第74話 治療してまわる。

歓迎の宴から10日が過ぎた。

俺は国王であり、叔父のヨシテルに会うためにオウカ国の首都キョウに来ていた。


家族やユミナ、リリーにはイマハルに残ってもらい、

何かあった時は船に乗ってユグドラシルに帰ってもらう手筈を整えていた。


俺一人ならスキルをフルに使えば逃げるぐらいは出来るだろうと目算も込みだった。


「ドウセツさん、謁見って明日?」

「はい、明日にございます。」

「このまま行ったら早そうなのに。」

「初対面なのですから、いろいろ準備があるんですよ。」

「そんなものなのかな?」

「はい、明日を楽しみにしていてください。」


その日は折角首都に来たから少し出歩いてみる。

護衛にはサスケがついて来る。

「サスケさん、この町で重傷者や重病人は何処にいるかな?」

「アベルさま、もしかして治していただけるのですか?」

「折角母親の祖国に来たんだからね、良いことの1つぐらいはしておかないと。」


俺はサスケに案内され、末期患者が置かれる病院に向かう。

「アベルさま、この先は病気にお気をつけを。」

「うん、了解、聖域!」

俺はスキルの聖域を使い自分の周囲を清める。


「サスケさんも俺の近くに来て。」

「これは?」

「俺のスキルで周囲を清めてるから、俺の周囲なら病気は大丈夫だと思う。」

「アベルさま、これは凄いスキルなのでは?」

「うーん、そうかも、まあ、気にしないで。ここの医者さんの所に案内してよ。」

「わかりました。向こうの部屋になります。」

俺は医者の所に向かう。


「この部屋になります。」

サスケに案内され、中に入ると。

「サスケ、ケガなら別の部屋だ、此処は病人用だと何度言えばわかるんだ!」

「先生、違います!今日は先生に会いたい人を連れて来たんです。」

「バカモン!それこそ此処に連れて来てはいかん!」


「まあまあ、先生。来てしまいましたし、サスケさんを叱らないでください。」

俺が先生をなだめに顔を出すと。先生はあわてだす。

「なっ、せめてマスクをしなさい。病気がうつるぞ!」

「大丈夫です。それより此処も大丈夫にします。聖域!」

「これは・・・」

「この部屋を綺麗にしました。それと、浄化!」


俺は先生に浄化をかける。

「いったい何を?」

「先生も病気になってましたよ。まあ、治しましたので、もう大丈夫です。」

医者は自分の体が軽くなっていることに気付く。


「あなたは、いや、先に私が名乗るべきだな、私は医者をしているマナセだ。あなたの名前を聞かせてもらってもいいかな?」

「俺はアベルだ、あれ、なんて名乗るべきだろう、冒険者?子爵?」

名乗りに困っているとサスケが補足してくれた。


「アベルさまは王族にございます。そして、サチさまの御子にございます。」

「サチさまの!これは失礼を。」

マナセは頭を下げる。


「頭は下げなくていいよ、それより病人やケガ人を治すから案内してもらえないかな?」

「アベルさま、ここは末期の患者にございますよ、治せるのでしょうか?」

「たぶん、大丈夫だろう。」

「それなら、案内いたしますが・・・」


マナセに連れられ1部屋ずつ訪れる、そして、その部屋の患者を治して次に行く。

2時間ぐらいで全員を完治させた。


「あなたさまは神の御使いですか。」

マナセは俺を拝み始める。

「いや、違うし。拝まないでください。」


「サチさまの御子なら神の御使いになっても不思議ではない。」

「不思議だよ!なんで母なら神の御使いを産めるんだよ。」

「いえ、あり得るかと。」


「ないよ!まあ、それに俺にも思惑はあるし、ただの善意だけでも無いから神の御使いはやめて。」

「わかりました、でも、思惑とは?」


「感謝してもらおうと思っているんだ。」

「えっ?それは皆さん感謝してましたけど。」


「明日、この国の王に会うのだけど、急に沸いてでた血族なんて不安要素でしょ、城に入ったらバッサリなんて事もあり得るし、それなら民衆に俺の事を感謝してもらえていれば、いきなりバッサリは防げるかなと。あとは継承権の破棄とか宣言したら始末されるのは防げるかなと思っているんだけど、どうだろ?」


「アベルさま、そのような事は無いかと思いますが。」

「うーん、相手がどんな人かわからないから、出来る事はしとこうかなと。という事でサスケさん、次の病院に行きましょう。この際手当たり次第、治していこう。」


俺は町中の病院を回り、ケガや病気を治して行く。

その行動は町中の噂になり、次第に俺が歩くと拝まれるようになっていった。


「どう、サスケさん、これなら始末されないよね?」

「・・・やりすぎでは?逆に不安になるような。」

「えっ?」

「これ程人気を持たれると嫌がる方もおられるかと。」

「もしかしてまずかった?」

「少しばかり。」

「・・・やっちゃったもんは仕方ない!なるようになるさ!」

俺は開き直り、明日を迎える事となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る