第72話 サチの家臣

船から降りると・・・

「アベルさま!無事、御帰国なされ、家臣一同心よりお祝い申します。」

多くの人が平伏して待ち構えていた。


「な、な、な、何事?サイゾウさん、説明して!」

「皆、サチさまの直属の家臣の方達です。サチさまの行方がわからなくなってもずっと家を守ってきた方々です、アベルさま、彼等の労をねぎらって、もらえませんか?」


「え、えーと、皆さん、長い間、当主不在の家を守っていただき感謝します。と自分が言って良いのかわかりませんが、みなさんの労苦は必ずやサチさまに届いていることでしょう。」

俺の言葉に平伏していた人達が涙を流しだした。


「サイゾウさん、これは・・・」

「サチさまの忘れ形見たるアベルさまの御言葉に感極まったのでしょう。しかし、このまま港でというわけにもいきませんので、

皆さん、サチさまの御屋敷に参りましょう。其処で歓迎の宴の準備は出来ていますか?」


年配の男が立ち上がり答える。

「勿論だ、さぁアベルさま、屋敷に参りましょう。」

「サイゾウさん、彼は?」

俺はサイゾウに聞くが、サイゾウが答える前に男は答えてくれた。


「失礼いたした。私はドウセツ、サチさまの家老をしておりました。現在サチさまの領地の取りまとめを行っております。以後お見知りおきを。」

「ドウセツさんですね、今後、世話になるかも知れませんのでその時は宜しくお願いします。」


そして、俺達は屋敷に着く。

其処には宴の準備がされており、港にいた人以上に大勢の人が集まってた。


「あれがアベルさまか?」

「どことなくサチさまの面影かあるな。」

俺がやって来た事でザワツキだす。


「アベルさま、まずはお部屋に荷物を置いて、その後、皆さんに挨拶をお願いして宜しいでしょうか?」

「わかりました。」

俺はサイゾウに案内されるまま、部屋に行く。


家族のみんなは俺の手前の部屋を案内され、俺は奥の立派な扉の前に案内された。

「此処がアベルさまの御部屋になります。此処に手をかざせば扉が開きますから。」

俺は言われるまま、扉横のプレートに手をかざす。

すると扉が開くが、何故かサイゾウが泣いていた。


「サイゾウさん?なんで泣いているの?」

「いえ、これは失礼を。この部屋はサチさまが使われていた御部屋でして、ここを開けれるのはサチさまとその血を引く方のみなのです、ここを開けれたということは、アベルさまが他のどの王族でもなく、サチさまの御子と言うことがこれで確定されました。さあ、中に。」


俺は部屋の中に入る。

部屋を見てみると立派な調度品があるぐらいで・・・


「なんだ、これ?」

俺は机の上にあった箱を手に取る。

すると、十代後半の女性の姿が浮かび上がる。

「サ、サチさま!」

サイゾウは跪く!

「サチさま?この人が?」

サイゾウの言葉で俺はこの人がサチと言うことを知る。


「あー、あー、其処にいるのは私の子供かな?もしかして孫かな?

私はサチだよ、この部屋に入れたと言うことは私の子孫が続いていると言うことで、私は嬉しいかな。


さて、知ってるかも知れないけど、私はいろんな物を発明し過ぎたみたい。


多くの人から喜ばれるのは嬉しかったけど、どうやら、兄さんの地位を脅かすぐらいになっちゃった。

先日、何名かに王にならないかと誘われたけど。

私は兄さんの地位を奪いたいわけじゃない。そんな事の為に発明をしてきた訳じゃないの!

・・・だから、1度国を出ていきます。

この国が好きだからこそ、内乱を起こしたくない。


私と一緒にこの箱を手にしたのならこのメッセージは見てない筈だから、其処に私はいないんだよね?

其処に私がいないということは死んじゃったのかな?


其処にいる子供達。

私はちゃんと君たちを愛せたかな?

いい親を出来ていたかな?

今は子供はいないけど、ちゃんと愛せていたら嬉しいな。

まあ、その辺は未来の私に期待するとして、

今の私は此処に来た私の子供達に私の作った全てをあげる。


私が作った魔道具の設計図、世に出さなかった魔道具。凡てをこの箱に入れて有ります。

勿論この箱を起動出来るのは私の子孫だけにしてます。

できれば使い道を間違って欲しくはないけど、そこは私の子供達を信じます。

私の作った物を使って幸せな人生を歩んでください。


最後に1つ、私はあなたを愛しています。今は子供がいないけど、これだけは変わらないと誓います、どんな事があろうとも私は自分の子供を愛し抜きます。

もう会えなくなっているかも知れないけど、これだけは覚えていて欲しいかな?

では、私の子供の未来に幸あらんことを。」

其処で女性の姿は消えた。


「お母さん・・・」

聞き終えた俺は涙を流していた。

そして、先程まで箱だった物は気が付くと腕輪に変わっており、俺は腕に着用する。

「サイゾウさん、今のがサチさんで間違いないないのですね?」


俺は涙をふき、同じく涙を流すサイゾウに聞く。

「はい、映像とはいえ、お姿を拝見出来た栄誉、生涯忘れません。」


「間違いないんだ、そして、あの人が俺の母親か。」

俺の言葉にサイゾウがハッと気付く。

「アベルさま、こうしてはおられません、この事を皆に知らせないと!」

俺はサイゾウに手を引かれ、宴の場所に向かった。

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