第71話 船旅

俺は船の上でみんなに国を出る事情を説明した。

そして、家族には巻き込んでしまったことを謝罪する。


エダはアベルを抱きしめ、

「アベル、謝る事はありませんよ。家族は迷惑をかけても家族なのですから。」

「叔母さん・・・」

俺は抱き締められた時、俺は涙が出た。


「おにいちゃんないてるの?よしよし。げんきだして。」

エリーゼが心配して頭を撫でてきた。

「ありがとう、エリーゼ。元気でたよ。」

他の子供達も俺の周りに集まり励ましてくれた。


「アベル、オウカ国に着いたら仕事を探さないとな。」

アダは前向きに生活を考えている。


「そうだね、まあ、冒険者してもいいし、治療にも自信があるから、何とでもなるよ。」

「アベルは凄くなったなぁ。何でも出来るのか?」

「うーん、生活費ぐらいならすぐ稼げると思うよ。」


そこにサイゾウが来て不思議そうに話す。

「あの~何故働く話を?アベルさまが働く必要はありませんよ。」

「えっ?」

「アベルさまは王族ですよ、陛下からは国賓として迎えるよう言われておりますし、サチさまの資産もございますから、何もしなくても生活出来ます。」


何も聞いていなかったアダは驚く。

「アベル、王族ってなんだ?」

「うーん、サイゾウさん達が言ってるのだけど、俺の実の母親が王族じゃないかと言ってるんですよ。」

「お、おうぞく?」


「アベルさま、言ってるのではなく解っている事なんです。オウカ国では、御到着を待ち望んでいるものが多くいるのですよ。」

「でも、俺は母親の記憶もないからな。みんなが望むのはサチさんと言う母親だろ?」

「たしかにそれは有ります。しかし、その息子であられるアベルさまの事も待っているのです。」


「まあ、国を出た身だし、成り行きに任せるかな。俺の事を受け入れてくれるといいな。」

俺は達観しているとユミナは、


「アベルさま、国を出たと言わないでください。それは誤解があるものと思います。陛下がそのような無体な真似をするとは思えません。」

「うーん、どうなんだろう。ただ財務大臣って国の中枢だよね?そこからの要求ということは国の意思ということじゃないのかな?まあ、ランスロット様の助命とか行き過ぎた頼みだったのかな?」

「それは・・・」

ユミナも王族の事なのではっきりと答えられない。

「まあ、オウカ国に行くんだから、もう関係ないか、さすがに此処まで来て何かしてくる事もないと思うし。」


サイゾウは話に入ってきて。

「アベルさま、もし何かがありましても我等が御守りいたします。」

護衛を誓ってくれた。

「頼りにさしてもらうよ。」


そこで話は終わり、俺達は船旅を楽しむ、

機会があるごとにユミナからは国を捨てるような真似は控えるよう説得されたが、国に不信感を持った今その言葉が響く事はなかった。


俺は子供達を見て回る、子供達はエリーゼを除き全員が初日でダウンしていた。


エリーゼだけは元気に走り回り、何故かセイカイとイサに遊んでもらっていた。

「セイカイさん、イサさん、すいません。エリーゼが迷惑をかけてます。」

「いや、かまわない、それよりよく我等に近寄れるものだ。」

「うむ、オウカでも我等の顔を見て泣くものもおるというのに。」

セイカイとイサは不思議そうにエリーゼを見る。

「ん?セイカイも、イサもいいひとだよ。」

エリーゼはセイカイの肩によじ登り、肩に乗った。

「こら、降りなさい。」

「アベルさま、構いませんよ。エリーゼさんが乗っても軽いものです。どうだい、散歩でもするかい?」

「する~セイカイいくのだぁ~」

エリーゼはセイカイとイサを連れて船内の散歩に向かった。


エリーゼをセイカイ達に預け、俺は他の子供達の所に、

「みんな大丈夫?」

「お兄ちゃん、ダメ気持ち悪い。」

「あー、横になってろ。」

俺は回復魔法をかける。

「あー楽になってきた。お兄ちゃんありがとう。」

「気持ち悪くなったらすぐに言えよ。治してやるから。」

「うん。」

俺は子供達を介抱してくれていた、リリーに話しかける。

「リリーさん、子供達の相手ありがとうございます。あと、巻き込んでしまい、すいません。」


リリーは家族と一緒に船に乗っていた。

公爵家で子供達の面倒を見てくれている時にサスケが迎えに来たようで、一緒に来ていた。

「アベルさん、いえ、私はアベルさんと一緒にいるために公爵家にいたんですから、アベルさんの居るところが私の居場所です。今後も置いて行かないでくださいね。」

「わかった。でも、帰りたくなったらいつでも言ってね、クキさんに頼んで船に乗せてもらうから。」

「そんな事にはなりません。けど、ありがとうございます。あっ、落ち着いたら手紙ぐらいは出したいかも、お父さん心配したらいけないし。」

「そうだね、それも頼んでみるよ。」

「お願いしますね。」



そして、一週間、

陸が見えてくる。


俺は甲板に出て見ていると、モチヅキさんが通りかかり説明してくれる。

「アベルさま、あれがオウカ国の港町、イマハルです。」


「大きな港だね、王都の港より栄えてるように見えるね。」

「それは勿論にございます。あの港はサチさまが御作りになられた港で現在我が国のみならず世界の中心的貿易港になってございます。」


「サチさまって何者?」

「一言で言うなら天才です。あの方は数多の魔道具を御作りになられ、文明を百年は進めたと言われるような方です。」

「へぇー、どんなの作ったの?」

「そうですね、例えばこの船ですが・・・風が無くても走ります。」

「えっ?」

俺は船を見る、ごく普通の帆船に見えるのだが・・・


「私も詳しい事はわからないのですが、魔力を込めた分だけ水流を調整して進めるそうです。」

「へぇ~それってユグドラシル王国の人は知ってる話?」

「いえ、知らないと思いますよ。いざという時の装備でございます。」

「俺が知って良かったのかな?」

「アベルさまはサチさまの御子ですから。是非知るべきかと。」


俺は少し不安になる。

「もしかして、機密を話してない?」

「そこまでは重くないですよ。望まれるなら機密もお話いたしますが?」

「いいです!変に知ったら命を狙われそうだ。」

「アベルさまなら大丈夫なのですが。」

「いやいや、家族もいるし危険な事は避けさして。」

「わかりました。まあ、いずれ知るとは思いますが・・・さて、アベルさまもうすぐ到着です、下船の御準備を。」


モチヅキさんに促され、俺は船から降りる準備をした。

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