第70話 オットーの考え

捕まったオットーは愚痴を溢していた。

「なぜだ、なぜ理解しない、今の国の状況をわかっていないのか!」

オットーの不満はこの戦争が始まる前から始まっていた。


ユグドラシル王国は豊かな土地を有しており、一見裕福に見えるが実はそうではない。


隣接する三国との国境は常に緊張状態、その為の国防費にかなりの予算が投入され、

軍部はそれを理由に予算を要求し続ける。


歴代の王は民から名声を得るために、減税をするのを好む、しかも、気分次第で平民を貴族に取り立てる為に、直轄領が減り、年々国庫に入る予算は減少していた。


しかも、平民上がりの貴族に内政が出来る筈も無く、土地を荒し、次の代には潰れる所がほとんどだった。


その為、財務を見るオットーは平民上がりの貴族が嫌いになり、なるべく早めに潰そうとしていた。そうする事で多くの民が救われ、財務も助かるからである。


今回、ランスロットが引き起こした戦争により遂に財務はマイナスに突入、

その後のハインリッヒの援軍もアベルの援軍も赤字の中、商人に臨時国債を売り何とか予算を捻出していた。

そして、戦果もなく戦争が終わる。


事前会議でアベルの待遇について議論が行われていた。

「うむ、アベルの功績は英雄と呼べるものであろう、如何なる褒賞が正しいかのう?」

王は上機嫌でたずねてくる。


しかし、国には既に与えれる物などないという事に誰も気付いていない。


「ここはアベル殿に子爵に相応しい

領地を与えるべきかと。」

軍務大臣のルーデルも王の意を得たように話すが、そのような領地どこから持ってくるというんだ。


「ルーデル殿いったい何処を与えるというのですか!」

「そうですな、彼の関係者にオウカ国の者がいることを考えると海沿いのこのあたりはどうでしょう。」

ルーデルが示したのは、貿易が盛んな海沿いの裕福な地域だった。其処を与えると収入が激減してしまう。


「その地域を与える事は国家として出来ません、せめて山間のこの辺りなら。」

私はあまり裕福ではない、レーン帝国との国境を示す、ここなら英雄として相手を牽制出来るし、収入の減少も少なくてすむ。


しかし、王はこれを認めなかった。

「オットーよ、これでは左遷ではないか、アベルが納得するまい。もっとよい土地はないのか?」


しかし、何も得ていないのに何処から持ってこいと?

その後もいろいろ話し合いを行ったが、私は全て財務の面から拒否をしていた。

結局本人の望む物を渡すという事で会議は終了していた。


当日、私はアベルが何を要求してくるか不安で仕方なかった。

陛下は目をかけた平民が活躍して殊更嬉しいのだろう。多大な褒賞を与えたいのがよくわかる。

そして、ルーデルも勝手な戦争を後押しした軍部の失態を隠す為にも英雄を擁護して、関係ない振りをしようとしていた。

私は味方のいない戦いに挑むようだった。


しかし、彼は私の気持ちを知ってか、多大な恩賞を望まなかった。ランスロットの命乞いとオウカ国への個人訪問、実に素晴らしい。

彼が恩賞を手にしなければ、他の恩賞も押さえる事が出来る。

私は頭の中で計算を行い、いくら浮くかの概算を出そうとしていたが・・・


ここで王は魔剣グラムを授けると言い出した。


その剣は・・・

かつて建国の際、王の友として前線をかけ、多大な功績のあった英雄、シグルド・フォン・ジークフリード

我が家の祖先である。


シグルドは老いて戦いに出れなくなった時、剣を王に預け、国の為、必要な時にこの剣を英雄に渡すように頼んだ。


かつては我が家も武門の家として剣を受け取れるように努力してきたが、

祖父の代から、国を救うには剣ではなく筆の時代だ、と財務の仕事に付き、国を支えてきた。

それなのに、我が家に話も無く、人の手に、ましてや平民上がりに渡すとは・・・

私の中にフツフツと怒りが沸き起こる。


・・・気が付いたら、アベルから剣を巻き上げていた。

彼は不満な顔をしたもののアッサリ渡した所を見ると剣の価値を解っていなかっただけだということがわかる。


冷静に考えると私がした事は許されぬ行為だ。

それに非があるのは与えた陛下であって、彼はただ剣を受け取っただけだった。

しかも、そのまま、剣を返してもいる。


「いかんな、彼には酷い事をしてしまった。後で御詫びの品でも贈るか。」

オットーは家に伝わる名剣の1つを謝罪として贈る準備をする。

しかし、

其処に陛下の呼び出しがあり、幽閉の身となった。

「誰か、この国を救ってくれ・・・このままだと国は・・・」

牢で呟くオットーの声は誰にも届く事はなかった。



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