヨシテルを見る。
「長年に渡り、主が不在にも関わらずその忠節見事である。ワシの剣を授けよう。アベルに敵対するものをこの剣で斬るがよい。」
ヨシテルは腰に差していた刀をドウセツに渡す。
「ははっ!ありがたき幸せにございます。」
こうして謁見は終わったが、その後、俺はドウセツを連れてヨシテルの私室に向かう。
「しかし、サチの家臣の忠節は凄いな。サチが居なくなって20年がたつのに未だに尽くしてくれる上に子供のアベルにも同じく忠節を誓ってくれるとは。」
私室に向かいながらヨシテルはドウセツに話しかける。
「はっ、サチさまの涙ながらの頼みを聞きますれば、アベルさまに従わぬ者はおりません。」
「うん?涙ながらの頼み?」
「はい、子供を頼むと、我等家臣の名をあげて頼んでおりました。長年サチさまを見ていましたが、涙を流してまで頼まれた姿を拝見したのは初めてにございます。」
「まて、サチが出ていったのはまだ子供がいない時だった筈、なぜ子供を頼んでいる?」
「先日、映像とともに我等家臣への御言葉がございまして。未来を思い、残されていたのでしょう。我等一同、今一度一つになりアベルさまに忠誠を誓った処にございます。」
ヨシタツは目を点にしていた。
「映像?サチの映像があるのか!見してくれないか!」
ヨシテルは俺を揺すってくる。
「見せますし、叔父上宛のもありましたから。」
「ワシ宛か!さあ早く見せてくれ。」
「せめて部屋に入ってからにしましょう。」
「うむ、そうだな。早く行くぞ!」
ヨシテルは足早に部屋に向かった。
部屋に入ると、同じぐらいの年の男と少し下の女性、そして、年配・・・もとい妙齢の婦人がいた。
「アベルよ、これが妻のハル、そして、息子のヨシタツ、娘のセイだ。」
「ハルにございます。」
「ヨシタツと申します。」
「セイです。」
「私はサチの息子でアベルと申します。」
「さあ、アベル。挨拶は済んだろ。早く映像を見せてくれ。」
「あなた、何をあわてているのですか!まずは話して親睦を深めるのが大事でしょうに。」
「そうです、アベルさん、父が失礼を私とは従兄弟の関係になるのですから、今後ともに仲良くしていきましょう。」
ヨシタツが手を差し出してきたので、握手を交わし。
「ええ、宜しくお願いします。」
「アベルさま、お兄様だけでなく、私とも仲良くしてくださいね。」
「セイさま、こちらこそ宜しくお願いします。」
「アベルさま、お堅いですよ。此処にいるのはみんな家族なんですからもっと楽にしましょう。お兄様もいいでしょ?」
「もちろんだとも、アベルさん、いや、アベル、今日から従兄弟として友として一緒にやっていこう。」
「わかった。ヨシタツ、俺も従兄弟として友としてやっていくよ。宜しく頼む。」
俺達は熱く握手を交わす。
「ちょっと、二人とも私を置いてないですかー」
セイは口を尖らせて怒っている。
「セイ、漢の友情に口を挟まないでくれるか。」
「お兄様酷くないですか?私も仲良くするんです!」
「セイさんも宜しく。」
「セイでいいです。」
「わかりました、セイ、でも、それなら俺の事もアベルでいいよ。」
「わかりました。アベルさま。」
セイは様呼びが抜けていない。
「いやいや、アベルだよ。」
「うう、呼び捨てなんて恥ずかしくて・・・」
「さっき俺に呼ばせたよね。」
「うっ、アベルは意地悪です。」
「呼べたじゃん。」
「あう、恥ずかしいです。」
「セイ、顔が赤いぞ。恥ずかしがるなよ。なあアベル。」
「そこまで恥ずかしがられると、こっちも照れるな。」
「違いない。」
俺とヨシタツは恥ずかしがるセイを見て笑っていた。
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