第68話 アベル、国を出る。
謁見が終わり、
ユミナはハインリッヒの所に行っており、
特にやる事もなく、居場所も無かったので先に帰ろうとすると。
「アベル殿、少しいいですか?」
財務大臣オットーが声をかけてくる。
「なんでしょう?」
「アベル殿が授けられた宝剣グラムですが、どうなさるつもりですが?」
「どうって、剣だし使いますよ。」
オットーは信じられないという顔をして。
「それはいけません。これは失われてはいけない宝剣なのです、管理は国が行うべきです。」
「というと、国に返せといいたいのですか?」
「いえ、国に預けろと言いたいのです。」
「同じことだろ?まあいい、ほら、持ってけ。」
俺は無造作に剣を渡す。
「あなたは!この剣の価値をわかってないのですか!」
「知らん、もういいか?」
「ええ、結構です!貴方がいかに野蛮な人間かわかりましたから以後の付き合いは遠慮したいものですね。」
「それは此方のセリフだ、二度と話しかけてくるな!」
俺は不機嫌になり城を後にする。
横を歩くサイゾウが聞いてくる。
「アベルさま、剣を返して良かったのですか?」
「さあ?剣に思い入れはないけど、貰った剣を返せなんて言われると気分は悪いよな。」
「たしかにアベルさまを侮辱してるとしか思えませんね。」
「だろ?これでも、国には尽くしたつもりだったんだが・・・」
サイゾウはアベルの不満を見抜き、提案する。
「アベルさま、どうでしょう、このままオウカ国に参りませんか?」
「えっ?」
「国王の許可もいただいたのでしょう。もう向かっても問題はないはずですよね。」
俺は悩むが・・・
「・・・船の準備は?」
「出来ております。」
「家族も連れて行けるかな?」
「お任せあれ、すぐに準備を整えます。」
「よし、じゃあこのまま港に向かおう。家族を頼む。」
「お任せを、サスケ!」
「ハッ!」
何処にいたのか、サスケが急に現れる。
「聞いていたな、御家族を船までお連れしろ。くれぐれも丁重に!」
「ただちに!」
サスケの姿が消える。
「さあ、アベルさま、あやしまれないようにゆっくり向かいましょう。船につく頃には出発出来ますから。」
俺はサイゾウと不満を隠しながら、港を目指す。
俺が港を目指している頃、オットーは剣を宝物庫に返却していた。
警備兵はそのまま受け取り倉庫にしまった。
兵士はこれがアベルに授けられた物とは知らずに。
その日の夜、ローエン公爵家は大騒ぎであった。
アベルが城から帰って来ないのである。
ハインリッヒは最初は寄り道しているだけだと、考えていたが、夜になっても帰ってこず、しかも、家族の姿も無かった。
「何があったんだ?」
ハインリッヒは夜になり、調査を始める。
この時点でアベルが出ていくとは考えていなかった。他の貴族の妬みによる襲撃を心配しており、貴族の動きを重点的に調べていた。
一方、ユミナはハインリッヒと違い、すぐに行動を開始した。
屋敷に帰った時にアベルの家族がいない事に気付いたユミナは急ぎ港に向かう、屋敷を出るとき、ユリウスに会ったので、
「お兄様、アベルさまが出ていった可能性があります。私はこのまま港に向かいますが、もしかしたら、そのままオウカ国に行くかもしれません。」
「ユミナ、急に何を?」
「時間がありません!違えばいいんです、もしそうなら、いつ出発するかわかりません。お父様にもお伝えください。」
「わかった、ユミナを信じる。思った通りにやるといい、後の事は僕がしておくから。」
「ありがとうございます。お兄さま失礼します。」
ユミナは慌てて出ていった。
「ユミナの考え過ぎならいいんだが。」
ユリウスは心配していた・・・
港では、
「ただちに出航するぞ!」
「至急乗り込め、遅れる奴は後便に乗れ!アベルさまと帰国するものは急げ!」
オウカ国の人達は慌てて乗船する。
そして、アベル達を待つ、
まずアベルの家族が着く。当然のように丁重に迎えられ船に乗る。
そして、時を同じくしてアベルも着いた。
「アベルさま、さあ此方に。」
俺はクキに案内され船に乗る。
出航する手前で・・・
「待ってください!待って!」
ユミナが馬に乗り、タップを駆け上がってきた。
「ユミナ!」
「はぁはぁ、間に合った、アベルさま、オウカ国に向かう時は一緒に連れて行ってくれる約束では?」
ユミナの訴えに、
「勝てないな、わかったユミナも行こうか、でも、いいのかい?頭のいいユミナならわかってると思うけど、国に帰れないかも知れないよ。」
「わかってます、でも、一緒に行きたいのです。」
「じゃあ、行こうか。」
「でも、後でいいので理由は教えてくださいね。」
「うん、いいよ。船旅は長いし、その時にでも話そうか。」
サイゾウがたずねてきた。
「アベルさま、出航しますがよろしいですか?」
「うん、出してくれ。」
「出航だぁー!アベルさまを連れて帰るぞ!」
「「おおお!!!アベルさま万歳!」」
船から歓声が上がる。
その声を聞いた港の人が異変に気付く。
「おい、アベルさまって騒いでないか?」
「オウカ国の奴等が全員いないぞ。」
「おい、さっきアベルさまが乗ってなかったか?」
「まさか!」
「アベルさま、お戻りを!!」
船は出航を始め、丘から止めるすべはなかった。
俺は顔を出し、
「みんなにはよくしてもらって申し訳ないが、国の対応に不満がある!戻って来るかはわからない!みんな、健勝にすごせよ!」
船は無情にも陸を離れて行く。
俺は陸のみんなに手を振り、船に戻った。
残された港の人間は・・・
「アベルさま!!」
「おい、国に問い合わせろ!」
「アベルさまに何をしたんだ!」
あわただしく動き出した。
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