第67話 王都に凱旋

家族をエンに呼んでからしばらくがたったある日、

俺はハインリッヒに呼ばれる。

「アベル殿、そろそろ王都に凱旋する事になった。」

「王都に帰るのですか?」

「うむ、陛下が帰ってこいとうるさく言ってきてな。」

「結構居心地良かったんですけどね。」

「そう言ってもらえると嬉しいものがあるな、また、いつでも来たらいいから、1度王都に向かおうか。」

「はい。」


そして、俺達は王都に向かう。俺は家族を馬車に乗せ自分は馬に騎乗していた。


騎士の多くは凱旋を見込んで鎧を新調しており、整然と隊列を整えていた。

そんな中、俺の周囲を誰が囲むかが問題となった。


ハインリッヒはエンの騎士を周囲に配置しようとしたのだが、俺がオウカの人達を配置していたからだ。


「アベル殿、王都に入る時だけでいいから、エンの騎士を傍に置いてくれんか?」

「ハインリッヒさま、この戦、オウカの人達のお陰で勝てましたし、私自身オウカの人と共に戦いました。此処に来て近くから外す等、そんな不義理な真似は出来ません。せめてジャックかヨシモリなら傍に置いても問題なかったのですが。」


ジャックはノースの町の防衛に残り、ヨシモリはエンの町に残っていた。

俺はヨシモリも連れて行きたかったのだが、ヨシモリの過去を知る騎士達からの反対と日の当たる所を嫌がった本人の意思で残る事となった。


「ぬぅ。」

「それに俺の傍に置いてどうするのですか?中心はハインリッヒさまではないですか。」

「何を言っているんだ、確かに中陣で入場するのは私だが一番の注目は後陣のアベル殿だ、その周りに我が国の騎士がいないのは・・・」


オウカの人達の鎧は一目でわかるほど作りが違っていた。

しかも、エンで鎧が作れなかった為に修理をしてはいるがかなり傷んでおり、激戦の跡を感じられるものだった。


「ハインリッヒさま、こればかりは聞けません。そのような不義理をする為にハインリッヒさまを助けに行った訳ではないのですから。」

頑なに拒否する俺を見てハインリッヒは折れた。

ただ、1つだけ条件をつけられた、それは・・・


「アベルさま、この後入場ですね。」

「そうだね、今からでも遅くないよ、馬車に移らない?」

「嫌ですわ♪一緒に入場して、みんなに見てもらいましょう。」

ハインリッヒが出した条件はユミナを馬に乗せて一緒に入る事だった。


王都は盛り上がっていた。

敵国の脅威から国を守った軍の凱旋だ。

大通りを歩く軍を見て歓声をあげる。

「ハインリッヒ公爵様!」

「ユグドラシル万歳!」


そして、俺が入場する。

「あれがアベル将軍か・・・」

「さすが、英雄、軍勢も精悍なものが・・・」

他と違い激戦の跡を見せる軍勢に息を呑む、

しかし、それも歓声に変わっていく。


「アベルさま!」

「救国の英雄さま!こっちを見てください」

「異国の人よ我が国を守っていただき感謝します。」

「さすがアベルさまの直属の方達だ、他と雰囲気がまるで違うな。」

町の歓声にオウカの人達も嬉しそうに歩いていた。


「アベルさまの馬に乗っている方がユミナさまか?」

「仲がよろしいのですね。」

「国を救う為に一緒に行ったと聞いていたが本当だったのか?」

「アベルさま、ユミナさま万歳。」

「どうかお幸せに!」


何故か違う歓声も混ざっていた。

そこにサイゾウが馬を寄せて来る。


「ハインリッヒさまにやられましたね。」

「えっ?何が?」

「王都の人にユミナさまとの仲を見せつけ、既成事実にするつもりですよ。」

「あら、サイゾウさま、私はアベルさまの婚約者なのですから、事実を見せてるだけですよ。」


サイゾウは悔しそうに、

「くっ、これでは我が国に取り込む前に・・・」

「アベルさまはユグドラシルのそして私のものです。」

ユミナはサイゾウに勝ち誇ったようにしていた。


「サイゾウさん、王都で落ち着いたらオウカの国に行くからもう少し待ってて。」

「はい、よろしくお願いします。なるべく早く・・・」

「そうだね、物凄く世話になったからお礼は早い方がいいね。」


「アベルさま、私も一緒に行っていいですか?」

「いいけど、ユミナはいいの?」

「構いませんよ、お父様から許可もいただいてますから。」

「そうか、なら一緒に行こうか。でも、船旅だから、きっと大変だよ。」

「それはアベルさまも同じですよね。」

「うん、まあね。」


俺達は手を振りながら、他愛のない話をしていたら城に着いた。


城の中に入ると主だった者を連れ謁見に向かう。

向かうのは俺とユミナ、サイゾウだった。


俺達は陛下の前に跪き、俺は任務の報告を行う。

「このたび、拝命した、援軍の任、無事果たして来ました。」

「うむ、よくやってくれた、ご苦労。何か褒美の望みはあるか?」

「いえ、既にランスロットさまの助命という褒美をいただいておりますれば、これ以上は必要ありません。」


しかし、王として家族の問題の尻拭いをアベルにさせるだけの褒美は問題しかなかった。


「う、うむ、しかし、救国の英雄に何も出さんわけにもいかん、何か無いのか?」

「さすれば、早急にオウカ国に行く許可をいただきたく。」

「何、オウカ国に?」


王は冷や汗を流す。

王子の尻拭いをさせる為に戦争に行かし、褒美は更に尻拭いをさせる。

このような国に愛想をつかされたのでは無いかと不安がよぎる。


「はい、このたびの戦争でオウカ国の人達に助けられました。彼等の望みが私の訪問ということですので早急に叶えたいのであります。」

「う、うむ、それでは使節団を派遣いたそう。アベルはそれの一員ということでどうだ?」

王は必死に妥協点を探す、使節団ならある程度監視も出来るだろと、しかし、アベルは監視を嫌った。


「出来るなら個人として参りたいと思います。使節団なら個人行動に規制が入りますので。」

「な、ならば仕方無い、許可をだそう。」

「有り難き幸せ。」


王は折れるだけだった、そもそも、黙って向かっても問題は特に無いのだ、それを褒美の形で既望されれば、断る術はない。

王が肩を落としていると、


軍務大臣のルーデル伯が王に提言する。

「陛下、それだけだとあまりにも褒美が無さすぎます。彼は救国の英雄なのです。ちゃんと遇しないと他国に走られたら如何なさるのです。」


「おお、ルーデルよくぞ言った。そうである、我が国は英雄に報いねばならぬ。

アベルは欲が無さすぎる、誰か適正な褒美はないか?」


財務大臣のオットー伯が口を挟む。

「恐れながら、此度の戦、土地を得た訳でも戦勝品を得た訳でもありません。財務を預かる身からは多額の褒賞は控えるべきかと。」

「ならば、褒賞を無しにせよと貴殿はいうのか!国の為に命をかけて来たのだぞ、財務の話とは別であろう。」


王が口を出す前にルーデルが怒り出す。

「何をいうのか!財務が健全でなくしてどう国を動かすのだ、戦争に勝っても国が滅びたら意味が無いのだ!幸い英雄殿の望みは全て叶えたのだから、これ以上は不要でしょう。」

「なに!」

「それに、英雄殿の褒賞が低ければ、他の将校達も褒賞も押さえる事が出来ます。これは願っても無いことです。」

「お前は命をかけた者達になんという言い草だ!」

ルーデルは激昂して今にも掴みかかりそうだった。


「静まれ!!」

言い争う二人は黙る。

「確かに財務の言うことも一理あるが褒賞は別とする。しかし、此度だけはワシの財産から褒美といたそう。宝剣グラムを授ける」


「なんと、グラムを授けるのですか?」

ルーデルは驚愕する、

宝剣グラムとは建国時、王の親友にして軍を率いた、英雄シグルドが持っていた剣である、その価値は計り知れないものがある上、栄誉としても最高のものだった。


「うむ、我が国一の剣だ、今代の英雄が持つのに相応しかろう。アベルよ、受け取ってくれるか?」

「はっ、身に余る光栄です。」

王は少し席を外し、グラムを持ってきた。

「アベルよ、よくぞ国を救ってくれた。この剣を授ける。今後もこの剣で国を救ってくれ。」

俺は剣を受け取った。

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