第73話 サチの頼み

「おーサイゾウ、どうした。目が赤いぞ?」

宴の会場に着くとサイゾウはセイカイにからかわれるが。


「うるさい、これは仕方ない話なのだ、それより、アベルさまはやはりサチさまの御子さまであった。」

「扉が開いたのか!」

「ああ、それどころかサチさまのメッセージが残されてあった。」


「なに!そんな大事な物をお前だけで聞いたのか!」

「アベルさまも勿論一緒だが。そんな事よりみんなを整列させてくれ。大事な話になる。」

サイゾウはセイカイと手分けして全員を整列させる。


「皆に伝える、アベルさまがサチさまの御子様であることが確定した。」

「おお!」


「アベルさま、皆さんに一言お願いします。」

サイゾウに言われて、俺はみんなの前に立つ。

「えー、此処に来たときは自分がサチさまの息子ということに半信半疑でした。しかし、先程、サチさまのメッセージを見てわかりましました。

俺はサチさまの息子です。

まあ、会った事もないので母親の記憶なんてないのですが、皆さんに教えてもらってもいいですか?母がどんな方だったのかを。

そして、母が居なくなってからも家を守っていただきありがとうございます。」

俺の言葉に拍手が起こる。


挨拶を終えた後、俺はふと気付いた。

腕輪の項目に家臣への手紙と記載があった。俺は起動さしてみると、サチの映像が出る。


「皆さん、お久しぶりになるのかな?」

映像を見た家臣達は皆に跪く。

「サチさま!・・・これは映像なのか。」

家臣は戸惑いの声をあげる。


「えーと、これを見ているということは私の子供か孫、もしくはその子孫という事になります。

でも、子孫ぐらい遠くになったら、意味ないのかな?

一応、私が知る家臣がいるつもりで話します。


ドウセツ、きっとあなたが皆を纏めているのでしょう。あなたの忠誠に感謝を。出来れば私の子供の助けになってくれませんか?


ショウウン、あなたの武勇に勝るものはいないでしょう。その武勇を今一度、子供の為に使ってくれませんか?


ムナシゲくん、大きくなったのかな?真面目な君だから今頃一廉の武将になってるのかな?子供の歳の頃なら、あなたが家臣の中心でも、おかしくないのかな?あなたの力を子供の為に使ってもらう事は出来ないかな?

最初で最後のお姉さんのお願いです。


セキシュウ、あなたはもう歳かな?

今でももういい歳だもんね。でも、もしその場にいるなら、あなたの知恵と経験で子供を導いてもらえませんか?


ムネユキ、若いあなたももういい大人なのかな?あなたの才気は今でも素晴らしいものがあります。その才を子供の為に使ってもらえませんか?


アキツグ、あなたは外交に優れています。あなたの力で、子供の居場所を作ってもらえませんか?


チカヨシ、まずはごめんなさい。直属の護衛だったあなたを置いて国を出た事を謝罪します。もし、まだ私に尽くしてもいいと思う気持ちがあるのなら子供を守ってくれませんか?ワガママな主だったけどお願いします。


タケヨシ・・・はいないかな?あなたは自由な海賊だもんね。でも、もし其処にいるなら子供を助けてあげて、海の上のあなたは最強なの。敵になったら子供を守るのも難しくなるの、せめて敵にだけはならないで。

友と呼んでくれた女からの頼みです。


そして、この場にいる皆さん、私の子供を宜しくお願いします。身勝手に国を出る私ですがどうかお願いします。

私はもう頼むしか出来ません。まだ少しでも恩を感じている方がおられましたら、どうか子供を支えてください。

どうかお願いします・・・」

其処で映像は終わった。

映像の最後のサチは泣いていた。泣いて懇願していた・・・


家臣達は涙を流していた。

そんな中涙を流しながらドウセツが叫ぶ。

「この中にアベルさまに従えぬ者は今すぐに立ち去れ!」


しかし、誰も動かない。

「よし、これより我等一同、アベルさまを当主として粉骨砕身、忠誠を尽くすことを誓います。」

ドウセツを筆頭に全員が頭を下げる。


「頭をあげてください。忠誠を受け取っても何が出来るかわかりませんが母を支えてくれた皆さんの気持ちにはお答したいとおもいます。」


俺の言葉にみんなが喜ぶ中、ユミナだけが苦々しい顔で見ていた。

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