第69話 王の苦悩
「父上、お話したい事が。」
ユリウスはユミナの後、港を調べ、アベルが出ていったこと、ユミナが付いていった事の確認を取ったあと、ハインリッヒに報告する。
「ユリウス、今は忙しいのだ、後にしてくれんか?」
「いえ、その話と関係があります。」
「なんだ?言ってみろ?」
「アベルさまがオウカ国に向かい出発いたしました。ユミナもそれに着いて行きました。」
「何!本当の事か?」
「はい、港に確認を取りました。」
「何故だ、何をそんなに急いで・・・」
「港を去るときの話によると、国の対応に不満があると言っていたようです。」
「なに?何に不満があったんだ?元々褒賞もいらないようだったのだが?」
「わかりません、ですが調べてみるべきかと。」
「わかった、だがまず王に報告してくる。」
ハインリッヒが城に着いた時には
アベルが出ていった事が王の元に届いていた。
「アベルは何が不満だったのだ?やはり褒賞が少なすぎたか・・・」
王は頭を抱えていた。
「陛下、その様子ですとアベル殿の事をお聞きになりましたか?」
「うむ、今、そなたを呼ぼうと思っておった所だ。アベルから何か聞いておらんか?」
「いえ、屋敷に帰らずそのまま出発したようでございます。」
「そこまで不満だったのか?一体何が・・・やはり褒賞が少なすぎたか。」
「いえ、アベル殿は褒賞に興味はあまり無さそうでした。」
「では、一体何が?ワシは何か間違った事をしたのか?」
悩む王にハインリッヒが感じた事を話す。
「付き合っていた感じだと、欲はあまりなく、不義理を嫌う様子でしたが・・・」
そして、王は不思議そうに頭を抱えている。
「不義理?しかし、何もしておらんぞ、ランスロットの事はアベルからの申し出を受けたし、望みの出国も認めていた。あとは宝剣を授けたぐらいだが?」
ハインリッヒが考えていると、ふと気になった。
「・・・まさかと思いますが宝剣グラムを取り上げたりなんかは?」
「もちろん、しておらん。
そんな恥ずかしい真似を出来る筈がないだろう。」
「そうですよね、これは失礼しました・・・」
二人はあり得ない話に笑うが・・・
「ハインリッヒ、付いてまいれ。確認しておく。」
「はい、まいりましょう。」
二人で宝物庫に向かい、兵士に聞く。
「確認だが宝剣グラムはあるか?」
「はい、今持って参ります。」
兵士は普通に取りに行く。
「・・・ハインリッヒよ、あの兵士は勘違いしておるのだよな?」
「そう思いたいのですが・・・」
兵士はすぐに戻ってきて、剣を差し出す。
「此方になります。」
「何故だ、何故この剣が此処にある!」
王の剣幕に兵士は怯える。
「答えんか!」
「陛下が取りに来られたあと、オットーさまがお返しに来られました。」
「なに?オットーがなぜだ?」
「わかりません、陛下の御命令ではないのですか?」
「この剣は本日アベルに授けたのだ。」
「えっ、それでは何故ここに?」
兵士は戸惑いの色を隠せない。
「わからん、オットーで間違い無いのだな?」
「はい、間違いなくオットーさまがお持ちになり、私が保管しました。」
「・・・」
あまりの事態に王は声がでない、
「オットー伯を呼べ。今すぐにだ。」
何とか絞りだした声はオットーを呼ぶことだった。
「陛下、御呼びとあり、参りましたが。夜分に如何なる要件にございましょう?」
「オットー伯、そなたに問いたい事があるのだ。」
「何でございましょう?」
「おまえはアベルから宝剣を取り上げたのか?」
「いえ、取り上げてなどおりません。」
「じゃあ何故宝物庫にグラムがあるのだ!」
「それは王宮で管理すべき宝物だからです。」
オットーは何でもないように話始める。
「なに?」
「あの男は宝剣グラムを使用すると言ってたのですよ、そんな男に宝剣を預けていたらどうなる事やら・・・
そんな事で宝剣が傷むぐらいなら王宮にて管理すればいいでしょう。
私が本人に確認して、宝物庫にしまっておきました。」
「おまえは何をしたのかわかってるのか?」
「何か問題でも?」
「ワシが授けた宝物をお前が奪えば、意味が無いであろう!」
「何を言ってるのです、所有権はアベル殿が持ってるのだか、陛下が授けた事に変わりはないはず。」
「お前は何を言っている?百歩譲ってそれが正しいとしても、何故ワシに確認を取っておらん?」
「財務は私の担当です、たとえ陛下であらせられても、無駄な損失は防ぐべきかと。」
「答えになっておらんわ!」
「陛下、宝剣グラムはあまりにも価値がありすぎでございます、アベル殿に宝剣グラムを授けて、他の将校達の褒美は如何になさるのですか?今の国の状況を解っておられますか!」
「わかっておる、だからこそ、国を纏める英雄が必要なのであろう。」
「そのような者は必要ありません!必要なのは内政を理解するものです。」
王は頭を抱える、財務を任せる程信用していた貴族がまさか自分の主義の為に王たる自分の命令を無視するとは思ってもいなかった。
「陛下、理由はどうあれ、この者のしたことを許す事は出来ません。ここで処罰しても宜しいですか?」
ハインリッヒは静かに怒っていた。
「ならん、裁くなら公の場にて裁く。この者を引っ捕らえよ!」
兵士はオットー伯を捕まえる。
「陛下!なぜ!」
「何故ではないわ!お前のせいでアベルが国を出た!この始末どう付ける気だ!」
「国を?さすれば指名手配にすればよろしいではないですか、ただの平民が国に逆らうなど、それこそ許される事ではないはず。」
「・・・お前と話すと頭が痛くなるな、アベルは国を出る許可は取ってある。しかし、いつ帰ってくるかの話はしておらん。もし、このまま帰ってこなくても国に逆らった事にはならん。」
「さすれば陛下の御命令で帰国させれば良いのです。逆らえば国賊として引き渡しを求めればよろしいでしょう。」
「もうよい、この痴れ者を連れていけ。」
「陛下、何故!御再考を!」
オットーは連れていかれながらも自分は間違っていないと騒ぎ続けていた。
王はハインリッヒに頭を下げる。
「ハインリッヒよ、すまん。ワシが与えた物のせいでアベルが出ていってしまった。」
「陛下、諦めるのはまだ早いかと。」
「なに?」
「娘が・・・ユミナがアベル殿に付いて行きました。情か義理かはわかりませんが同行を許されていることを考えるとすぐに縁を切るつもりは無いものと思われます。
あとはユミナの頑張り次第とは思いますが。」
王は少ない情報からいち早くアベルの動きに気付き、追いかけたユミナに感心する。
「お主の娘は優秀じゃの、時間も無かった筈なのに、よくぞ付いて行けたものだ。」
「自慢の娘にございます。あとはオウカ国に使者を送りアベル殿の誤解を解き、あと事情を説明する必要があると思われます。」
「うむ、すぐに使節団を準備いたそう。」
王は今度こそ人選に間違いがないように、慎重に選ぶのであった。
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